2006年12月8日 東京文化会館 大ホール

クレジット

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:マリウス・プティパ/レフ・イワノフ/改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ/台本:ウラジーミル・ベーギチェフ/ワシーリー・ゲーリツェル/装置:シモン・ヴィルサラーゼ/衣裳:ガリーナ・ソロヴィヨーワ
指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ/管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

キャスト

オデット/オディール:ウリヤーナ・ロパートキナ
ジークフリート王子:エフゲニー・イワンチェンコ
王妃 (王子の母):エレーナ・バジェーノワ
王子の家庭教師:ピョートル・スタシューナス
道化:アンドレイ・イワーノフ
悪魔ロットバルト:マキシム・チャシチェゴーロフ
王子の友人たち:ダリア・スホルーコワ/エカテリーナ・オスモールキナ/ウラジーミル・シクリャローフ
小さな白鳥:ワレーリア・マルトゥイニュク/オレシア・ノーヴィコワ/エレーナ・ワシュコーヴィチ/イリーナ・ゴールプ
大きな白鳥: アリーナ・ソーモワ/エカテリーナ・オスモールキナ/クセーニャ・オストレイコーフスカヤ/エカテリーナ・コンダウーロワ
2羽の白鳥:エカテリーナ・オスモールキナ/クセーニャ・オストレイコーフスカヤ
スペインの踊り:ガリーナ・ラフマーノワ/リーラ・フスラーモワ/イスロム・バイムラードフ/アレクサンドル・セルゲーエフ
ナポリの踊り:ヤナ・セーリナ/マクシム・フレプトーフ
ハンガリーの踊り:クセーニャ・ドゥブロヴィナ/カレン・イワンニシャン
マズルカ:スヴェトラーナ・フレプトーワ/イリーナ・プロコフィエヴァ/オリガ・バリンスカヤ/ガリーナ・ラフマーノワ/アレクサンドル・クリーモフ/アンドレイ・ヤーコヴレフ/フョードル・ロプホーフ/ニコライ・ナウーモフ


感想

この日は王子役がコルスンツェフからイワンチェンコに変更となり、だから、私が見たかった「ロパートキナとコルスンツェフの『白鳥の湖』」を思うと、もっと違ったものが見られただろうという気持ちもあります。3年前に見た彼らのパートナーシップがこと「白鳥」においてどれくらい変わったのか、それが見たくて会場に足を運んだと言ってもいいくらいなので。でも、見られなかったものと自分の目で見たものを比べたりするのは、ロパートキナにもイワンチェンコにも、コルスンツェフにも失礼だと思うのでやめます(と、自分に言い聞かせる)。

幕があがると村人たち。見慣れたセルゲイエフ版はご本家で見るのがやはり一番です。衣装は以前のものを踏襲してより豪華に洗練されていましたが、それがまた見る度に幸せになれる事の1つ。そしてやっぱりマリインスキーのダンサーたちは美しい。みんなワガノワ・メソッドで訓練されたダンサーなので、その踊り1つ1つがワガノワのアームスが好きな私を喜ばせてくれるのです。

王子の登場。1幕の王子の衣装は黒のぴったりした(ビロード風)上着に白タイツ。胸元にビーズなどで綺麗な模様が刺繍してあります。イワンチェンコは体躯が立派で立ち居振る舞いにも威厳があり、「クラシックの王子はこれだよなー」と思える存在感。ただし、成人を迎えて嫁取りをしなければならないジークフリートと見るには多少の違和感があり(笑)。頭のキレる王子で既に王妃を補佐して国政にも携わっているような落ち着きがありました。家庭教師や道化との小芝居はあまりしていなかったですね。

道化のアンドレイ・イワーノフは3年前にも同じ役で見ているのですが、前回の感想にも「パワフルな超絶技巧っぷり」と書いたようなのですが(^^;) どんな風だったか覚えておらず。でも今回も彼は本当に強烈でした。全く軸がぶれない超高速回転。あそこまで早く回ってしかも美しい(上げた方の足の高さも全く変わらない)のは初めて見たかも。すごい、すごすぎです。シングルキャストのためこの日から3日間5公演!同じクオリティで踊り続けた(たぶん、最終日は見てないから)彼にブラヴォー!

パ・ド・トロワはスホルーコワ、オスモールキナ、シクリャローフの若手3人。はっきり言って、イワンチェンコ王子の「友人」には見えません(笑)。スホルーコワはプロポーションがよくて手脚が長いのにアレグロも得意で先が楽しみなダンサーですね。現時点ではまだ雑さとか頭の位置が前に来すぎるのが気になったりするのですが。オスモールキナはすっかりお気に入りリストに入りました。まず上半身の動きが本当に美しくて好みなのと、音楽の使い方も好きなんですよね。シクリャローフはパ・ド・トロワの衣装が似合っていたなー。それだけで眼福でした(笑)。サポートはまだ今後の課題と思いますが、今後の成長を楽しみに見守りたいダンサーの一人ではあります。だいたいABTのホールバーグだって2003年の時は「すごい綺麗なダンサーだけどリフトがあちゃー」と言われていた訳だから(笑)シクリャローフの将来だって期待したっていいってものよね(^^;)

1幕1場の最後は、やはりランプを持った男女が踊りながら去っていくこのバージョンが好きだなー、と新国の新バージョンを思い出してしまいました。一番最近見たのが新国の「白鳥」で元が同じセルゲイエフ版なものですから、ついいろいろと思ってしまうのですよ。

1幕2場で登場するロットバルトの衣装も、こちらは断然よかったです!チャシチェゴーロフはガラの「レヴェランス」に登場した黒髪のダンサーで、その時にちょっとヘタれてた印象があったので少々心配していました。が、ちゃんと場を支配していてよかったんじゃないかな。さすがにロパートキナはちょっと重そうでしたし、2幕(通常の3幕)グラン・パでの視線のやりとりも格は揃ってなかったけどね(笑)。彼もシングルキャストで全てのオデット/オディールと踊った訳で、お疲れさまでした。

ロパートキナの登場。その瞬間に「見ることができた幸福」で胸がいっぱいになりました。ロパートキナの白鳥は、王子になかなか心を開けません。気持ちの奥底では求めているのに、魔法で凍てついた白鳥としての恐怖心から(言い換えれば動物の本能として)王子の手をすり抜けてしまう、そんな風に見えました。自分の仲間である他の白鳥たちを決して傷つけないでほしいと懇願し、それが受け入れられて初めて自分の気持ちも預けてみようと思ったのですね。そこからのグラン・アダージオは本当に涙が出るほどに美しかったです。イワンチェンコはお疲れのようで、ところどころ危なっかしい場面がありましたが、それも彼らの叙情性を失わせはしません。素晴らしかった。今思い出しても鳥肌が立つほどです。

白鳥に戻る時にも心を王子に残したまま別れ難い気持ちがひしひしと伝わってきました。王子に助けを求めるように彼に手をのばし、その叫び声のような腕が白鳥の翼に変わってしまう瞬間の切なさ。本当に踊りの1つ1つ、差し出す腕の1つにまで心の意味が込められているのです。別に大きなアクションや表情で語って見せている訳ではないのに、全てがこちらに届く完成度の高さと入念な準備に、ロパートキナのバレエへ捧げた想いを強く感じました。この時点で既に胸が一杯。

コール・ドも美しかったです。小さな白鳥も揃っていましたし、大きい方と2羽の白鳥に入っていたオストレイコーフスカヤの踊りが、オスモールキナ以上に好みで釘付けになりました。

2幕。舞踏会のセットも重厚で素敵でした。王子は白の上着(ビーズなどの刺繍入り)と白タイツで、王妃の手を取って登場。上手にある玉座には、イワンチェンコはたぶん1度も腰掛けなかったと思います。私が見た他の王子たちは座っていたのですが、、、もしかして王妃と並んで座るとキツキツになっちゃうのかしら(笑)。花嫁候補たちが登場した際に母王妃が「この中から花嫁を選ぶのよ」と告げると王子は、、、はて、イワンチェンコはどんなだったかな(^^;) もうなんか「王子見るモード」じゃなくなっていて記憶がありません。ゴメンね、イワンチェンコさん。でも、最後にオデットの元へと走りさる時には袖に入るまできちんと走るように!

ロパートキナのオディールは意外にもかなり邪悪オーラがありました。前述の通りロットバルトより格が上で「悪の女王」みたいな存在感。決してファム・ファタル的オディールではないのに、これほどまでに目が離せず息もつかせない圧倒的な存在というのは、一体何なんでしょう・・・。このオディールにとっては王子が自分に愛を誓うのは決まりきったことで、だから王子が指を天に差し出した瞬間も大口をあけての高笑いはしません。冷ややかでもなく燃え上がるようでもなく、強いて言うなら体温のあるオディールなのに、どこかこの世のものでない見えざる力で世界を操るような力強さ。今まで見た事のないタイプのオディールで、私には今回オデットもオディールも同じ位強烈な印象を残しました。

ディヴェルティスマンについても書いておかなければ。スペインは男性陣2人(イスロム・バイムラードフ/アレクサンドル・セルゲーエフ)に目を奪われっぱなしでした。通常私にとってスペインは女性を楽しむもので(東バは男女とも目が離せないので別格として)、男性に目がいったのは前回のマリインスキーのバイムラードフ/メルクリエフのこちらも素晴らしかったペアと、新国で1日だけ山本隆之さんがスペインに入った時くらいでした。それが、このバイムラードフ/セルゲーエフ組のなんと素晴らしいこと。シングルキャストだったので毎回この時間が楽しみで仕方有りませんでした。セルゲーエフくんは1幕の村人役でもとても目立っていましたね。ナポリ/ハンガリー/マズルカも堪能しました。

3幕。幕が上がった時の白鳥たちのフォーメーションが何とも言えず美しかったです。背景には朝焼け(たぶん)の湖。以前もそうでしたっけ?今、公演で見た白鳥たちのイメージが消えてしまうのが恐くてキーロフの白鳥映像は(というか他のも白鳥映像は見られません)封印しているので確認できません。2羽の白鳥は、前述の通りオスモールキナ以上にオストレイコーフスカヤの踊りが素晴らしかったです。正に白鳥向き。ロパートキナ・ガラやヴィシニョーワ・ガラにも出ていたのにチェックしそこなった・・・残念。

ロパートキナの白鳥は悲しみにくれてはいるけれど、最初から王子のことは心のどこかで許しているように見えました。跪く王子に顔を寄せてからアラベスクのポーズで下がっていく振付けが2度繰り返されますよね。その1度めの時に、「愛しい人」というように顔を寄せてから「あなたの事を怒ったりはしていないの」と離れていくように見えて、2度目は「でもお別れしなければならない」と言っているように見えました。その場面にこれだけの意味を持たせて踊る人を見たのは初めてだったせいでしょうか。とにかく鳥肌が立ちました。音に合わせてというよりは、静かにすっすっと下がって行くロパートキナ。この場面もバレリーナによって個性が出ますね。(それぞれ他の日のエントリーで別記します)

王子とオデットが愛の力でロットバルトを倒すところですが、イワンチェンコのタッパはこういう戦闘(?)場面にはとても有利です(笑)。もがき苦しんで息絶えるロットバルトの前で魔法がとけたことを、愛の成就を喜び合う恋人たち。ロパートキナがパートナーに寄り添うポーズがツボの私としては、ハッピーエンドもまた一興。これで終わってしまう、というのはひたすら淋しいことでしたが。

オケは「白鳥」になっても一向によくなる気配がありません。一応「マリインスキー管弦楽団」なんだから、もうちょっと気合い入れてくれないと困るよ、ホントに。しかし、それ以外は本当に本当に素晴らしい舞台。3年前は目の前でロパートキナが舞っている、ただそれだけで感無量でしたが、今回は彼女が丹誠込めて作り上げた「白鳥の湖」を隅々まで堪能させてもらったことにが、本当に幸せです。