2006年12月9日ソワレ 東京文化会館 大ホール

クレジット

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:マリウス・プティパ/レフ・イワノフ/改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ/台本:ウラジーミル・ベーギチェフ/ワシーリー・ゲーリツェル/装置:シモン・ヴィルサラーゼ/衣裳:ガリーナ・ソロヴィヨーワ
指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ/管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

キャスト

オデット/オディール:ディアナ・ヴィシニョーワ
ジークフリート王子:イーゴリ・コールプ
王妃 (王子の母):エレーナ・バジェーノワ
王子の家庭教師:ピョートル・スタシューナス
道化:アンドレイ・イワーノフ
悪魔ロットバルト:マキシム・チャシチェゴーロフ
王子の友人たち:ダリア・スホルーコワ/オレシア・ノーヴィコワ/ウラジーミル・シクリャローフ
小さな白鳥:ヤナ・セーリナ/イリーナ・ゴールプ/エレーナ・ワシュコーヴィチ/オレシア・ノーヴィコワ
大きな白鳥: エカテリーナ・オスモールキナ/クセーニャ・オストレイコーフスカヤ/アリーナ・ソーモワ/エカテリーナ・コンダウーロワ
2羽の白鳥:ダリア・スホルーコワ/クセーニャ・オストレイコーフスカヤ
スペインの踊り:ガリーナ・ラフマーノワ/リーラ・フスラーモワ/イスロム・バイムラードフ/アレクサンドル・セルゲーエフ
ナポリの踊り:ヤナ・セーリナ/マクシム・フレプトーフ
ハンガリーの踊り:クセーニャ・ドゥブロヴィナ/カレン・イワンニシャン
マズルカ:スヴェトラーナ・フレプトーワ/イリーナ・プロコフィエヴァ/オリガ・バリンスカヤ/ガリーナ・ラフマーノワ /アレクサンドル・クリーモフ/アンドレイ・ヤーコヴレフ/フョードル・ロプホーフ/ニコライ・ナウーモフ


感想

昼の公演は2Fサイドでしたが、夜は視界良好のお席でした。オケは昼公演とは少し音が変わっていたように思います。私の席の違いもあるのかもしれませんが、オーボエやヴァイオリンのソリストは音の艶がアップしていたような。しかしオーボエがソロで躓いたのは初めて聴きましたよね・・・

えーと、まずは非常にわかりやすい、ドラマの伝わりやすい「白鳥の湖」でした。バレエに縁のない方が初めて見る「白鳥」ならば、この公演が一番適していたんじゃないかと思う位。そして、これは「ヴィシニョーワが踊りたい『白鳥の湖』なんだろうな」とも感じました。コルプは自分の物語とか役作りを二の次にしてヴィシニョーワの希望通りに踊ったのではないかしら。それくらい、ヴィシが真ん中ならこれしか有り得ない「白鳥の湖」だったと思います。新国立で見た時のこのペアとも全然違う話だったと思うし、他のマリインスキーの白鳥とも全然違ってた。これがマリインスキーの白鳥の湖かと言えば、異端ではあると思います。それでも、私はこの「白鳥の湖」が見られてとてもよかったです。

「ヴィシニョーワの踊りたい白鳥」と思った大きな理由は、コルプの王子にあります。意外なことに、今回見た王子たちの中ではコルプの王子が一番普通の役作り。「普通」と言ってしまうと語弊がありますが、本を読むことを進める家庭教師をいなしてお酒を楽しんだり、母王妃に「この女性たちから花嫁を選ぶのよ」と言われて物思いに沈む様子など、とてもわかりやすい。何となくですが、それはコルプの演じたかった王子とは思えなかったんですよね。あの薄い薄い愛すブルーの瞳にはそぐわないとこちらが勝手に感じているだけなんですけど、できれば新国立で見た王子の進化形を見たかったな。

そんな訳で、コルプについては役作りよりも、ひたすら力強いサポートとノーブルで柔らかい踊りそのもののバレエの本質のほうがストレートに入ってきました。特に今回は男性陣がみなお疲れモードの中ただ一人安心感のあるサポートで女性を支え、ノーブルで驚異的に柔らかい背中と美しいつま先で踊ってみせてくれた事が、どれだけ安心感を与えてくれたか。彼(とヴィシニョーワも)の周囲に漂う空気は他の場所より密度が濃いような気がするのですが、そんな空気の独特さよりもマリインスキーのプリンシパルとしての底力を見せつけられた気がしました。

ちなみに、コルプの衣装はたぶん自前デザインで、袖にぱふぱふのついたタイプ。多分、以前新国立にゲストで出た時と同じものだと思うのですが。彼は腕の筋肉が太いので、あのぴったりした王子衣装だと動きにくいのかもしれないですね。

ヴィシニョーワも、コルプの安定感と呼応するようにパーフェクトでした。特に1幕2場のアダージオは素晴らしかった。技術的に安定し拮抗した2人が踊ると、こんなにも感嘆してしまうものなのねー。決して儚げな白鳥ではなく自分で運命を切り開ける強さを持ち合わせているとは思うけれど、コルプが更に力強く支えてくれるから「頼るべき人ができた」と見える。自分の肩で全ての重荷を背負わなくてもよくなったヴィシニョーワのオデットは、何とも言えず柔らかかったです。そういう意味で、コルプが相手の時のヴィシニョーワが、私は一番好きかもしれない。

彼女の場合、腕や脚先の動きで気持ちを表現するというよりは、視線が物語ってストーリーを紡いでいたような気がします。いや、もちろん他のダンサーだって視線で語っているしヴィシニョーワだって腕や脚先に情感を込めて踊っているのですが、視線で語る要素が非常に強かった気がするの。それが「わかりやすい」と感じる所以だったのかな、なんて思うのですが。

実は今回見たマリインスキー公演の中で唯一、未だに咀嚼しきれていないのがヴィシニョーワのオデット/オディールなんですよね。彼女がつくりあげたオデットもオディールも存分に楽しんだのに、未だにそれを言葉に表現できない。あの場面がこうだった、そこはこうだった、って話すら出来ず、とても回りくどい感想しか書けないのが情けないんですけど・・・個人的にはオディールよりオデットの方がよかったと思いますが、オディールがあったからこそオデットが良いと思えるんじゃないかとも感じます。それもヴィシの戦略かしら、なんて。

ヴィシニョーワは黒鳥のパ・ド・ドゥの部分、振付をかなり変えて踊っていましたよね。役の解釈だけでなく振付まで独自にしちゃえる彼女というのは、マリインスキーでは破格の扱いと言えそうです。他にも、今回の私の注目ポイント、3幕のアラベスクで下がるところも2度目は別の踊りになっていたような(でもどんな風に変えて踊ったかは覚えてないという情けなさ)。それにしても、技術/体力がピークにあるダンサーが踊ると本当に盛り上がりますねー。

ヴィシニョーワのチュチュも自前ですが、あの黒に青い模様の入ったチュチュをもう1度見るのをとても楽しみにしていました。照明のせいか、新国立で見たときよりずっと色鮮やかに映えていて美しかったー。そして前回は気付かなかった(か忘れてた?)のですが、スカートのチュールに1枚だけ紫色のものが挟んであるんですね。コルプにリフトされると、その紫が見えるのがまた素敵で。ヴィシニョーワによく似合っていますよね。

さて、どうにもヴィシのことは上手く書けないのでパ・ド・トロワについてメモ書きをして、感想を締めくくろうと思います。いつか、よい言葉が浮かんだら追記したいと思いますが、ちょっと望み薄かも・・・。

この夜のパ・ド・トロワはスホルーコワ/ノーヴィコワ/シクリャローフの若手ブイブイいわせてるぞコンビ。シクリャローフくんのサポートは昨日より上手くいってましたが、個人的にはそんなにしゃかりきになって飛ばなくても脚あげなくても、という気がしないでもない。マリインスキーの男性陣ならば全体の調和を乱さずにさらりとスゴイことやらないとね。ま、若いし飛べちゃうからねー、そのまますくすく育って行って下さいね(相変わらずの保護者モード)。あれ?上手くまとまらなかったけど(^^;) この辺にしておきます。


11月29日のヴィシニョーワ・ガラから計8公演、よく通ったものだと我ながら呆れたり感心したり。そして、見る度に、自分がいかにマリインスキーのスタイルを愛しているか、更に愛してしまったかを実感する至福の日々でした。タイトなスケジュールの中よいパフォーマンスを見せてくれたダンサーのみなさんたちと(それなりに)がんばった指揮者とオケのみなさん、そして最大限の努力をしてくれたJAさんに感謝します。ありがとうございました。また次の来日公演でも素晴らしいバレエを見せて下さいね。3年後かぁ・・・遠いなぁ。