2003年6月14日 グリーンホール相模大野

「三人姉妹」

振付:ケネス・マクミラン/音楽:P.I. チャイコフスキー

マーシャ:シルヴィ・ギエム
イリーナ:エマニュエラ・モンタナーリ
オリガ:ニコラ・トラナ
ヴェルシーニン中佐:マッシモ・ムッル
クルイギン:アンソニー・ダウエル
ソリョーヌイ船長:アンドレア・ヴォルピンテスタ
トゥーゼンバッハ:ルーク・ヘイドン
ナターシャ:シモーナ・キエザ
アンドレイ・プロゾロフ:マシュー・エンディコット
チェブトイキン医師:クリストファー・ニュートン
アンフィーサ:ニコール・ランズリー
士官:ロス・クリスチャン・カーペンター、ギャヴィン・フィッツパトリック、サイモン・ウィリアムズ、フィリップ・ウィリンガム

チェーホフの戯曲を基にした1幕もののバレエ。元々ピアノとギター、マンドリンだけの音楽だけど、今回はフィリップ・ギャモンさんのピアノだけをバックに物語が展開します。ストーリーそのものが重い心理劇で、照明も押さえられているし派手なシーンもないのですが、ギエムとアンソニー・ダウエルの説得力のある演技に見ほれました。こういうダンサーがいなければ、いかにマクミランの振付といえど眠気を誘う舞台になってしまうかもしれません。そういう意味では今回の3作品は全て、ダンサーを選ぶ演目であることは間違いないようです。


生オーケストラの演奏だと舞台に夢中になると音楽を意識することはなくなるのですが、ギャモンさんのピアノは意識に残ります。決して舞台に夢中になれないからではなく、演技の1つ、ダンサーの1人のように、ギャモンさんの奏でる音が舞台を構成する一部になっているからなのでしょう。英国ロイヤルオペラハウスの協力で作り上げられた作品を日本の相模大野で堪能できる幸せをかみしめました。

この作品は1992年にオリジナル・キャストによって映像化されていて、オリガ役のニコラ・トラナ、クルイギンのアンソニー・ダウエルをその中でも見ることができます(ピアノ演奏はそちらもフィリップ・ギャモンさん)。

ダウエルとギエムの年の離れた夫婦の心理描写が秀逸でした。夫の妻を愛するがために強く出られない切なさ、妻が夫よりも情熱的な中佐に惹かれていく様。特にダウエルはすばらしかったです。こんなに愛されてるのに、妻は彼との結婚生活がイヤになっているなんて切ない話です。妻=ギエムが愛するようになる中佐はマッシモ・ムッルで、私は初見だったのですが、何というかすーっと違和感なくその場に入り込める人だなと思いました。ダウエルとギエムのインパクトが強すぎたせいかもしれませんが、私の席からでは、クレバーに見えるギエムの気持ちを奪ってしまうだけのムッルの情熱が伝わってきませんでした。ギエムがムッルから目を離せなくなる様子はとてもよく伝わっただけに、それと同じだけムッルの情熱がこちらに届かないと、ギエムが演じるマーシャがただの「夫に飽きた女」に見えてしまうんですよね。ちょっと残念でした。

任地に赴くムッルとギエムの別れのパ・ド・ドゥは胸を打ちましたし、三女と彼女に惹かれる将校2人のパ・ド・トロワなど難しいリフト満載のダンスシーン、そしてチェブトイキン医師の酔っぱらいのダンスという見所もあったのですが、全体的には踊りよりも心理描写に惹かれるバレエでした。ムッルが行ってしまった後に彼の残したコートを抱きしめて泣き崩れるギエムをみたダウエルが、そっと胸ポケットからピエロの赤くて丸い鼻を出して顔につけて妻の気持ちを紛らわそうとするシーンに胸が詰まりました。最後に三女のイリーナが婚約者を待つシーンで舞い降りる雪のシーンもよかったです。

「カルメン(特別ハイライト版)」

振付:アルベルト:アロンソ/音楽:ジョルジュ・ビゼー、ロディオン・シチェドリン/美術・衣装:宮本宣子

カルメン:斎藤友佳理
ホセ:首藤康之
エスカミリオ:高岸直樹
ツニガ:後藤晴雄
運命(牛):遠藤千春
女性ソリスト:早川恵子、小出領子
男:木村和夫、芝岡紀斗、後藤和雄、窪田央、平野玲、高野一起

2つ目は東京バレエ団によるハイライト版のカルメン。アロンソ版です。これは一昨年の秋に草刈民代がインペリアル・ロシア・バレエ団に客演したものを見ています。幕が開いてがっかりしたのは、舞台後方を半円形に仕切る闘牛場の壁がダンサーの身長より低かったこと。確かインペリアルバレエの時はあともう少し壁が高かったような気がするのですが・・・その壁の合間からダンサーが出入りすることもある訳で、「ああ、そこまでカルメンは屈んで移動するんだろうなー」と舞台裏に思いを馳せちゃうんですよね。これって観客にさせてはいけないことだと思うんですが、どうでしょうか。

カルメンの斎藤友佳理さんはアロンソに直接振りをつけていただいていたそうなので、踊りが自然でした。逆にそれが「男性の視線を釘付けにして離さない存在感のあるカルメン」という感じをさせなくて、どちらかというと母性などの女性の他の魅力を前面に出した、上品なカルメンだったように思います。ホセに刺された後のカルメンは母のようでした。

首藤くんのホセは実直な軍人がカルメンに惹かれていく様子が好演でした。踊りにもキレがありましたし、旬の華やかさと余裕が感じられました。カルメンを牢に入れることができず軍隊にいられなくなってしまったところは唐突でしたが、それは彼のせいではなく演出のせいだったように思います。高岸さんのエスカミリオもよかったとは思うのですが、何しろダイジェスト版だったので、魅力が伝わりきらなかったように思います。

ツニガの後藤晴雄さんはダンスシーンはそんなになかったと思いますが、存在感がすばらしかったです。その視線や表情の1つ1つがハマっていて、役者さんですねー。運命(牛)の遠藤さんもよかったと思います。が、インペリアル・ロシア・バレエの時のほとんど余分な肉のついてない長身で手足の長いダンサーの印象が強かったので・・・頭からすっぽりのタイツ姿を着こなせる日本人は、たとえバレエダンサーでもなかなかいないのかもしれませんね。

それにしても、前後にギエムの演目に挟まれてはちょっと気の毒な感じもありました。ダイジェストにせざるを得なかった点も不運でした。でも、悪かった訳ではなくて、この2つに挟まれたことが惜しかったですね。短い作品ですし、これを見るチャンスはなかなかなさそうなので、残念です。

「マルグリットとアルマン」

振付:フレデリック・アシュトン/音楽:フランツ・リスト/オーケストラ用編曲:ダドリー・シンプソン/デザイン:セシル・ビートン/照明:ジョン・B.リード
ピアノ:フィリップ・ギャモン

マルグリット:シルヴィ・ギエム
アルマン:ジョナサン・コープ
アルマンの父:アンソニー・ダウエル
公爵:クリストファー・ニュートン
マルグリットの取り巻き:ルーク・ヘイドン、アンドレア・ヴォルピンテスタ、マシュー・エンディコット、ロス・クリスチャン・カーペンター、木村和夫、ギャヴィン・フィッツパトリック、サイモン・ウィリアムズ、フィリップ・ウィリンガム
メイド:シモーナ・キエザ

原作は椿姫です。元々はアシュトンがルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンティーンの為に振り付けたものだそうで、フォンティーンの死後20年間封印されていたものだそうです。ギエムがそれを日の当たる場所に引き出したんですね。

幕が開いた時に、この前に上演されたカルメンの舞台装置がチャチかった訳がわかったような気がしました。確かに20分間の休憩の間にそれらを撤去して、この演目の装置を設置するのは大変な作業なのかもしれません。

アルマン役は、できればギエムとこの作品を上演して話題をさらったパリ・オペのニコラ・ル・リッシュで見たかったのですが、彼は6月7日の富山公演を最後に帰国してしまったので今日はロイヤルのジョナサン・コープでした。若くてお金はないけれど、情熱と愛情はたっぷり持ち合わせている、といった感じがよく出ていて、ジョナサン・コープってこんなに情熱的に踊れる人だったんだと思いました。踊りは文句なく端正でパワーもありますし、マルグリットをまっすぐ愛する純粋さも、裏切られたと怒るその強さも、彼女の死に泣きじゃくる様子も、全て直球勝負。これだけ生命力にあふれたアルマンだからこそ、死に至る病にかかったマルグリットは惹かれたのかもしれません。

まぁ、コープが好演すればするほど、ニコラだったら?と思わずにはいられないのですが・・・また見るチャンスが訪れることを祈ります。

三人姉妹の押さえた照明、カルメンのスペインの赤、そしてこのマルグリットとアルマンは、悲劇的なお話にもかかわらず、明るい白の背景の前で進んでいきます。場面の展開が変わることも多く、したがってギエムの衣装の早変わりもきっと大変だっただろうと思うのですが、華やかさと切なさとで見応えのあるステージでした。アルマンの腕の中でほほえみながら死んでいくマルグリットと子供のように泣きじゃくるアルマンにため息をつく幕切れでした。

実は三人姉妹もカルメンも椿姫も、ちゃんと原作を読んだことはないように思います。改めて読み直してみようと思った一夜でした。バレエはこうして世界を広げてくれることもあるのですね。