2006年11月30日 東京文化会館 大ホール

クレジット

指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ/演奏:マリインスキー歌劇場管弦楽団

第1部「パキータ」グランパ

振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス

パキータ:ウリヤーナ・ロパートキナ
ルシアン:ダニーラ・コルスンツェフ
ソリスト:エカテリーナ・オスモールキナ、ソフィヤ・グーメロワ、スヴェトラーナ・イワノーワ、ダリア・パヴレンコ、ヴィクトリア・テリョーシキナ

装置も衣装もゴージャスでした。
昨日ほどではないにしろ、やはりコール・ドは思っていたほどではないのかな、という印象でしたが、ロパートキナの登場した瞬間にコール・ドは目に入らなくなりました。神々しいまでの存在感。光り輝き、気品に溢れ、、、と美辞麗句も陳腐に思えますが、そこに存在すること自体が奇跡のようで、登場した瞬間に目頭が熱くなりました。

コルスンツェフも笑顔で登場。地味だ地味だと言われ続けていたコルスンツェフですが、やはり彼もオーラがあります。ロパートキナの神々しさは別格かもしれないけど、ちゃんと彼女のパートナーだった。3年前に見た時より存在感は大きくなっていましたし、踊りも確かで美しかったです。ダイナミックさと品位が共存するのはいいよねー。背が高いだけでなく手脚が長いのでワガノワスタイルで踊ると本当に映えます。よいダンサーだな。

ソリストはたぶん、オスモールキナ、パヴレンコ、イワノーワ、グーメロワ、テリョーシキナの順。オスモールキナはやはり好きなタイプかも。パヴレンコは典雅なダンサーですね。最後にちょっとミスがありましたが、それ以外はとても美しくて彼女の白鳥を見るのが楽しみになりました。イワノーワはドンキのキューピッドのヴァリエーション。チュチュで踊られると印象が変わります。グーメロワの安定感は昨日のルビーでの印象通り。やはり私には彼女の踊りがとてもツボに入るので、もっと見たいと思いました。しかし最後に出て来たテリョーシキナは別格の輝き。キラキラオーラを身にまとって登場して、それは前日のガムザッティよりすごかったんじゃないだろうか。華やかで手脚の使い方も割と好み。見事でしたし、拍手も一際大きかったです。

しかしパキータでこんなに感動したのは初めてかもしれない。ロパートキナは技術とか身体能力とかを超越したところにいるプリマ・バレリーナですね。もう動きの1つ1つ、頭の向き、視線の運びから、筋肉の使い方全てまで素晴らしい。呼吸を忘れて見惚れました。


第2部「ライモンダ」第3幕

振付:マリウス・プティパ/改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ/音楽:アレクサンドル・グラズノフ

ライモンダ:ウリヤーナ・ロパートキナ
ジャン・ド・ブリエンヌ:エフゲニー・イワンチェンコ
マズルカ:エレーナ・バジェーノワ、フョードル・ロプホーフ
ハンガリーの踊り:ポリーナ・ラッサーディナ、イスロム・バイムラードフ
ヴァリエーション:イリーナ・ゴールプ
グラン・パ:ヤナ・セーリナ、スヴェトラーナ・イワーノワ、エレーナ・ワシューコヴィチ、オリガ・アクマートワ 、アントン・ピーモノフ、グリゴリー・ポポフ、アレクセイ・ネドヴィガ、ウラジーミル・シクリャローフ、クセーニャ・オストレイコーフスカヤ、ヴィクトリア・クテーポワ、ダリア・スホルーコワ、エカテリーナ・コンダウーロワ、アレクサンドル・セルゲーエフ、アレクサンドル・クリーモフ、デニス・フィールソフ、マキシム・チャシチェゴーロフ

マリインスキーのライモンダは映像で抜粋をちらっと見たことがあるくらいだったので、3幕を見られるこの公演は楽しみでした。幕があくと所狭しと装置が入り、舞台を目一杯使っている様子。次々登場する民族舞踊やグランパのダンサーたちの衣装も美しくて、それだけでも至福。

民族舞踊は意外にもツボに入らず。ヴァリエーションのゴールプは愛らしく、彼女のキャラに合った踊り。グラン・パではやはりシクリャローフくんに視線釘付けでした。サポートも上手そうだし、今のところ欠点が見当たらない。やはり白タイツのこういう踊りは彼の良さが更に引き立つと思いました。すっかり心を奪われてしまいましたわ。ジャン役のイワンチェンコは、あまり印象に残りませんでした。嫌なところダメなところもなかったので、パートナーとしては悪くなかったのだと思います(って消極的なコメントだな)。ロパートキナとシクリャローフくんに入れ込みすぎたせいだと思うんですけど、、、ごめんね。

ロパートキナは「ライモンダ」でも神でした。この全幕バレエの中で、あの3幕のライモンダのヴァリエーションだけはどこか物哀しい旋律のために(とても美しくて大好きな曲ですが)どうしてもその部分だけが祝いの場から浮き上がって見えるのですが、ロパートキナの踊りはその旋律を崇高な愛として魅せてくれました。音楽を体現する踊りというのは時々お目にかかれますが、気付かなかったその曲の本質を浮き彫りにする踊りというのを目の当たりにして鳥肌が立ちました。脚のラインも背中も首も頭の位置もどれも完璧な美だったけど、特にあのアームスは忘れられない。たぶん、もう他のダンサーでこの演目を見ても満足できないに違いないと思うほど、それは至上最高のライモンダでした。ああ、全幕で見たいなー。

第3部「ダイヤモンド」(『ジュエルズ』より)

振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー(交響曲第3番 第2楽章〜第5楽章)

ウリヤーナ・ロパートキナ、ダニーラ・コルスンツェフ

ダリア・スホルーコワ、ヤナ・セーリナ、クセーニャ・オストレイコーフスカヤ、エレーナ・アンドローソワ
アレクサンドル・セルゲーエフ、アレクサンドル・クリーモフ、ドミートリー・プィハチョーフ、デニス・フィールソフ

「パキータ」、「ライモンダ」と素晴らしいものを見て、「ダイヤモンド」はどうだろうかと少し心配していたのですが、心配どころか、ものすごいものを見てしまったという感じ。これを見て以降、未だ「ダイヤモンド」から抜け出せずにいます。

セットは昨日の「ルビー」を「ダイヤモンド」バージョンにした感じ。「ダイヤモンド」もコール・ド付き全編は初めてです。コール・ドもかなり美しく、振付もマリインスキーの美質にぴったり。バランシンが見たら涙して喜ぶんじゃないかという程素晴らしいひとときでした。友人が「『ダイヤモンド』だけでチケット代の価値があった」と言っていましたが、私も同感です。

「ダイヤモンド」というと硬質な冷たい美、というイメージがあり、夏に見たヴィシニョーワがそれをドラマティックに打ち砕いてくれたのですが、ロパートキナのダイヤモンドは他の誰とも違う最上の美。変な例えで申し訳ありませんが、ルテステュが高級店のショーウィンドウに飾られたダイヤモンドならば、ロパートキナは尊い人がこよなく愛して身につける、そのなめらかな肌の上で輝くダイヤモンドだと思いました。それくらいロパートキナのダイヤモンドはぬくもりを感じさせる。ルテステュを下げる意味はもちろんなくて、それぞれに違う美って意味の比喩なんですけども。

すごいものを見た時というのは思考が停止しますね。ただひたすら見続けて心を動かされ続けました。終演後しばらく席を立てず、放心状態。ロパートキナのコルスンツェフのパートナーシップだけでなく、コール・ドの隅々まで、マリインスキーの美を堪能させてくれました。


思えばこの日の3演目、ロパートキナは全て白のチュチュで登場。同じ白でも素材によって色味や質感、光の通し加減などで印象が全く違うように、ロパートキナの踊りも各演目の良さを的確に表現していたと思います。違う風味の演目を見たかった観客も多かったかもしれませんが、私はこのラインナップに彼女の美質と自信の表れを感じました。そして、彼女こそがバレエの到達すべき場所なんですよね。