2006年6月24日 新国立劇場オペラ劇場

クレジット

振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパ/音楽:アドルフ・アダン/台本:テオフィール・ゴーチェ、ヴェルノワ・サン=ジョルジュ、ジャン・コラリ/改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ/監修:ナターリヤ・ドゥジンスカヤ/舞台美術・衣装:ヴャチェスラフ・オークネフ/照明:沢田祐二
指揮:エルマノ・フローリオ/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

ジゼル:本島美和
アルベルト:デニス・マトヴィエンコ
ミルタ:寺島ひろみ
ハンス:市川透
クーランド公爵:ゲンナーディ・イリイン
バチルド:楠本郁子
ウィルフリード:陳秀介
ベルタ:堀岡美香
村人のパ・ド・ドゥ:高橋有里、マイレン・トレウバエフ
ジゼルの友達:遠藤睦子、寺島ひろみ、内冨陽子、川村真樹、寺島まゆみ、丸尾孝子、大和雅美、難波美保
ワルツ:安井紫、今村恵、岸川章子、北原亜希、工藤千枝、下拂桃子、杉崎泉、田中若子、中島郁美、柳井美紗子、伊藤真央、酒井麻子、高井香織、寺田亜沙子、細田千晶、堀口純
村の娘たち:今村恵、岸川章子、北原亜希、工藤千枝、下拂桃子、杉崎泉、田中若子、中島郁美、酒井麻子、寺田亜沙子、細田千晶、堀口純
村の若者たち:奥田慎也、グリゴリー・バリノフ、陳秀介、江本拓、中村誠、高木裕次、冨川直樹、ハンガイ・アルガイスフ、井口裕之、佐々木淳史、澤田展生、柄本武尊、泊陽平、アンダーシュ・ハンマル、八幡顕光(交替出演)
貴婦人:湯川麻美子、真忠久美子、寺島ひろみ、西川貴子、楠本郁子、千歳美香子、深沢祥子(交替出演)
廷臣:市川透、奥田慎也、マイレン・トレウバエフ、貝川鐡夫、冨川祐樹、小笠原一真、エリク・T.クロフォード
ラッパを持つ猟師:冨川直樹、ハンガイ・アルガイスフ、柄本武尊
鳥を持つ猟師:荒幡大輔、アンダーシュ・ハンマル
槍を持つ猟師:魚住哲夫、大春智哉、川嶌英文、蓬莱大介
バッカスの少年:折原由奈、武田麗香(交替出演)
ドゥ・ウィリ:寺島まゆみ、真忠久美子
ウィリたち:内冨陽子、楠本郁子、丸尾孝子、大和雅美、神部ゆみ子、難波美保、今村恵、岸川章子、北原亜希、工藤千枝、下拂桃子、杉崎泉、田中若子、千歳美香子、中島郁美、深沢祥子、堀岡美香、柳井美紗子、伊藤真央、酒井麻子、高井香織、寺田亜沙子、細田千晶、堀口純


感想

新国立劇場バレエの「ジゼル」もセルゲイエフ版の「ジゼル」も見るのは初めてだったので、とても新鮮に楽しみました。セルゲイエフ版は、最初にウィルフリードが登場して辺りの様子を伺ってからアルベルトを招き入れるのですね。そしてハンスは森の花で作った小さな花束を持って登場する。彼がひとしきりジゼルへの愛しさやロイス(アルベルト)への不信感を示して退場した後、村人の格好で登場するアルベルトは剣をさしていない・・・と、幕開きからジゼルが登場するまでの短い間に「へー」がたくさんありました(笑)。全体にマイムが効いていますね。

マトヴィエンコの村人の衣装は自前?薄いラベンダー色の上下でした(翌日の山本さんは薄いグレーの上着に白タイツだったと思う)。初日は割と近いところで見ているのでいつも結構細かいところが気になるのですが、今回もそうでした。ウィルフリードやジゼルとのやりとりが何だか噛み合なくて、大丈夫かしらと心配に。マトヴィの踊りは本当に綺麗だといつも思うんだけど、時々パートナーとかみ合わない場面に遭遇するんですよね(去年のライモンダ夢の場とか)。でももしかしたら単なるスロースターター?自分のソロを1回踊ると入り込めるのかなぁ、その後はとてもよかったと思うので。ジゼルの様子がおかしくなった時点で「僕のせいだ」と嘆き苦悩する人になり、死んでしまった後は激情の人。ウィルフリードがマントをかけて「行きましょう」と促すのを振り切って(マントもはねのける)そのまま走り去るの。「僕のせいだ〜!」という感じでかなり能弁でした。おかげでドラマティックな幕切れとなりました。

本島さんは色白でべっぴんさんなので、他の娘たちとは明らかに出自が違う感じがするのね。村娘というより高貴な女性っぽくて感情を大きく爆発させることがないの。狂乱の場も静かに静かに壊れていく感じ。たぶん彼女はとても頭がいいのね。毎回主演するに当たっての準備が周到なのに感心します。今回はマトヴィとのやりとりにかけた時間は(新国立のパートナーの時と比べれば)かなり短かったのではないかと推測しますが、その分彼女自身の踊りの精度がかなり上がったと思う。上半身の使い方が柔らかくなりましたねー。踊りの輪郭のはっきりしたタイプなので、けっこう残像が残りそうな気がする。役作りの点では物足りなさがありましたが、初役だしね。ジゼルという役は深い役なので今後に期待します。私は見に行けないけど、2日のペッシュとの舞台はは今回の経験をふまえて更によくなるのではないでしょうか。

市川透さんのハンスがとてもよかったですー。私が今まで見た彼の役の中で一番好きかも。最初に登場するとき、手を後ろにかくしているのね。で舞台の中央まで来てその手を前に出すと小さな花束を持っているの。あ、かわいい、と思いました。それ以降は彼が出てくると目が離せないという事態に(笑)。マイムといい演技といいアクセントが効いてるのね。見せかたが上手くて感心しました。2幕でウィリに踊らされるところも鮮やかなジャンプに魅せられました。

ペザント・パ・ド・ドゥはトレウバエフくんと高橋有里さん。2人とも安定して祝祭感があってとてもよかったです。楠本さんのバチルドはちゃんと高貴なお嬢様で過不足のないハマり役ですねー。ジゼルに「彼は私と結婚するんです!」と言われた時に「あら、このお嬢さんたら何を言ってるのかしら」と小さく笑う演技が絶妙でした!

1幕は豪華な衣装も楽しみました。貴族たちの衣装が豪華なのはもちろんのこと、村娘たちの衣装もゴールドがポイントに使われていたり、は葡萄摘みの娘たち(ワルツ?)の衣装が鮮やかな緑色だったり、のどかな村にしては衣装が派手な気もしましたが、収穫祭の時期だからいいのかな。怪我でこうもりのギャルソンを降板したバリノフくんも村の若者役の最後尾にいて一安心。最終日のペザント・パ・ド・ドゥ見たかったなー。

2幕はウィリたちやジゼルのヴェールが空を飛んだり(笑)ジゼルがセリであがってきたり。そういうのは作品の本質には関係ないので不要なような。マトヴィの安定した踊りがよかったです。2幕登場のつま先にあと少し気を配ってくれたらいいな。本島さんは2幕でも体の隅々まで気を配って踊っていたのに好感を持ちました。夜明けの鐘が鳴ったところでかなり暖かい笑顔を浮かべたのが印象的。あそこでほっとしたことが前面に出て、彼と別れる悲しさよりも救えた嬉しさが強い別れにも見えたかな。その分、マトヴィが締めの嘆きの演技が濃くて、百合の花を下手前方のお墓から舞台中央の奥まではらはらと落としながら後ずさり倒れ込んで幕、という感じでした。

強い印象を残したのは、ミルタの寺島ひろみさん。あのパ・ド・ブーレは何?というくらい見事で、正に滑るがごとく移動するの。激しい怒りや憎しみを内包するミルタも多いけど、彼女のミルタは静かで毅然とした精霊の女王でした。彼女の軽いジュテや柔らかい背中が精霊にぴったりなのは見る前からわかっていましたが、それ以上にあの踊りを命じたり懇願を拒否する仕草の素晴らしいこと。彼女にしかできない稀有なミルタだと思います。見事でした。セルゲイエフ版のミルタは最後の最後に1度だけ「死んでしまいなさい」のマイムをするのですが、1度しかしないからこそ強烈な印象を残すのですね。ひろみさんの場合、振り下ろした拳に特別憎しみや怒りがこもっているわけではないのに、何か抗えない力を感じさせました。いいミルタだったなー。でもね、見てる時に、ジゼルとミルタを交換して踊ってみても素晴らしいだろうなーと思ってしまいましたよ。何で寺島ひろみさんのジゼルがないのかしらねぇ・・・

指揮はフローリオさん。パ・ド・ドゥやヴァリアシオンはゆったりたっぷりダンサーに合わせて踊らせてくれていましたが、群舞はテンポが早く感じました。演奏が乱れたようにも聞こえたし、なにしろ群舞のコたちも慌ただしく見えたのは気のせいでしょうか。残念だったのはコール・ド・ウィリたちで、曲のテンポが少しだけ早かったようで最初はあげた足も高く揃っていたのに、曲に合わせて進むために踊りがちょっと乱れた気がする。あれはもったいなかった。

今回はオペラと交互公演で舞台が少し高いみたいですね。ダンサーの足音がほとんどしなくて驚いたんだけど、床のせいもあるのでしょうか。ウィリたちが大勢で踊るとなるとさすがに少し音がしていたけど、それ以外はほとんど音もなく、感心しました。