In the Wings: Behind the Scenes at the New York City Ballet

発行:Wiley (2007/10/07)
商品の寸法:24.9 x 19.3 x 1.5 cm

ニューヨーク・シティ・バレエのダンサー、カイル・フローマンが写真と文章でNYCBのダンサーの1日(というよりカイル・フローマンの1日)を丁寧に描いた本です。サイズが意外と小さくてB5に近い。写真はたくさん収録されていますが小さいサイズのものも多く、写真だけが目当てならば少々物足りなさを感じるかもしれません。私も第一印象は「あれ?写真の比率が思ったより少ないなー」でした。

でも、一度パラパラと最後まで見てから、もう一度最初に戻ってピーター・マーティンスによる序文を読んだら、なんだか何だか胸が一杯になってきました。なんと暖かく愛情に満ちた文章。彼が書いている通り、これは被写体であるダンサーたちとスクール・オブ・アメリカン・バレエで若い頃から一緒に学び、同じカンパニーで一緒に踊ってきた”家族”によって切り取られた大きな”一族”の日常なのですね。

写真の比率が思ったほど高くないのは、カイル・フローマンが写真だけでなく文章にも注力している(ように受け取れる)からでした。

一人称の、あるダンサーの独白。
時系列に進んでいきます。10:15AM。クラスレッスンのためにスタジオに入るのが最近は気が重い(意訳ですが)という一文で始まる文章にドキっとして、それでじっくり文章を読まずにはいられなくなりました。1976年生まれで1996年にNYCBに入団したフローマンは、一般的には今まさに踊り盛りの年齢だと思うのですが、彼の文章から受ける印象からすると、勢いだけでは踊れない年齢になっているのだな、と感じられます。とてもナイーブでセンシティブな人だ、とつよく思いました。

それはシーズンオープニングの1日。NYCBは1シーズンにかなり多くのレパートリーを上演しますから、シーズンが始まってしまうと、ダンサーにはリハーサルの時間はそうたっぷりはありません。自分の身体の声に一心に耳を澄ませて舞台の準備をし、小さなアクシデントのためにバレエ団付属の治療室で手当をして、そしてステージの準備をして、踊って、喝采を受ける。

観客である私たちにも、ドキュメンタリー映像や各種の書物、そしてダンサーのblogなどで舞台裏での彼らの努力を知る機会が多くなっていますし、頭ではわかっているつもりなのですが、彼が一人称でその一日を浮かび上がらせた事で、そしてまるで彼の隣りで一緒に目にしたかのような「カイル・フローマンの視線そのもの」で切り取られた写真を見る事で、まるで彼の1日を一緒に体験したかのような心持ちになりました。

写真については、上に書いた通り、正に彼が普段目にしているものが、そこに焼き付けられていると思いました。現役ダンサーあるいはダンサー出身のフォトグラファーは多いですが、私が思うに、彼の写真はとても「個人的」ではないかと思うんです。彼の文章が、私にそのような印象を受け付けた可能性は多いにあります。でも、他のダンサー出身の写真家の作品よりずっと、その写真を撮った時に感じた心の声が聞こえてきそうな気がするのです。

たとえば、クラス前のガランとしたスタジオで黙々とストレッチするダンサーの後ろに映る壁一面の鏡。そこには(たぶんダンサーたちの肩より上の位置)に無数の手のひらの跡や背中をつけた跡のようなものが見えます。そこから、たとえばフロアいっぱいにマネージュしたダンサーが勢い余って鏡に手をついたのかな、というような場面が思い浮かびます。ガランとしたスタジオの写真なのに、そこから「動」というか、汗や荒い息までも浮かぶような。

それと、彼自身の約束事なのでしょうね、時間軸で区切られた10:15a.m.、11:30a.m.、、といった章の最初の写真には、必ずその時刻を指した時計が写り込んでいました。そういうところ、いかにもなんだけど好きだな。


ピーター・マーティンスについても、この序文でかなり印象が変わりました。NYCBという大きな一家の「父」であるマーティンスは、ダンサーが別のキャリアを始める事についても暖かい支援をするのだな、と思ったのです(全てのダンサーにそうできるかどうかはともかく、支援できることはしているのでは)。クリスティ・スローンの事もありましたしね。