2007年8月13日 ゆうぽうと 簡易保険ホール

第1部

「タランテラ(Tarantella)」

振付:ジョージ・バランシン/音楽:ルイ・モロー・ゴットシャルク/編曲:ハーシー・ケイ
メラニー・ユレル/アクセル・イボ

初見です。姉御肌のユレルと弟分アクセルくんによる、楽しくて勢いのある"プレゼンテーション"に満ちたパ・ド・ドゥ。もう少し音にピシピシっとハマると更に快感度の高い演目でしょうね。テープだったしある程度は仕方ないと思うけど。でもその分を差し引いても、2人はキラキラと魅力を振りまいてくれていました。

タンバリンをパシパシ打ち鳴らし「どう?」と客席に向ってニッコリ。アクセルくんがこんなプレゼンテーションをしてくれるとは思っていなかったので、嬉しい驚き。彼の踊りは柔らかくて、そのアクセントが心地よい。タンバリンの使い方もとても上手で、彼向きの演目だなーと思いました。確かリフトとかサポートとかってほとんどなかったですよね。それも良かったのかな。若手男性ダンサーのサポートにハッとする事ってのもありますしね。

ユレルの衣装は赤いボディスに白に縁だけ赤のラインの入ったチュチュ。チュチュのボリュームの割にはボディスがコンパクトすぎて、上半身がゴツく見えたのがちょっと気の毒。実際そういう体型ではあるのだけど、もう少しなんとか出来なかったのかなぁ。ガラの1演目の為じゃ難しいか...。でも、踊りはパキパキと気持ちよく、彼女に向いた演目だったんじゃないかな。楽しそうだしニコニコ可愛かったし、華やかでした。

「アベルはかつて...(Abel Etait...)」

振付:マロリー・ゴディオン/音楽:アルヴォ・ペルト
グレゴリー・ドミニャック/ステファン・ビュヨン

前回も思ったけど、とても美しい作品だと思います。前回見た時はサイズとビュヨンで、その時とはカインとアベルの関係性が違って見えました。前回は(私の受けた印象では)最初から異質の兄弟で(サイズはビュヨンの方をほとんど見ていなかったような)2人には"選ばれし者"と"選ばれざる者"の対比みたいなところがあったので、最後に嘆くカインの哀しみも弟を殺してしまった罪への嘆きというより、"選ばれざる者の苦しみ"と受け取れたんですね。

でも今回は2人は仲の良い兄弟でした。白い布の分配があるまでは。ドミニャックとビュヨン、2人のバランスもよかったのだと思いますが、そういう(仲のよいという)解釈の兄弟だった。だから、白い布の分配の後は2人とも苦しむし、最後の嘆きも"嫉妬によって弟を殺してしまった兄の嘆き"と感じられるので、感情移入もしやすかったし、原典の解釈としてはもしかしたらこちらの方が正しいのかな。聖書はずいぶん昔に読んだきりなのでよくわからないんですけど。


「ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ(Donizetti Pas de Deux)」

振付:マニュエル・ルグリ/音楽:ガエターノ・ドニゼッティ
ドロテ・ジルベール/マチュー・ガニオ

ルグリの振付作品。若手育成プログラムって感じでしょうかね。ジョゼの「ドリーブ組曲」はジョゼが得意そうな振付がたくさん入って更に観賞用としてひねりを加えたものだったけど、こちらは更に技巧的で「これを踊りこなして、かつエレガントに!」というルグリ先生の声が聞こえそうな感じ。技巧的な部分のひねりが多いので(女性のフェッテの軸足を何回かに1回変えるとか、とにかく盛りだくさん)ルグリの期待に応えるのは大変だと思いますが、ドロテちゃんもマチューも危なげなく堂々と踊っていました。

揺るぎのない技術+エレガンス+ダンサーとしての輝く資質をも要求する作品という感じで、今のところ(初演でもあることだし)ドロテとマチューだからこその作品なんじゃないかなぁ。この2人、Aプロで1回後方で見た時はパートナーシップは大丈夫なのか?と心配したりもしたのですが、こちらの作品は前で見たせいもあるのかな?とても心地よいペアでした。アイコンタクトもバッチリだし、何より2人ともキラキラしてた〜。ルグリの念入りな教育が忍ばれるとも言えますね。

でもあの衣装はねー。担当はセシル・クリスティさんという方だそーですが、ルグリはあの衣装で満足なのか?と思わずにはいられませんでした。赤〜ピンク〜黄色の色合いの上に黒レース重ねのようなテクスチャー+デザインの衣装、これも着るダンサーを選びそうですね。衣装がフィギュア競技とかシンクロとかスポーツ芸術系を思わせるので、何となく作品の後味もスポーティに傾いてしまって、本質を忘れてしまいそーでもったいない。

「オネーギン(Onegin)」

振付:ジョン・クランコ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
モニク・ルディエール/マニュエル・ルグリ

タチアナの心の叫びが、痛みが、オネーギンへの愛しさが、まるで自分の心の動きのように思えた時間でした。ルグリも本当に素晴らしかったけれど、やっぱりモニクへの最大級の賛辞を。これが最後だなんて本当に残念だけれど、その渾身の演技を見る事が出来て幸せでした。泣きすぎて、休憩でホワイエに出るのが恥ずかしかったです...

第2部

「ビフォア・ナイトフォール(Before Nightfall)」

振付:ニルス・クリステ/音楽:ボフスラフ・マルティヌー
第1パ・ド・ドゥ:メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
第2パ・ド・ドゥ:エレオノーラ・アバニャート、ステファン・ビュヨン
第3パ・ド・ドゥ:ドロテ・ジルベール、オドリック・ベザール
3組のカップル:マチルド・フルステー、ローラ・エッケ、シャルリーヌ・ジザンダネ、アクセル・イボ、グレゴリー・ドミニャック、マルク・モロー

男性陣は上半身裸で黒タイツ姿。女性陣はグレー系濃淡の入り交じった膝下丈のドレスで、背中のストラップが赤だった。どんな作品かさっぱりわからなかったので、順番に出てきて踊るのかなーと思ってましたが、そうではなく、カップルたちの群像みたいな中からそれぞれのストーリーが浮き出るようなもの、、、かなぁ。最初に女性ダンサーの背後から男性ダンサーが抱きしめるような動きがあったのですが、よく見たら男性同士、女性同士のペアと男性の背後から女性が抱きしめるペアもいました。

ユレルとエイマンくんのペアもいいなーと思っていましたが、第2パ・ド・ドゥのアバニャートとビュヨンくんのペアは群を抜いてました。アバニャートはホントにこういう作品でドラマを作り上げるのが上手いと思う。

「牧神の午後(L'apres Midi D'un Faune)」

振付:ティエリー・マランダン/音楽:クロード・ドビュッシー
バンジャパン・ペッシュ

ペッシュ、恍惚と、嬉しそうに、そして大真面目で踊ってました。巨大な白いボックスティッシュ、使用後らしき丸めて捨てられたティッシュが2つ。ニジンスキーの牧神を思わせるポーズを折り込みつつ、白ブリーフ姿のペッシュが嬉しそうにその3つの物体を行き来するのが可笑しくて仕方なかったけど、周囲は誰も笑ってなかったので我慢。床も白いので、舞台全体が何の翳りもなく明るいところでのただ純粋に歓びを求める行為、というふうにとることもできるんだけどねぇ。

プログラムの演目紹介に記載されたペッシュによるこの作品を踊るに当たっての文章を読むと、ホントに真面目で自分なりのアプローチで求める方向へ進んで行く人なんだろうなーと思って、ちょっと応援したくなっちゃいました。日本で披露できたことも嬉しかったのでしょうね。カーテンコールでもノリノリで、牧神風に手から出てきたり、牧神ジャンプ(?)で出てきたり。お茶目なにーちゃんでした。

第3部

「ジュエルズ(Jewels)」より"ダイヤモンド(Diamonds Scene)

振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー
ローラ・エッケ/オドリック・ベザール

ローラ・エッケ、先が楽しみなダンサーではあります。ルテステュの硬質な冷たさ("高級店のショーウィンドウに飾られたダイヤモンド"と私は思うのですが)ともまた違う、人肌の暖かさがあるダイヤモンド。ただ、彼女と同年代くらいの女の子がお給料を貯めて買うカジュアルなファースト・ダイヤモンド、かな。でも大切に身に纏っている感じ。いつか、「エッケが最初に日本で披露したダイヤモンドを見たんだけどね〜」なんて言える日が来るかしら?とちょっとだけ思いました。ベザールくんはやっぱり姿勢が気になる。それと、2人とも音楽性は物足りなかった、かな。

踊るダンサーに最上級の格式を要求するこの作品に、若手をキャスティングするのはちょっと、という気もします。特に、私を含めてロパートキナのダイヤモンドを見た人も多いに違いない場所では、見る目が多少厳しくなるのも致し方ない、かしら。例えばエッケの相手役が別のダンサーだったら違って見えたかも?と思ったりもするのだけど、今回のメンバーで適任を見つけるのは難しいよね、たぶん。

「ドリーブ組曲(Delibes Suite)」

振付:ジョゼ・マルティネス/音楽:レオ・ドリーブ
ミリアム・ウルド=ブラーム/マチアス・エイマン

ミリアム可愛い!チュチュの感じが、アニエスとは印象が違ってました。肩ひもがブルーの飾りになっていたり、チュチュもミリアムのプロポーションにぴったりなボリュームに増えていたり、あと、たぶんボディスを飾る交差リボンの位置も違った、かな。シニヨンの位置がすごく高くてそこに髪飾りを付けていたのも、可愛さに拍車をかけていて、もう釘付けでした。

この2人はジョゼ/アニエスのような高身長カップルではないので、最初のシルエットのところで「あ...小さい」と少々テンションが下がったのですが、それを逆手にとったような「可愛いけど超絶技巧」なペアになってました。2人の雰囲気もいいですよねー。ミリアムったら、マチューの時はアイコンタクトもしない感じだったのに(遠くから見た印象)エイマンくんとはコンタクトしまくり。最後のシルエットでもエイマンくんがミリアムのほっぺにキスしてたし、なんだかホントに可愛かった。ジョゼとアニエスみたいなエトワールの風格/大人の遊び心っていうのも面白かったですが、私はこの2人の、輪郭のはっきりした若さ溢れる踊りもすごく好きだなー。

「さすらう若者の歌(Le Chant Du Compagnon Errant)」

振付:モーリス・ベジャール/音楽:グスタフ・マーラー
ローラン・イレール/マニュエル・ルグリ

まさかもう1度この演目をこの2人で見られる日が来ようとは。
イレールは、さすがに3年前よりは年齢を感じる風貌。踊りにも少しそういうところが垣間見えて、最初はちょっと残念な感じがしました。でも彼がこの作品において私たち観客に差し出してくれるものは、もしかしたらそういう今だからこそ、より味わい深いのかも。何度も繰り返されるモチーフの心情の違いが手に取るように判るのも、今の2人が踊っているからなのかな。

途中からどんどん涙が溢れてきて、止まりませんでした。振付がうんぬんとか、ダンサーの2人がどうこうってことではないと思うのですが、心のうんと奥の何か非常に弱い部分を揺さぶられた感じ。カーテンコールになってもなかなか涙が止まらなくて困りました...

それにしても、今回はルグリ・ガラのファイナルだというのに、ルグリは自分がメインで見せつける演目がなかったですね。なんともったいない。各プログラムであと1つくらい見たかったなぁ。そういう意味では、オレリーの怪我は本当に残念。彼女がいたら、と思わずにはいられません。


カーテンコールは、ダンサーたちもハードなツアーを乗り切って晴れ晴れとした表情でした。ファイナルのお約束でトリコロールの紙テープやゴールドの紙吹雪(これはずっと降り続いていた)が舞台を彩り、ルグリからのメッセージが書かれた看板(「またお逢いしましょう」みたいなことが書いてあった)が降りて来たり。本当に何度も何度も繰り返されるカーテンコール、ペッシュが上機嫌でアバニャートをいじっていたのが印象的。また彼女もそれが嬉しそうで...ごちそうさま(笑)。イレールがルグリの背を押して、一人で観客に応えるように促していたのも印象的でした。

カーテンコール終了、と同時に舞台の方から大歓声と大きな拍手が聞こえてきました。本当に幕がしまってすぐだったので、私たち観客も思わず笑ってもう1度彼らを讃える拍手。そうしたら、なんとまたルグリが出てきてくれて、更に幕があがってもう1度カーテンコール。ダンサーたちもすっかりリラックスした表情になっていました。ハートウォーミングな公演、ルグリとダンサーのみなさんに心からお礼を。ありがとう。