2007年11月11日 新国立劇場オペラ劇場

クレジット

演出・振付:牧阿佐美/音楽:エクトール・ベルリオーズ/編曲:エルマノ・フローリオ/舞台装置・衣裳:ルイザ・スピナテッリ/照明:沢田祐二/舞台監督:森岡肇
指揮:エルマノ・フローリオ/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

マルグリット・ゴーティエ:田中祐子
アルマン・デュヴァル:ロバート・テューズリー
デュヴァル卿(アルマンの父):森田健太郎
伯爵:イルギス・ガリムーリン
プリュダンス:厚木三杏
ガストン:冨川祐樹
ナニーヌ(召使):神部ゆみ子
村人:小野絢子、井倉真未、福田圭吾
ジプシー:川村真樹、大和雅美、難波美保、千歳美香子、寺田亜沙子
メヌエット:マイレン・トレウバエフ、八幡顕光
アラブ:真忠久美子、中村誠、酒井麻子、細田千晶、今井奈穂、大湊由美
チャルダッシュ:遠藤睦子、西山裕子、丸尾孝子
タランテラ:高橋有里、吉本泰久、江本拓
医者:エリク・T.クロフォード


感想

「椿姫」3回目。
マルグリットの心の動きが一番納得でき、また共感もできたのが今日の田中さんでした。1幕のプロローグ、医者の診察を受けるマルグリットが紗幕越しに浮かび上がりますよね。ザハロワと酒井さんは医者の表情から救いを見出そうとしてた気がする。「先生、私はすぐに治りますよね」と。でも田中さんのマルグリットはこの時点でもう自分の人生がそう長くはあるまいと悟っているようでした。

だからアルマンの必死な愛の言葉も最初は本気にもせず笑って受け流すだけ。もちろん他の二人もそのように笑って受け流していたけれど、それはいきなりすごい勢いで愛を告白してきた若い男をたしなめるとか、自分にはパトロンがいるからとか、そういう風に見えた。でも田中さんの冒頭の表情に諦めと悟りを感じた事で、私の受け取り方が変わったのね。自分の人生があと少しで終わるという時に新しい恋人を作る事など考えはしないよね、と。それがふと、一途なアルマンを信じてみようと決意する。そう思うと1幕1場最後のマルグリットのソロにも意味が与えられて見えました。

そしてまた1幕2場冒頭の恋人たちが心底幸せそうなんだよねぇ。1幕1場とは別人のような田中マルグリットの明るい表情は、愛だけでなく人生そのものに明るい光を見つけた幸せに溢れていました。それだけに、その後の不幸がよけいに哀しくて...

しっかりと、そしてとても柔らかいラインで踊る田中さんは本当に安心して見ていられます。はなさんは更に艶やかでドラマティックだったけど、これは本当にもう好みの問題ではないかと。見る順番にもよると思うしね...そういう意味では初見でいろいろ考えながら見ていたザハロワのマルグリットをもう一回見たかったな、とも思います。

田中さんのマルグリットでもう1つ印象的だったのは、デュヴァル卿とのやりとりの場面。マルグリットが大切にしている(アルマンからもらった)詩集をテーブルの上に見つけたデュヴァル卿は、それが自分の息子の持ち物であった事を知っているのですね。デュヴァル卿が最初にその詩集に目を留めた時、田中マルグリットはハッとしたようでした。そしてまたデュヴァル卿が詩集に近づいて今度はそれを手に取ると、それをやんわりと咎めるように椅子から立ち上がってデュヴァル卿に近づくの。すごくきめ細やかな役作りだと思いました。パ・ド・ドゥの精度自体ははなさんと森田さんの組み合わせの方が上だったけど、田中さんと森田さんの組み合わせも素敵でした。

テューズリーのアルマンは私が見た3人の中で一番「社交界の住人」でした。若くて一途だけど洗練された恋愛の手練手管も多少は持ち合わせている感じ。マルグリットが長椅子に座り込んで咳き込んでいるのを見て、アルマンが自分の白いマフラーを彼女の肩に掛けるシーンがありますよね。あの時のテューズリーはマルグリットのすぐ近くまで顔を寄せていて、だから驚いてふり返ったマルグリットはアルマンの美しい顔立ちにハっとしたハズです。そういうところ、上手いなーと思って。

踊りはもちろん文句なく綺麗。そして田中さんがしっとりと踊る分だけテューズリーの熱情的な踊りが若さと情熱を表していたようです。瑞々しさではマトヴィエンコが素晴らしかったけど、その分テューズリーは演技と踊りのバランスが素晴らしかったと思います。ドラマティックだった。田中さんとの相性もよいですねー。一番最後の嘆きも、静かながら一番感情がこもっていたのではないでしょーか。ちょっとジーンときたもん。

今日も森田健太郎さんは最高のデュヴァル卿でした。ドラマが引き締まってすばらしかったです。ブラヴォー。伯爵はガリムーリン。マルグリットとアルマンが運命的な出会いをしている頃に、舞台下手の長椅子でプリュダンスをめちゃくちゃ口説いてました(笑)。お金持ちって以上に女好きな感じがして笑えたけど、もっと鼻持ちならないヤツになってくれてもよかったかも。ガストンは冨川さん。プリュダンスと1幕と2幕で出て来た時に親しさの度合いが違っているのは分かりやすかったけど、とらえどころのない役なので難しいよね。踊るところは貫禄がありました。彼は伯爵の方がよく演じてた気がします。

プリュダンスの三杏さんは本当に美しかった!彼女が出てきた瞬間に、ああやっぱり厚木さんのマルグリットが見たかった、と思ってしまった。あの細く長い首、華奢な肩、もうぴったりだと思うんだけどー。彼女のプリュダンスはマルグリットの誠実なる友。品もよくて、伯爵に口説かれてもそこそこ適当にあしらってるし、2幕1場の夜会でガストンとおしゃべりする時も背筋をすーっと伸ばして(それがたまらなく好きなんだけど)おしゃべり。招かれざる客であるアルマンとマルグリットが鉢合わせした時も心底心配そう。役作りの点では湯川さんのプリュダンスが一番原作に近くて面白いと思ったけど、厚木さんはお気に入りなので、彼女が演じるならソレもありだろう、と。でも、こういう役で独自性を出して演技を見せつけてくれたら、と思わずにもいられない。初日の酔っぱらい婦人は可愛かったもんねぇ。

村人のパ・ド・トロワと2幕のディヴェルティスマンは初日と同じメンバーだったと思いますが、サスガに初日よりずっとまとまってました。川村真樹さんのジプシーは予想通り艶が増していましたよー。タランテラも3人ぴったり揃えてきました。マイレンの研究された女性らしい動きは見るたび感心しちゃうし、真忠さんと中村さんのアラブは何度でも見たい程艶やか。そういえば、1幕の酔客はこの日、吉本さんの位置に八幡さんが入ってましたね。

この日は1幕の時客席のどこかから場違いな拍手が何度もあって、非常にイラつきました。注意されたのか2幕は静かでほっとしましたが...田中さんが情感豊かに踊っている場面の途中でいきなり一人で拍手するので、何かの嫌がらせかと思ってしまった。そうそう、3日間続いてそれはどうかと思った事もあって、それは幕が上がる前に舞台方面から「よろしくお願いしまーす」などの野太い声が客席にも聞こえて来た事。1日めは割と前の方にいたので何を言ってるかしっかり聞き取れました。初演の初日だから仕方ないかと思ったのだけど、その後見に行った時もやっぱり何か聞こえてきて...あれは声量をちょっと加減していただきたいです。

えーと、それとやっぱり最後に言わずにはいられないのですが...このバレエ、結果的にはもっと準備期間が必要だったのでは、という想いがどうしても抜けません。世に同じ主題を持つ素晴らしい作品が他に存在する以上、オリジナル作品を作るための準備はもっと念入りにするべきではなかったか、と。私は別にディヴェルティスマンが入ってもいいと思うのですが、それならば主役2人の心の動きももっと丁寧に描かないと、2時間では駆け足すぎる。ならばいっその事、もっともっと削ぎ落として、中劇場でダブルビル、トリプルビル位で上演できる位の小品にするとか。そうすれば1つ1つの作品に出演する人は少なくても2ないし3演目合わせての出演者は増えるよね、メインを踊る人の数も物理的に増える訳だし。

新国立劇場を好きだからこそイロイロ思う訳ですが、ダンサーたちの連日の大熱演には大満足ですし、賞賛の拍手を惜しみません。楽しませてくれてありがとう。