2002年9月12日 東京文化会館 大ホール

クレジット

振付・台本改訂:コンスタンチン・セルゲイエフ/原振付:マリウス・プティパ/音楽:アドルフ・アダン、チェザーレ・プーニ、レオ・ドリープ、リッカルド・ドリゴ、オリデンブルク公爵/演出:アンナ=マリー・ホームズ/装置・衣装:イリーナ・コンスタンイノヴァナ・チビノワ/衣装デザイン補足:ロバート・パージオラ/照明:メアリー・ジョー・ドンドリンガー
指揮:デイヴィッド・ラマーシュ/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

コンラッド:イーサン・スティーフェル
ビルバント:ホアキン・デ・ルース
アリ:アンヘル・コレーラ
ランケデム:ホセ・マヌエル・カレーニョ
メドーラ:ジュリー・ケント
セイード・パシャ:イーサン・ブラウン
ギュルナーレ:パロマ・ヘレーラ
海賊の女:エリカ・コルネホ
オダリスク:マリア・リチェット、ミシェル・ワイルズ、ジリアン・マーフィ
フォルバン:エリカ・コルネホ、ホアキン・デ・ルース


感想

ABTらしい派手でにぎやかなバレエをたっぷり楽しんできた。オーケストラは東京フィル。ここの演奏でバレエを見るのは初めてだったけど、かなりよい音で好印象。指揮者だけABT側の人で、その分ダンスと音楽のズレも少なかったと思う。やっぱり指揮者って大事だよなぁ、と実感。

このバレエのDVDの中で彼らは言う。「ストーリーなんてどうでもいいんだ。『海賊』はダンスを楽しむものなんだよ!」と。いやーん、もうアメリカ的で笑ってしまう。たった105分のステージが3幕ものになってしまうのは、海賊船上→奴隷市場→洞窟→総督の宮殿→総督の夢の中の庭園→また総督の宮殿→海賊船上→岩の上・・と、めまぐるしく舞台が変わるからに他ならない。いや、舞台だけじゃなく、主役と準主役の女性の衣装もかなり変わる。その分だけ話もややこしい。だいたい、主なキャラクターだけで6人もいる。んー、ちょっと多くない?

奴隷売人はDVDではマラーホフがいかにも「煮ても焼いても食えない悪徳商人」を演じていた。ホセ・マヌエル・カレーニョの売人は、もうちょっと真面目な売人風。人がよさそうで(なんたってカレーニョって楽しそうに踊るし)「たまに勘定とか間違えちゃうかも」って印象。技あり!みたいなわかりやすいダンスで、パロマ・ヘレーラを片手でリフトしちゃう。これにはびっくり。

大きなお目々のパロマは総督に売られた奴隷グルナーラ。小柄だけど体の柔らかさで自分の周りの空間を使っていく感じ。技術もさすが。主役(メドーラ)のジュリー・ケントの方は、もう立ってるだけで見事な華やかさ美しさ。手足も長いしね。ピルエットとかも割とゆっくりで技で魅せるって感じではない人だけど、空間の使い方が優美。パロマと2人で踊るシーンは息もぴったり。2人の周りの空気が柔らかった。

コンラッドの友人ビルバントはホアキン・デ・ルース。笑顔のかわいい人なのにちょっと悪役。海賊の踊りは、もうすっかり体に馴染んじゃってるみたい。一緒に踊ってたエリカ・コルホネと息もぴったり。それにしてもラテン系ダンサーのバネってすごい。両手に拳銃をもって、順番に発砲するシーンがあるんだけど、後に引き金引いた時に音がしなかったのね。「ぉわっ」って彼のびっくりした声が聞こえて笑ってしまった。そりゃあびっくりするよねぇ。海賊たちの中にはサシャ・ラデツキーもいたので、チェックチェック。彼がビルバントを踊る日も見にいきたかったなぁ。

メドーラと恋におちる海賊の親分コンラッドがイーサン・スティーフェル。待ってました〜!ちょっと髪が伸びててサラサラ金髪。どうだーっ!と踊るダイナミックさが売りだと思っていたけど、その上けっこう丁寧に踊るので、すっかり見とれてしまった。たぶん、私の目はハートになってたと思う。表情を見てるだけでも飽きません。第3幕で、裏切ったビルバントを拳銃で撃ち殺すシーンがあったのだけど、ここでもアクシデントで発砲音がしなかったの。撃ち殺すことができなくなったので、とっさのアドリブかバックアッププランかわからないけど、ビルバントを捕まえて後頭部を拳銃でゴツンとして倒していたのにも、ちょっと笑った。

たぶん、この日会場にいた人の半分以上のお目当ては、アンヘル・コレーラだったんじゃないかしら。彼が踊る奴隷・アリは、一番たくさんの拍手とブラボーと黄色い声をもらっていた。それに値するすさまじい踊り。2幕のパ・ド・トロワでは、スティーフェルもケントも、コレーラの引き立て役って感じだったもの。何なの、その回転技は!みたいな。もう、パ・ド・トロワで出て来たとき、顔が全然違うんだもん。目がカッと開いてて「いくぞっ、やるぜっ!」。圧倒されました。ルジマトフのアリが好きな人は、憂いも影もないコレーラのアリは違うと思うんだろうけど、ABTの海賊には元々憂いも影もないんだから、超絶技巧のコレーラでいいのよね。いやはや、すごかった。

この6人以外に会場を沸かせたのが1幕のオダリスク(3人の奴隷の踊り)の一人。ジリアン・マーフィだと思うけど、3回転か4回転のピルエット入れてて、会場がどよめいたもんね。もちろんブラボーの嵐。

まぁ、とにかく楽しませるバレエだったことは確か。初めてみたバレエがこれだったとしても、じゅうぶん面白かったと思うよ。コミカルなマイムと派手でわかりやすいダンスとで、筋のわかりにくさとか小道具のまずさやコール・ドの揃わなさとかをぜーんぶ吹き飛ばしちゃった。私、これはこれで大好き!