2003年11月2日 新国立劇場オペラ劇場

クレジット

振付:サー・ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ/編曲:レイトン・ルーカス、ヒルダ・ゴーント/演出:モニカ・パーカー、パトリシア・ルアンヌ/監修:デボラ・マクミラン/舞台装置・衣装提供:英国ロイヤルバレエ
指揮:バリー・ワーズワース/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

マノン:クレールマリ・オスタ
デ・グリュー:デニス・マトヴィエンコ
レスコー:小嶋直也
ムッシューG.M.:ゲンナーディ・イリイン
レスコーの恋人:湯川麻美子
娼家のマダム:豊川美恵子
物乞いのリーダー:吉本泰久
看守:山本隆之
高級娼婦(一幕):厚木三杏、西山裕子、寺島ひろみ、真忠久美子
高級娼婦(二幕):厚木三杏、大森結城、寺島ひろみ、西山裕子、真忠久美子
女優(一幕):西川貴子、鹿野沙絵子、大森結城、楠本郁子
女優(二幕):西川貴子、鹿野沙絵子、楠本郁子
紳士:奥田慎也、冨川祐樹、マイレン・トレウバエフ


感想

3キャスト目の「マノン」。最後なので、3日間見て気付いたことなども入れつつ。

オスタの「マノン」は意外と期待できそうだと思いながら出かけたのだけど、やはり彼女は「マノン」向きの様子。一番最初に出てきたところの衣装、ワンピースにマントとつばの広い帽子というたたずまいがすごく似合って人目を引く。帽子をちょっと斜めにかぶるのも愛らしくて。彼女は最初から、自分の魅力を十分にわかっているマノンだった。

小嶋直也は、幕開きに一人でスポットをあびてたたずんでるところに、もうちょっと何か訴えかけるものが欲しい気はしたけれど、気のいいあんちゃん。踊りもジャンプも美しいし、酔っ払いのソロもコミカルで、楽しんで演じてるのが伝わってきてこちらも楽しくなるというか。

今日の席が遠かったせいで今までと感じる印象が違うのかもしれないけど、今日のオスタと小嶋直也からは、今までの兄妹に感じた「らぶらぶっぷり」は感じられなかった。悪巧みしてる小悪党というよりは享楽的で目の前にぶら下がる金もうけのチャンスに飛びつく兄と愛は大切だけれど自分の魅力は最大限に生かさなきゃと思ってる妹、という感じ?

その2人にほんろうされるデ・グリューのマトヴィエンコは、今までの2人に比べたら、若い!美しい!大絶賛とはいかないけど、感情のほとばしる激しいデ・グリューで、そうそう、デ・グリューははこれくらい熱くあってほしい、と。1幕のソロも、3人の中では一番無難。もしかしたら、近くで見たらもっと気付くところもあったのかもしれないけど、ただ振りをこなしてた印象のテューズリーやウォルシュに比べて、踊りに感情がこもっていて。髪を伸ばすなど、ずっと準備してた甲斐があったんだねー、と嬉しかった。

寝室のパ・ド・ドゥのあと、レスコーとGMとのパ・ド・トロワは、オスタは最初から自分の媚態でいかようにもできると知っている人の表情だった。マノンって、ホントはこんなコなんじゃないかしら、って思ったけど。

GMの元へ行く決心をしてから、さっきまでデ・グリューといたベッドのところで物思いにふけるマノン、のシーン。フェリのそれは、跪いてベッドに顔をうずめてデ・グリューに心の中で詫びているのか、それとも自分の中で何かと決別しているのか、後ろ姿が語っていた。そして決然と頭をあげて、GMの手を取って出ていった。酒井はなの場合は、同じように跪いてベッドに寄り添ってはいたけど、それだけ。そしてオスタは、跪きもせずベッドの脇に立って思い出を反すうするようにシーツをすーっと撫でるけれど、その表情は「でも、仕方ないわね」といっているように見えた。GMの手を取って出て行く時も堂々としていたし。オスタのマノンっておもしろい。

2幕の、デ・グリューのカードいかさまがばれた時も、床にぶちまけたお金を娼婦たちが先を争って拾うシーン、オスタはそれに参加してたぞ。確か他のマノンはそこまではしていなかったような。ここでもまだオスタはお金が優先なんだよね。

レスコーが射殺されるシーン、他の日ほど兄妹愛が感じられなかったせいかあまりグッとこなかったなぁ。小嶋直也のレスコーは愛すべきあんちゃんだったので、きっとオスタからの愛情が薄く感じられたせいなのかも。そういう意味では、ずーっとデ・グリューに対する愛情も淡泊な感じというか。オスタってパートナーと影響を与えあって踊りが変わってくるダンサーじゃないのかも。

そういえばオスタ、看守に陵辱された後に与えられたブレスレット、デ・グリューが看守を刺し殺した時に投げ捨てていかなかったんだよねぇ。これって、まだお金にも未練があるってことなのかしら。それとも、投げ捨て忘れた?翌日は投げ捨てたそうなので、後者が正しい見解かしら。マトヴィエンコも無精ヒゲメイクで、ヘアはちょっと乱してたけど、あれは地毛だねぇ、かわいかった。

そして沼地のパ・ド・ドゥ。振付と音楽の持つ力というのも大きいのかもしれないけど、マトヴィエンコの熱情は胸を打ったよー。初役だし、彼はマクミランものはちょっともっさりすることがあると聞いてたけど、沼地はすばらしかった。もっと踊り込めば極上のデ・グリューになりそう。オスタともこの部分のパートナーシップはけっこうよかった気がする。

余談ではあるが、カーテンコールの時にもマトヴィはオスタしか見えてない感じで、ちょっと笑えた。たぶん自分の初日を無事踊り終えてすごく興奮してるんだろうなぁって思って憎めなかったけど。オスタは逆にマトヴィでさえ眼中にない感じ。フェリが初日、自分とテューズリーと指揮のワーズワースさんとでステージの脇に回って、新国立のダンサーたちをたたえて拍手してたのとは正反対で(まぁ、フェリはゲストで踊ることの多いダンサーだから行き届いてるのかもしれないけど)面白いシーンではあった。

ムッシューGMのゲンナーディ・イリインは怪演賞。ねちっこくて好色で、ちょっと得体のしれないおじさんでした。マノンとレスコー、デ・グリューにコケにされて頭に来て、レスコーを射殺しちゃうような感じの人だよなぁって思ったもん。こういう役を出来る人がカンパニーにいるといいよねぇ。

今日の看守役イルギス・ガリムーリンは、やっぱり尊大で好色で。でも今日はちょっとあっさりめだったかな。紳士や客、娼婦たちが集まるパーティでのカンパニーのダンサーたちは、それぞれあまりその役のようには見えなかったけれど、全体としてカンパニーのこの初演にかける意気込みが伝わってくる舞台ではあった。マノン、成功だったと思うよ。

ということで、新国立劇場にはぜひ早い機会に「マノン」の再演をお願いしたい。ダンサーたちは躍り込めばもっともっとよくなるだろうし、日本人だけの「マノン」も見たい。新国立劇場の全幕を見るのは初めてなのに、気付いたら私、けっこう新国ファンになっているかも。ゲストダンサーを手頃なお値段で見られるのも劇場が綺麗で見やすいのもいいけど、日本人のダンサーにもけっこう肩入れしたい気分になってきた。それくらい、意気込みを感じる公演だったってことかもね。

最後に、指揮のバリー・ワーズワースと東京フィルハーモニー交響楽団もよくやってくれました。演奏は、時々「おいおい」って個所がないわけでもなかったけど、よくがんばっていたと思います。ビデオで見た「マノン」の音楽はそんなにいいと思わなかったのに、今回は3日も通ったせいもあるかもだけど、今も頭の中にマスネの音楽がいろいろ流れてるもん。また今後もいい演奏聞かせてくだされや。