2006年11月29日 東京文化会館 大ホール

クレジット

指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ/演奏:マリインスキー歌劇場管弦楽団/ピアノ(ルビー):リュドミラ・スヴェシニコワ

第1部「シンデレラ」第2幕より

振付:アレクセイ・ラトマンスキー/音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

シンデレラ:ディアナ・ヴィシニョーワ
王子:イーゴリ・コールプ
継母:エカテリーナ・コンダウーロワ
フディシカ(義姉):タチヤーナ・バジートワ
クブィシカ(義姉):ヴィクトリア・テリョーシキナ
ダンス教師:エカテリーナ・オスモールキナ、イスロム・バイムラードフ
四季の精<春>:フェードル・ムラーショフ
四季の精<夏>:アントン・ピーモノフ
四季の精<秋>:マキシム・ジュージン
四季の精<冬>:ドミートリー・プィハチョーフ

幕があくとブラックタイ姿の男性ダンサーとオレンジ系からボルドーまで少しずつ違う色のドレスを身にまとった女性ダンサーたち。装置はなくホリゾント幕のみで、あのシャンデリアはなかったです。ダンス教師、というかたぶん「男女の踊り手」役のオスモールキナがキュートで目を惹きました。バイムラードフはたぶん全幕で見た時をこれを踊っていたと思うんですが、晴れの場にふさわしいリード。

継母役のコンダーウロワはバネの効いた踊り。フディシカ役のバジートワは割とふっくらした体型なのに踊ると軽い軽い。ユーモラスでかわいかったです。テリョーシキナは配役変更によりクブィシカで登場。黒タイツに包まれた脚が驚くほど細く、体型もかなり華奢。バジートワほどはじけていなかったので全幕だったら物足りなさを覚えてかもしれませんが、軽いジュテなど踊りはやはり目を惹きました。残念ながらこの辺りまでは舞台の雰囲気が何だかピリっとしなかった。ダンサーの気合いが伝わらないというか、メリハリがないというか。

コルプ王子が登場して、ようやく舞台の空気に変化が。白タキシードに白い蝶ネクタイの王子衣装は、メルクリエフで見たときは「育ちはよいけど少しあか抜けない、でも愛すべき王子」だったのに(そんなメルクリエフ王子が好きだったわ)、コルプは「育ちはよいが俗なお楽しみも好きな、でも目の離せない殿方」で、その「殿方」はホストから遊び好きな侯爵さま、あるいは王子までどこにでも当てはめられそうな雰囲気。しかしこれが、目が離せないんですよねー。踊れば美しいラインに柔らかさと強靭さとがあってひたすら魅力を振りまいていたし、演技面でも、好みでない女性の扱いをも心得た立ち居振る舞いが板についていて漫画チックですらありました。あまりに分かりやすいんでラトマンスキーの「シンデレラ」ってアメコミだっけ?と思ってしまったわ。

やっぱりコルプ好きーなんてほのぼのした気持ちでいたら、ヴィシニョーワが白いドレスで登場した瞬間に舞台の空気がまるっきり変わってしまった。輝きも全然違う。魔法のドレスで着飾ったシンデレラが自分のドレスに驚き、お城の豪華さに驚きながら魅せられて行くところが、とてもよかったです。ヴィシニョーワの魅力の1つは生命力溢れる踊りなので、その美点がこの場面のシンデレラに何とぴったり合うのだろうかと。さすがに彼女に振り付けられた作品だけあると感心。

ミッシングピースを見つけたように吸い寄せられる2人。このパ・ド・ドゥの振付はそんなによいとは思わないのだけど、ヴィシニョーワとコルプ2人のパワーのベクトルがよい形に作用してすごい見応えでした。踊り手2人に負うところが大きいのでしょう、何しろ2人とも100%かそれ以上に自分を出し切って、それが相手の邪魔をしないのは凄いことではないかしら。「シンデレラ」なのに、おとぎ話なのに、もっと人間くさいドラマのパ・ド・ドゥを見たような気分になりました。もちろんこれは決して嫌な気持ちじゃなくて、すごく楽しかったのだけど。この2人がどういう物語を構築するのか、この2人のペアならラトマンスキー版「シンデレラ」ももう1度全幕で見てみたい位。

それにしてもコルプ、旬ですね。踊りの艶だけでなくサポートの力強さにもクラクラきました。オールスター・ガラの「薔薇の精」が楽しみ。


第2部「バヤデルカ」第2幕

振付:マリウス・プティパ/改訂振付:ウラジーミル・ポノマリョーフ、ワフタング・チャブキアーニ/音楽:レオン・ミンクス

ニキヤ:ディアナ・ヴィシニョーワ
ソロル:レオニード・サラファーノフ
ガムザッティ:ヴィクトリア・テリョーシキナ
ドゥグマンタ:ピョートル・スタシューナス
大僧正:ウラジーミル・ポノマリョーフ
トロラグワ:アンドレイ・ヤーコヴレフ
舞姫たち:イリーナ・ゴールプ、オレシア・ノーヴィコワ、ヤナ・セーリナ、スヴェトラーナ・イワノーワ
グラン・パ・クラシック:クセーニャ・オストレイコーフスカヤ、ダリア・スホルーコワ、ヴィクトリア・クテーポワ、エカテリーナ・コンダウーロワ、セルゲイ・サリコフ、アレクサンドル・クリーモフ
金の仏像:ウラジーミル・シクリャローフ
インドの踊り:ガリーナ・ラフマーノワ、イスロム・バイムラードフ、グリゴリー・ポポフ
子供たち:鈴木優、鈴木舞(牧阿佐美バレヱ団)

こちらは幕があがると舞台の奥の方まで使ってしっかり装置が入っていました。婚約式の頭から上演してくれたので、祝宴に招かれた人たちが次々登場。こんなに装置や衣装をたくさん持ってきてくれたんだーと、いきなりそこで感激(笑)。ソロルは象に乗って登場するし、獲物の虎も登場するしで嬉しくなりました。虎が運ばれて来た時にソロルが「私がしとめました」って感じで虎を踏みつけて披露するんですが、どうやらふかふかの踏み心地みたいで、サラファーノフが踏んだら「ぱふーっ」って(笑)。それだけの事なんですが、妙にツボに入って笑ってしまいました。

テリョーシキナは輝く存在感!踊りも安定していますし、ソリストでは群を抜いていますね。真ん中を踊る為に生まれて来た人だと思いました。私はテリョーシキナの舞台は初めてで、今まで写真などで見た感じではちょっと淋しそうな顔立ちが真ん中を踊るのにはどうなのかなーと思っていたんです。それが!若いのに華やかなオーラを振りまいているのにびっくりしましたよ。派手な演技をする人ではないようですが、そこに立っているだけでガムザッティなの。彼女とヴィシニョーワとの1幕の「女の戦い」の場面も見てみたい、と思いました。

サラファーノフはやはりソロルというには若くて華奢なので少し物足りなさを覚えたのですが、見ているうちに気にならなくなりました。軽くてぴゅんぴゅん踊るのは見ていて爽快だし、うろたえる小芝居がたっぷりだったので、2人の女性の間で考えなしに動いちゃったのはその若さ故だったのね、と思えば筋が通るというか。ニキヤが出て来たら、まぁ動転すること。じっと座っていられずに、後ろに控えるトロラグワに話しかけてみたりして、「アルブレヒトとウィルフリードか?」と思うほど。正直言って、その小芝居が気になって気になって、ヴィシの踊りに集中できなかった(笑)。キャラ的には去年新国立で見た「くるみ」の王子さまよりはこちらのサラファーノフの方が好きかな。自分のカンパニーで踊る安心感もあるのでしょう、のびのび踊っていて好感を持ちました。

ヴィシニョーワのニキヤは、ベルリンの衣装より本拠地のものが似合いますね。登場してすぐの哀しみの舞は、サラファーノフの方が動揺しまくっているのでまるでニキヤが「な〜ん〜で〜私を捨てたの〜!」と責め立てているみたいでした。サラファーノフだけでなく、テリョーシキナも大僧正役のポノマリョフもドゥグマンタのスタシューナスも舞台の上下で芝居だらけで、見ていて非常に楽しかったです。

大僧正はニキヤに解毒剤を渡す前に列席者に後ろを向かせるのですが、ソロルだけはたまらずに振り向いてしまいます。そこで解毒剤を手にしたニキヤと視線が合うものの、後ろめたいソロルは視線をそらしてしまい、それに絶望したニキヤは瓶を落として絶命、駆け寄るソロル、、、で幕。ということで、まるまる2幕を見られた満足度は高いのですが、ヴィシニョーワの踊りを堪能するという点では物足りなさも少々。彼女のニキヤはまだ見るチャンスがあるだろうとは思うのですが。

あ、そうだ、この演目でも最初の方は舞台上の空気がかなり緩かった気がします。舞姫たちやグラン・パ・クラシックもちょっと物足りなさがあったかな。インドの踊りも迫力で押すという感じではなかったけど、これがマリインスキーの持ち味なのかしら・・・。大注目の黄金の仏像、シクリャーロフくんは、お顔が小さく身体は大きく。よそで見るゴールデン・アイドルはキレキレのキメキメですが、彼の持ち味はそれだけじゃないの。飛ぶところは飛んでいるし(身体が大きいわりに重さがない)決めるところも過不足なくピシっと決めて身体のラインが美しいし品がある。たぶんこれ見よがしじゃないんだよね。白タイツの役所を早く見たいと思いました。

第3部「ルビー」(『ジュエルズ』より)

振付:ジョージ・バランシン、音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー(ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ)

ディアナ・ヴィシニョーワ
アンドリアン・ファジェーエフ、ソフィヤ・グーメロワ
アレクセイ・ニェドヴィーガ、アントン・ピーモノフ、マクシム・フレプトーフ、フェドール・ムラショーフ

「ルビー」も生では初見。これはきっと「マリインスキーのルビー」なんだろうなと思って見ていました。これはこれで好き、かも。ヴィシニョーワは身体能力的には確かにルビーの人だと思うし実際見事な踊りっぷりだったと思います。でも、もしかしたら夏に見たダイヤモンドの方が好きかもしれないなー。

ファジェーエフも素敵でした。ヴィシニョーワを正に宝石のように大切に扱うパートナー。2人のアンサンブルというよりはファジェーエフがヴィシをひたすら礼賛しているようでもありましたが、久しぶりに彼が見られて嬉しかったからいいの。でもできればこの2人のペアで「ロミジュリ」のパ・ド・ドゥなんかが見たかったなー。パリオペの映像でジロが踊ったパートはグーメロワ。女王様の風格はないけど、音の使い方はけっこう好きでした。