2007年9月1日マチネ 新国立劇場 オペラパレス

クレジット

指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ(マリインスキー)、パーヴェル・ソローキン(ボリショイ)/演奏:東京ニューシティ管弦楽団

第1部

「エスメラルダ」第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:ニコライ・ベリオゾフ/音楽:リッカルド・ドリゴ、チェザーレ・プーニ、ロムアルド・マレンコ
エカテリーナ・クリサノワ、ドミートリー・グダーノフ

クリサノワ、明るい踊り方をする人ですね。演目のせいもあると思うけど、A/Bプロとも表情が生き生きしていて吸い寄せられる。プロポーションもよいし、踊りもハキハキしてて気持ちがいい。タンバリンがすごく小さいせいかパシパシ音が鳴らなかったのが少々もったいなかったかな。やっぱりこのヴァリエーションは景気よく音を響かせて踊ってくれた方が満足度は高いから。それと衣装がとってもとっても素敵だった。深いグリーンのベルベットのボディスに同系色のチュチュ。金糸で刺繍が入ってたような気がするけど、それはうろ覚え。グダーノフはたぶん初見。安定したダンサーだと思いました。派手ではないのでこういうガラ(しかもマチソワでマチネの最初だもの)だと印象が薄くなっちゃうけど、クリサノワを引き立ててました。

「マグリットマニア」デュエット

振付:ユーリ・ポーソホフ/音楽:ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、ユーリー・クラサーヴィン
ネッリ・コバヒーゼ、アルテム・シュピレフスキー

ルネ・マグリットの絵からインスピレーションを得て振り付けられたアブストラクト・バレエ、とのこと。赤いドレスのコバヒーゼと白いシャツにサスペンダーのついた黒ズボン姿のシュピレフスキーは美男美女のペア。雰囲気があってよかったです。シュピレフスキーはベルリン時代のソロルの印象があったのでどうかなーと思っていたのですが、彼らは今回いい演目を持って来たと思います。ホントに絵になる2人。コバヒーゼはプロポーションはいいし詩情があるのが素晴らしい。今回すっかりファンになりました。それと、こういう音楽も生オケでやってくれるのがありがたかったです。

「海賊」第1幕の奴隷の踊り

振付:マリウス・プティパ/音楽:オルデンブルク公爵
ニーナ・カプツォーワ、アンドレイ・メルクーリエフ

ボリショイの新版の衣装ですよね。見ている時はランケンデムとグルナーラだと思っていたので、メルクリエフが男性ヴァリに入る前だけ、思い出したように奴隷商人らしく表情をつくったのに笑ってしまったのですが(あとはとても素敵な殿方として踊っていたので)、ボリショイでは奴隷カップルの踊りだそーで。ん?だったらあの悪ぶった表情はなんだったのだ?ちょっと手をついちゃったミスがあったけど、それ以外は相変わらず素敵でした。カプツォーワは初見。なんてかわいらしくてプロポーションがいいの!柔らかさと軽さがあってとてもチャーミング。売られる奴隷がそんなとびきりの笑顔でいいのか?と思いつつ、こちらも釣られて笑顔になっちゃう。このパ・ド・ドゥを見て幸せな気分になる、という反応は正しいのかどうか(笑)。


「ジゼル」第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジュール・ペロー、ジャン・コラーリ、マリウス・プティパ/音楽:アドルフ・アダン
スヴェトラーナ・ルンキナ、ルスラン・スクヴォルツォフ

たぶんこの2人も初見。幕があくと下手側に2人が立っていて(十字架にアルブレヒトを守ってもらうところ)、すーっと辺りの気温が下がったような錯覚に。ルンキナ、素晴らしかったです。見事に精霊ジゼルでした。技術的にも安定していて無理がないし、スクヴォルツォフが安定したサポートをするので、余計にすーっと空気中を漂うように見えました。このパ・ド・ドゥだけで愛や赦しを汲み取って感動するのは難しい事ですが、とても端正なパ・ド・ドゥを見られて大満足でした。

「ファラオの娘」第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ、ピエール・ラコット/音楽:チェザーレ・プーニ
マリーヤ・アレクサンドロワ、セルゲイ・フィーリン

この2人が出てくると舞台がパーっと華やかになりますね。笑顔であの細かい脚さばきをぴったり合わせて踊るのは脱帽です。そしてフィーリンのこの衣装は眼福以外の何ものでもない(笑)。互いへの信頼感とか2人で踊る歓びみたいなものがダイレクトにこちらに伝わってくる。そしてそういうペアの踊りは見ているこちらまで幸せにしてくれる、ということでとても楽しみました。

「パリの炎」第4幕のパ・ド・ドゥ

振付:ワシーリー・ワイノーネン/音楽:ボリス・アサフィエフ
ナターリヤ・オシポワ、イワン・ワシーリエフ

若手がボリショイのトリというのもスゴイことだと思いますが、2人ともよく飛びよく回り、客席も大盛り上がりでした。ワシーリエフくんはプロポーションに難があって、踊りも少々雑なところはあるものの、破竹の勢いがあって視線を絡めとられてしまう。オシポワは親しみの持てる顔立ちのコで、しかも技術的に行き届いた踊りがゴムまりのように軽い。2人の組み合わせはきっと今後も頻繁に見られるでしょうね。今のところは運動会的なところも多々あるのだけど、この演目ならお祭りとして楽しめます。魅力に溢れたペアでした。

第2部

「ばらの精」

振付:ミハイル・フォーキン/音楽:カール・マリア・フォン・ウェーバー
イリーナ・ゴールプ、イーゴリ・コールプ

イリーナ・ゴールプ、初見かと思ってたけど、去年の来日公演で何度も見てました。すまん。ゴールプは元々パーツのはっきりした美人さんなのに派手派手メイク(こんがり焼けた肌にブルーのアイシャドウとぽってり描いた唇)が過多な感じで、誘惑されるのを手ぐすね引いて待ってるみたい。そこに跳躍で飛び込んできたコールプも日焼けしていたせいか、前回オールスター・ガラで見た時とはまた違う印象の薔薇の精。今回は薔薇の香りで少女を誘惑するというより、魔法でたぶらかしに来たみたい(笑)。あの腕の動きとラインは相変わらず見事で、こちらまで魔法にかかってうっとりしちゃいましたけどね。コルプの薔薇の精って、途中で少女がパっと椅子から立ち上がって踊り出す時に、その椅子の向こう側で客席に背を向けて腕をうねうねと動かしているのがツボなんですよ。演目としては、前回オールスター・ガラで見た時の方が好きだったかな。今回が悪かったという事ではなく、私の好みとして。

「サタネラ」パ・ド・ドゥ(ヴェニスの謝肉祭)

振付:マリウス・プティパ/音楽:チェザーレ・プーニ
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ、ウラジーミル・シクリャローフ

オブラスツォーワ、なんて可憐なんでしょう〜。シクリャローフ相手だと更に健気にも見えます。見た目はかわいい2人なんだけどね。なぜに「サタネラ」だったんだろう?えっと、私はシクリャローフにはすくすく上達していってほしいと切に願いつつ応援しておりますが、やっぱりサポートはまだまだ。母親目線だと「よくがんばって少しは上達してる気がするわ」と思うんですが、いっぱいいっぱいなので音に遅れてしまうし。ヴァリアシオンの方はよくがんばってたと思います。せいいっぱい「にかっ」と笑顔の大サービスも微笑ましい。カーテンコールは拍手をもらっているのだからしっかり笑顔で出て来ていいと思うんだけど、2人ともちょっと居心地悪そうに早々に引っ込んじゃいました。

「3つのグノシエンヌ」

振付:ハンス・フォン・マネン/音楽:エリック・サティ
ウリヤーナ・ロパートキナ、イワン・コズロフ

これはロシアからピアニストがいらして舞台上で生演奏。ブルーのレオタードに同色の膝丈スカートのロパートキナと上半身裸で同じブルーのタイツ姿のコズロフ。コズロフはほとんどサポートだけでしたが、長身でハンサムさん。でもって筋力がすごくあるのでしょう、持ち上げられたロパートキナの姿勢がまったくブレません。だから、見てる方がそういうブレの修正を脳内でする必要がなくて、彼らのムーヴメントがダイレクトに入ってきました。音楽と踊りが見事に重なるのが心地よくて、ひたすらに堪能。ロパートキナの初演の動画をどっかで見た覚えがあるのですが、ロパートキナもその時より素晴らしいと感じました。音楽に満たされた、幸福な舞台。

「エスメラルダ」より"ディアナとアクテオン"のパ・ド・ドゥ

振付:アグリッピーナ・ワガーノワ/音楽:リッカルド・ドリゴ
エカテリーナ・オスモールキナ、ミハイル・ロブーヒン

オスモールキナは、前回の来日公演で気に入った若手ダンサーの一人で楽しみにしてました。たかだか8ヶ月か9ヶ月ぶりだというのに、綺麗になってたなー、オスモルキナ。彼女のアームスの柔らかさがとても好きなので、弓を射る動作にいちいちうっとりしていました。ロブーヒン、テンション高かったです。日焼けしてて白っぽい金髪で筋肉隆々であの衣装だから、野生児そのもの。

「グラン・パ・クラシック」

振付:ヴィクトール・グゾフスキー/音楽:ダニエル・フランソワ・オーベール
ヴィクトリア・テリョーシキナ、アントン・コールサコフ

テリョーシキナはオールスター・ガラのこの演目の時は白いチュチュだったけど、今回は艶やかな紫のチュチュ。踊り的には前回の方が盤石でしたが、今回もしっかり楽しませていただきました。コールサコフはたぶん初見。オーラに包まれたテリョーシキナと並ぶと地味に見えるけど、安定していて外れがないですね。

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」

振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アリーナ・ソーモワ、アンドリアン・ファジェーエフ

ソーモワはホントに手脚が長いですね。アダージョの最後のポーズ(自分の交差した腕に身体を預けるアレ)も、ファジェーエフが彼女の手を掴んだ位置とかソーモワの腕の交差する位置とかが見た事ない場所にありましたよ。でも、今のところ彼女にこの演目はないだろう、というのが正直なところ。音に全くハマらないバランシンはちょっとね...指揮者もダンサーに合わせようとするから余計に大変な事になってたような。私、チャイパド見て酔いそうになったのは初めてです。その点ファジェーエフはスマートに音に乗って踊っているし、いつも通り素敵なのでうっとり。でも、もう少し溌剌と踊ってくれたらいいのになぁ。

「瀕死の白鳥」

振付:ミハイル・フォーキン/音楽:カミーユ・サン=サーンス
ウリヤーナ・ロパートキナ

マチネの白鳥は、生を求めてもがいていました。美しいアームスが激しく宙を泳いで、生きたいと熱望しながらこと切れる白鳥。その生への渇望を表すアームスがちょっと意外な気もしました。ひんやりとした印象のあるロパートキナが、とても熱いものを込めて踊っているように思えたから。完璧なフォルムに酔い、生で見られた感激に震えた、ほんの数分だけの至福。

「ドン・キホーテ」

振付:アレクサンドル・ゴールスキー/音楽:ルードヴィヒ・ミンクス
オレシア・ノーヴィコワ、レオニード・サラファーノフ

ノーヴィコワは去年の来日公演ではちょっと粗さが目立つかなと思っていたのですが、その粗さが消えて成長の跡が伺えました。まだ小粒ではあるけれど、キュートなキトリだったな。サラファーノフは、彼にしては不調。流れるように超絶技巧を入れてブレない人なのに、軸がズレてたし技もちょっと不発で。他のダンサーならそれでも十分盛り上がるところだけど、彼だからこそ、って感じでしょうか。


フィナーレは、ドンキの2人が舞台中央から両袖にいる他のダンサーたちを呼びよせて(上手から女性ダンサー、下手から男性ダンサー)ペアになってぐるっと円を描きつつ袖に消える中をロパートキナとコズロフが中央に残り(ロパートキナが少し勢い余ってキャッてなったのが可愛かった)。そのペアから次々と出てきては自分たちの踊りの一部分を披露して行く、という趣向。最後に記念写真っぽく集合してポーズ。楽しいフィナーレでした。そしてみんな楽しそうなの。

カーテンコールには両指揮者のみならず両芸術監督も登場。一度幕がしまった後でまた開いた時に、ロパートキナが隣りのダンサーとお話してたみたいで"あらっ"って感じでポーズをただしていたのも親しみが湧いちゃった。そんなフィナーレがあった事も手伝って、ホントに楽しかった、ロシア・バレエが好きだーとしみじみ幸せな気分でした。できれば2年か3年に1回、恒例にして欲しいくらい。でもって、次回来日公演の宣伝をかねて上演予定演目のパ・ド・ドゥも含むようにするとか。

Aプロ全体の雑感としては、ボリショイの方が観客への見せ方は上手いと思いました。演目のチョイスもダンサーの良さを引き出していて、ラトマンスキーの手腕かなー、と。マリインスキーは演目のチョイスもダンサーたちももう少しおっとりしていて、それも愛すべき点ではあるのです。殿方たちがとにかく控えめだし、拍手に応えるのも割と短い時間ですっと去ってしまうから、もうちょっと盛り上げてもよかったんじゃないかなー。ガラだからねぇ。あと、オケの音もボリショイとマリインスキーでは別物のようでした。それって指揮者の違いって事なんでしょうか?マリインスキーは音と踊りが合わなくて居心地が悪いと感じる瞬間が多かったので、ダンサーに合わせすぎる必要もなかろうに、と素人のくせに偉そうに思ってしまいました。その辺も盛り上がりに欠けた理由の1つかも、という気はします。せっかく指揮者呼んでコレではちょっともったいない。でもまぁ、全体的にはかなり満足度の高い公演でした。すごく楽しかったよー。価格があとちょっと安くてスケジュールが許せば全部通いたかった位です。このAプロにはNHKのカメラが入っていて放映があるそうなので、とても楽しみです。