2007年12月19日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ/音楽:P.I.チャイコフスキー/台本:マリウス・プティパ/改訂振付:ワシリー・ワイノーネン/演出:ガブリエラ・コームレワ/舞台美術・衣装:シモン・ヴィルサラーゼ/照明:ウラジーミル・ルカセーヴィチ/舞台美術・衣装制作:マリインスキー劇場
指揮:渡邊一正/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団/児童合唱:東京少年少女合唱隊

キャスト

マーシャ:ディアナ・ヴィシニョーワ
王子:アンドリアン・ファジェーエフ
ドロッセルマイヤー:ゲンナーディ・イリイン
シュタリバウム:貝川鐡夫
シュタリバウム夫人:湯川麻美子
フランツ:大和雅美
道化:グリゴリー・バリノフ
人形:高橋有里
黒人:江本拓
おじいさん:井口裕之
おばあさん:堀岡美香
2組の紳士、淑女:西川貴子、楠本郁子、陳秀介、中村誠
ねずみの王様:市川透
くるみ割り人形:八幡顕光
歩兵隊長:大和雅美
雪の精ソリスト:遠藤睦子、西山裕子
スペイン:西川貴子、市川透
東洋:湯川麻美子、神部ゆみ子、千歳美香子、今井奈穂、大湊由美
中国:寺島まゆみ、吉本泰久
トレパック:丸尾孝子、楠本郁子、貝川鐡夫
パ・ド・トロワ:小野絢子、井倉真未、八幡顕光
ばらのワルツ ソリスト:寺島ひろみ、真忠久美子、川村真樹、厚木三杏、中村誠、陳秀介、江本拓、マイレン・トレウバエフ


感想

2005年にもヴィシニョーワとファジェーエフがゲストで出た「くるみ」を見ているのですが、今回もイソイソと出かけていきました。理由は2つ。ファジェーエフの王子は絶対に見逃せないから。そして、ヴィシニョーワと踊るファジェーエフは更に見逃せないから。ヴィシニョーワは、見る者に元気や幸せを与えてくれるダンサーですが、一緒に踊るファジェーエフさえも幸せに、そして生き生きとさせてしまう気がします。

ヴィシニョーワのマーシャは、前回の印象と同じで大人の入り口に立っている少女。まだ無邪気なところもあるけれど、ほんの些細なきっかけで少女から乙女に脱皮してしまいそう。彼女のマーシャを見るのが2度目というこちらの心構えもあると思いますが、パーティに集まった子供たちは彼女よりは年下のコたちの集まりなのだろうな、と自然に思えました。そのコたちと一緒に遊ぶのも楽しいけれど少し物足りない。でも自分の両親を含めた大人たちとは世界が違う。そんな彼女が、可愛いお人形たちとは違う「くるみ割り人形」を愛おしく思う気持ちというのは、ただ「優しさ」だけではなくある種の共感もあるのかなーと思えました。

くるみ割り人形が壊れちゃった時にはしゃっくりあげて号泣する程に子供っぽかったのに、直ったと分かった時には、ほっとするより何より先に、思わず手を伸ばしてくるみ割り人形を求めたマーシャ。子供のように一途な執着心に見えなくもなかったけど、どちらかというと、マーシャの中にある「大人」の部分がそうさせたように私には思えました。とても色っぽいシーンでドキドキしちゃったもの。

イリインさんのドロッセルマイヤーは、今回も子供たちを楽しませるのが大好きな好々爺。マーシャの名付け親な訳だけど、"他のコより少しお姉さん"なマーシャだからかしら、ただ可愛いという気持ちだけではなく一人のレディとして扱っているように見えました。裏を返せばゲストへの丁寧な物腰ともとれる訳ですけどね。

パーティシーンはいつもそうですが、目がいくつあっても足りない位あちこちが気になります。西山裕子さんのピアニストは運指がぴったり合っていたし、ラヴェンダー色の上着を着た紳士役の中村誠さんが金髪縦ロールパステルカラーの紳士なのにフェロモンを振りまいていて、しかも婦人客の川村真樹さんに取り入ろうとピッタリくっついてまして(この辺は私の妄想入ってます...)もう目が離せなくて困りました。

おじいちゃま/おばあちゃまは井口裕之さんと堀岡美香さん。初役かな?なんだか、2人でいつも笑いあっているうちにおじいさん/おばあさんになった夫婦という感じで、メイクが笑い顔なの。悪くはないんだけど、メイクと動作を含めたこの「くるみ割り人形」の祖父祖母役としては、あとちょっと研究の余地はあるかな、という気はしました。人形たちの踊りは、私はやっぱりバリノフくんの道化が一番好きです。高橋さんと江本さんがどうこうではなく、バリノフくんが好きなのです。着地音が全くしないのでホントに人形みたい。あんな人形がうちに欲しい。

続くねずみと兵隊たちの戦闘シーン。クリスマスツリーに飾られたお菓子(かな?)を、鐘の音にピシっと合わせてジャンプして取った小ネズミはたぶん福田圭吾さん。鮮やかでしたー。マーシャがスリッパを投げてネズミの王様の注意をそらすところ、ヴィシニョーワは投げる前にスリッパを脱ぐ仕草をしてから投げていました。さすがに芸が細かい。

さて曲調がガラリと変わってくるみ割り人形(八幡さん)が王子(ファジェーエフ)に変身するシーンです。もうね、曲を聴いているだけで「ああ、ファジェーエフにやっと会えるのねー」とドキドキでした(笑)。短いアイスブルーの上着に白タイツ姿が本当によく似合います。そして、この場面のマーシャと王子のパ・ド・ドゥが何とも言えずに美しいんですよねー。詩情に溢れていてロマンティックで。ヴィシニョーワは王子と出会ってすっかり大人になっていましたが、絶えず彼女に視線を注いで手を差し伸べ続けるファジェーエフとのパ・ド・ドゥは、私にとってこの公演のハイライト。残念ながら1カ所だけサポートに失敗するという珍しい場面がありましたし、コンディションとしては2人とも最高の状態ではないようにも見受けられましたが、それでも美しいものは美しい。本当に胸が一杯でした。

そしてその後に続く、雪の精たちのシーン!あまりに美しくて、見ていて涙が止まらなくなってしまいました。踊りも本当に綺麗に揃っていましたし、川村真樹さん、寺島まゆみさん、小野絢子さん、大和雅美さん、、あたりが芯にいるので安心して見ていられます。雪の精たちの中では比較的小柄だと思われる小野絢子さんが一際輝いて見えたのも印象的でした。彼女は雰囲気のあるダンサーですね。ソリストの遠藤睦子さんと西山裕子さんのいつも通り息の合った踊りも私に幸せを与えてくれましたし、ああ、本当にこのシーンの美しさといったら!

休憩を挟んで2幕。海原を小さな船で渡っていくマーシャと王子。2人がたどりついたのはお菓子の国。コウモリを退治した王子が魔法の棒(?)を振りかざすと、そこは一面シュガーピンクの世界。ふわんとピンクの世界が現れるここがねー、またとても幸せな気分になるのです。

「くるみ」のスペイン(西川貴子/市川透)は割とゆったりしたテンポなので、他のスパニッシュダンスに比べると間延びして見えるかもしれませんね。市川さんはもっとアクを強くして踊ってもいいんじゃないかなぁ、という気も。気のいいお兄ちゃんって感じも好ましいのですが、西川さんと共に粋を突き詰めてみたら素敵だと思うな。東洋の真ん中は湯川麻美子さん。アンサンブルの大湊由美さんの伸びやかな踊りが目に飛び込んできました。彼女は大柄で舞台映えしますね!「カルメン」のミカエラ、期待していますよん。5人のアンサンブルがとても心地よくて、いつもは退屈だと感じるこの踊りに、夢中になってしまいました。

中国は寺島まゆみさんと吉本泰久さん。吉本さんの音のしない大きなジャンプは見るたびにこちらの感嘆の声が出そうになります(笑)。寺島まゆみさんの歯切れのよい踊りとも相性がよくて、すごく楽しかった。トレパック(丸尾/楠本/貝川)も可愛かったー。この回転シーンは貝川さんの本領発揮という感じで盛り上がりますね。欲を言えば、袖に引っ込む時まで「トレパック、イェイ!」のノリをキープして欲しいかも。「出番終了〜」と引き上げて行くように見えるのが、とてももったいない。

そしてそして!目を細めて喜んじゃったパ・ド・トロワ(小野/井倉/八幡)。もう、小野絢子さんと井倉真未さんの可愛さは犯罪的。まるっきりお人形さんみたいなんだものー。踊りも清楚だし、首を傾ける角度や指先脚先までピンと張りつめた踊りが、何とも言えず幸福感を与えてくれました。2人と踊る八幡さんもいつも通り綺麗な踊り。この3人の踊りは何度でも繰り返し見たい位。

問題のグラン・パ・ド・ドゥ 4人のキャバリエ付き。毎回ハラハラするし、作品全体の流れがココで明らかに滞るのは見ていてつらいです。ヴィシニョーワは顔色1つ変えずに堂々と踊るので、余計に風格が増してマーシャというより女王様に見えるし、キャバリエからマーシャを引き取るファジェーエフ王子が殊更頼もしく感じはするけれど...。そういう意味では、ゲストの2人は新国のダンサーたちとは全く別の世界を作り上げていて他の誰にも邪魔する事は出来ないような絆で結ばれているようには見えました。王子がマーシャを自分の国に連れていったというよりは、2人で冒険の旅に出たその行き先がお菓子の国だった、みたい。そういう解釈で見るならば、このキャバリエ付きもありなのか??

ばらのワルツの女性ソリストは、寺島ひ/真忠/川村/厚木、の鉄壁の布陣。これで私が幸せにならない訳がありません。真忠さんは、このところ上半身の表現力がとても豊かになった気がします。何と言うか、キラキラを振りまく人になった気がする(変な表現で申し訳ない)。踊る事を楽しんでいるなー、とも、強く感じます。

目が覚めたマーシャの横にはくるみ割り人形。正直言って新国立劇場バレエのこのバージョンはストーリーを楽しむ「くるみ」ではないと私は思うのですが、私のような新国好きにとっては、ダンサーの個性と踊りを堪能する必要十分なプロダクション。とても楽しみました。今年であの美術や衣装が見納めかと思うと淋しいなー。

そうそう、カーテンコールで一際高いジャンプを披露した吉本さんに、拍手を。