2002年9月19日マチネ 東京文化会館 大ホール

クレジット

振付:ロナルド・ハインド/制作:サー・ロバート・ヘルプマン、ロナルド・ハインド/原台本:ヴィクトール・レオン、レオ・シュタイン/音楽:フランツ・レハール/編曲:ジョン・ランチベリー/装置・衣装:デズモンド・ヒーリー/照明:マイケル・ウィットフィールド/振付補佐:アネット・ペイジ、ジョン・ミーハン
指揮:オームズビー・ウィルキンズ/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

ハンナ・クラヴァリ(ポンテヴェドロの裕福な未亡人):ジュリー・ケント
ミルコ・ツェータ男爵(駐仏ポンテヴェドロ公使):ブライアン・リーダー
ヴァランシエンヌ(公使布陣):シオマラ・レイエス
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵(公使館筆頭書記官):アンヘル・コレーラ
カミーユ・ド・ロシヨン(公使館員):ゲンナジー・サヴェリエフ
ニエグシュ(公使の個人秘書官):エルマン・コルネホ
ポンテヴェドロ人のダンサー:ホアキン・デ・ルース
マキシムの支配人:ホアキン・デ・ルース


感想

このバレエも一幕(ひとまく)が短い、そして舞台装置と衣装がゴージャス!な演目だった。国の財政危機を救ってくれるかもしれない、巨額の遺産を相続した未亡人と、身分違いで別れさせられた昔の恋人、その2人を中心にした2つの恋(ん、3つか)を絡めたラヴ・コメディ。同名のオペレッタと筋は同じ、だそーだ。

舞台はパリなのだけれど、架空の王国の人たちが主人公なので2幕目の民族舞踊が目をひいた。それに、マキシムを舞台にした第3幕のフレンチカンカンも。でも、その場の空気はやっぱりパリじゃなくアメリカっぽかったような。27年くらい前の比較的新しい振付のせいか、民族舞踊や回想シーンなどもストーリーに無理なく織り込んであった。「何でここにこの踊り?」と突っ込みたくなるバレエってあるもんね。

その回想シーンで、今は大金持ちの未亡人ハンナは農家の娘に戻るのだが、衣装が「ジゼル」の第一幕を彷彿とさせるものだった。身分違いの恋をして愛する人と引き裂かれたジゼルは半狂乱となった末に息絶えるのだけど、同じような失恋をしたハンナはその後資産家と結婚して未亡人になる。ある意味正反対のヒロインだよな、と。

全体的に説明調のマイムが多いような感じはしたけれど、彼らの表情が豊かなのでそれさえも楽しめた。元々の振付のおもしろさもあるだろうし、芸術監督のケヴィン・マッケンジー(客席にいた彼はさすが元ダンサーだけあって気品あるお姿だった)の手腕や演じる彼らの「役者加減」も加えての、これが「ABTらしさ」かも、と思って見ていた。

豪華な衣装や舞台装置と共に、レハールの音楽も華やかだった。演奏する東京フィルは、今回のABTツアーで本当に質の高い演奏を聴かせてくれたので、ワタシ的に大満足。

踊り手に関して言えば、ジュリー・ケントはゴージャスな衣装も着こなすし雰囲気はバッチリ。技が売りというより、その長くて綺麗な手足をいかした優雅な踊りが素敵なのだよね。相手役のコレーラがスピード感たっぷりなので、つい他のダンサーだったらどう踊るか、と考えてしまう。フェリもニーナも見たかったけどね。

コレーラは白髪交じりの髪に髭をつけて出てきたので、一瞬「誰?」って感じ。酒に酔ってのダンスはコミカルで、技巧系もイケルのね。ケントとのパ・ド・ドゥはエレガントだったし、回想シーンと同じに、後ろからハンナがハンカチを首にかけたときの表情にはキュンとした。ふー、やっぱすごいダンサーだわ。

シオマラ・レイエスは、たぶん私が見た日では初めて出てきた人だと思うけど、体つきや踊りの感じがヴィヴィアナ・デュランテを彷彿させた。体も柔らかいし。デュランテはまだ生で見たことがないので、映像で見た印象だけれど。ダンスも綺麗だし、表情も豊かで可愛らしかった。

ゲンナジー・サヴェリエフもコレーラに負けないくらいのスピード感あるダンスが印象的。それに演技の方もなかなか。妻を取られた男爵役のブライアン・リーダーは、無理して踊って腰を痛める仕草や他の人に好意を寄せる妻の気持ちを尊重する淋しさを表して観客を笑わせたり泣かせたり。この人の演技で、このバレエがずいぶん味わい深くなったのだと思う。

他に特筆すべきは、やはりホアキン・デ・ルース!3日間見て、すっかりファンになりました。笑顔がステキだしダンスはすごいし役作りも妥協しないし。今日はダンサーのリード役でパワフルに踊り(楽しそうでよいのよ、ホント)を披露してくれたし、マキシムの支配人としてもコミカルなマイムで笑わせてくれた。貴重なキャラだよなぁ。器用貧乏にならないでほしいぞ。

先日のガラ「眠り」で金の精を踊って注目を集めた「王子様系」デヴィッド・ホールバーグくんは、金髪で背が高くてスタイルもよくて踊りも綺麗だったので、今日も注目していたのだけど、どうやらリフトは苦手みたい?これでリフトが完璧なら、きっとスグにでもいい役が付くだろうに。で、群舞はこの彼ばかり追いかけていて、サシャ・ラデツキーくんの方は3幕まで気付かなかった。あ、出てたんだ!前回までムスッと踊っていたけど、今日は笑顔が見られてよかったよかった。決して線が細いダンサーではないのに、あまり目立たないんだよなぁ。惜しい、よい男なのに。

女性では韓国人のヤナ・カンという人が綺麗で目を引いた。ダンスも綺麗なんだけど。ABT唯一の日本人、加治屋百合子さんはまだ17歳くらい、今年の6月に日本人女性初のABTダンサーになった人。確か去年か一昨年くらいにローザンヌに出てたような。今回はコール・ドでほとんど目立たなかったけれど、この次ABTが来日する時には、役がつくところまで昇進してるとよいな。

そんな訳で楽しみにしていたABTもワタシ的にはこれでお開き。あー、楽しかった。