2007年12月23日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ/音楽:P.I.チャイコフスキー/台本:マリウス・プティパ/改訂振付:ワシリー・ワイノーネン/演出:ガブリエラ・コームレワ/舞台美術・衣装:シモン・ヴィルサラーゼ/照明:ウラジーミル・ルカセーヴィチ/舞台美術・衣装制作:マリインスキー劇場
指揮:渡邊一正/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団/児童合唱:東京少年少女合唱隊

キャスト

マーシャ:宮内真理子
王子:山本隆之
ドロッセルマイヤー:マシモ・アクリ
シュタリバウム:ゲンナーディ・イリイン
シュタリバウム夫人:湯川麻美子
フランツ:大和雅美
道化:吉本泰久
人形:高橋有里
黒人:マイレン・トレウバエフ
おじいさん:井口裕之
おばあさん:堀岡美香
2組の紳士、淑女:西川貴子、楠本郁子、陳秀介、中村誠
ねずみの王様:市川透
くるみ割り人形:八幡顕光
歩兵隊長:大和雅美
雪の精ソリスト:寺島ひろみ、厚木三杏
スペイン:厚木三杏、市川透
東洋:楠本郁子、神部ゆみ子、千歳美香子、今井奈穂、大湊由美
中国:西山裕子、福田圭吾
トレパック: 丸尾孝子、本島美和、貝川鐡夫
パ・ド・トロワ:小野絢子、井倉真未、グリゴリー・バリノフ
ばらのワルツ ソリスト:寺島ひろみ、真忠久美子、川村真樹、西川貴子、中村誠、陳秀介、江本拓、冨川祐樹


感想

新国で大好きなペア、宮内真理子さんと山本隆之さんの日も見に行ってきました。やっぱりいいペアだなーとうっとり。隅々まで心が配られたとてもよい公演で、幸せな気分で帰途につきました。宮内さんが踊るとチャイコフスキーの切なさも美しさもポップさも増幅されて胸に届くんですよねぇ。

小柄な宮内さんのマーシャは、とても内気でおとなしい女の子。ドロッセルマイヤーの人形劇の時も、お友達と一緒ではなくお母様のそばで劇を見守っています。そんなマーシャの名付け親であるドロッセルマイヤー(この日はマシモ・アクリさん)も、彼女を目の中に入れても痛くないくらい可愛がっているようです。「すっかりレディになって!」というアクリ@ドロッセルマイヤーの台詞が聞こえてきそうでした。ドロッセルマイヤーとマーシャの心の繋がりがしっかり存在するのがわかって、ドラマが際立った気がします。

道化は吉本泰久さん。彼も音のしない高くてきれいなジャンプとピシっと伸びたつま先で見事な人形っぷりでした。バリノフくんもそうですが、肉体的に脂がのった時期の今、もっと新国の舞台でガンガン踊らせて欲しい人です。人形は、小野絢子さんの予定が高橋有里さんに変更。他日のキャスト変更の影響で、いろいろキャストが変わっていましたが、人形もその1つ。小野さんは最終日のみ人形を踊ったようです。有里さんの人形も大好きですが、小野さんのも見たかったなぁ。黒人はマイレンの切れのある踊りっぷりを堪能しました。王子踊った翌日が黒人だものねぇ。大忙しですね。ここはそれぞれ安定したキャストで楽しかったです。パーティシーンも前回同様に小芝居満載。

宮内さんは本当にどの場面でも振付と感情が一致していて、マーシャという女の子が生きてそこにいるかのよう。例えば、ねずみたちが次々に登場してマーシャの逃げ場がなくなる場面。最初の1匹2匹の時は「あら、ネズミがいるなら、あちら側から出ましょ」って気楽な感じなのが、どんどん出てくるネズミたちに恐怖感も増して行くのがよくわかります。ネズミと兵隊たちの戦闘シーンでも、大きな椅子の上に何枚も置いてあったクッションを、ネズミに向って何回も投げつけて兵隊さんたちを応戦していました。クッションをあるだけ投げつけて、投げるものがなくなった最後にスリッパを投げる、という流れはとても自然だなーと感心しました。

あくまでもマーシャの夢の中、という事を念頭においた(と思われる)宮内さんのマーシャは、最初のパ・ド・ドゥでもグラン・パ・ド・ドゥでもぐぐっと大人びるのではなく、その内面に「おとなしくて内気な」特質を残しているの。従って、山本さんの王子も、マーシャの夢の王子として舞台に君臨していました。マーシャを暖かく見守り導く王子。手を出すとそこには必ず王子の手が待っていて、ふり返ると笑顔でこちらを見ている、、、そういう王子でした。

最初のパ・ド・ドゥでは、ヴィシニョーワたちと同じところでサポートの失敗があったのですが(ホントに難しい踊りなんですねぇ)、それ以外はとてもよかったです。音の取り方とか飛ぶ高さとか、一緒なんですよねーこの2人。見ていて心地よいのです。宮内さんの表情豊かなアームスと美しい音を刻むつま先は相変わらずで、日本で彼女ほどニュアンスに富んだバレエを踊れる人が何人いるだろうかと、その稀有な存在感に酔いしれました。山本さんも特に腕の表情が極上でした。

雪の精たちも、本日も見事な踊りっぷり。今日のソリストは厚木三杏さんと寺島ひろみさん。2人とも私の大好きなダンサーですが、踊りの質が違うので面白い効果が出ていた気がします。見ていてしっくりくるのは前回見た時の遠藤/西山組だったと思いますが、この日のペアも私は好き。でもって、この日もぴったりと美しく踊る雪の精たちに涙がー。通路後ろの特等席だったので、オケピで歌う東京少年少女合唱隊の声もダイレクトに届いて心を揺さぶられてしまました。強い風にふわっと舞い上がって踊るサラサラのパウダースノーといった感じの新国立の「雪」、本当に綺麗でした。これが見納めなんて悲しすぎ。

第2幕。そういえばファジェーエフ王子はマーシャを抱きあげて舟からおろしてあげていたような記憶がありますが、山本王子は、舟から降りるマーシャに恭しく手を差し伸べていました。ん、宮内/山本組の役作りならば、この方がずっとしっくりきて素敵。

厚木三杏さんのスペインは独自の空気感がありました。彼女は清潔な存在感のある人なので、スペインにキャストされた時は意外に思っていたのですが、確かに「くるみ」のスパニッシュならば"有り"だなぁ。濃くなりすぎない市川さんとペアだったのもよかったかも。東洋の真ん中は楠本郁子さん。しっとりとした雰囲気がよかったです。この日も私の目は大湊さんに釘付け。すごく気になるダンサーとなりました。今まであまりお顔が見分けられていなかったので、今後はしっかりチェックさせて頂きまーす。

中国は西山裕子さんと福田圭吾さん。福田さんは吉本さんに全く引けを取らないジャンプと軽さ。初めて組む2人だと思うのですが、けっこうしっくり来てたと思います。トレパックは丸尾/本島/貝川トリオ。遠藤さんから丸尾さんに変更になっておりました。前回の感想にも書いたけど、やっぱり最後のキメポーズ(エヘン!というかドーダ!みたいな)の後にちょっと照れが入るのがもったいない気が。踊りはとてもよかったです。

そして至福のパ・ド・トロワ。この日も女性陣が変更になって、小野絢子さん、井倉真未さん、グリゴリー・バリノフくんという組み合わせでした。小野さんと井倉さんがあまりに可愛いので、目が離せません〜。そしてこちらもキュートなバリノフくんも音のしない、綺麗な踊り。眼福トリオでした。花ワルもよかったですよー。なんて美しいワルツなんでしょうね。音楽の切なさもよいし、踊るダンサーたちが、その夢の儚さとか切なさと幸福感とを増幅してくれて、胸がいっぱいになりました。

この日のグラン・パ・ド・ドゥ with キャバリエは、前回より席が後ろだった事もあり、そんなに緊迫して見ることはなかったです。ヴィシニョーワよりは宮内さんの方がリフトしやすいでしょうし、合わせる時間もあったでしょうからね。それでもここで宮内さんと山本さんのアダージオをじっくり見たかったなぁとは思いますけれど。宮内さんのヴァリアシオンの、まるで指先つま先から光の粒が流れ出るような美しい踊りは忘れられません。

という訳で、胸を打つ公演でした。まさか「くるみ」でこんなに感動するとは思わなかったよ...。25日の最終日も見たかったのですが、前売り券は完売、当日券をゲットしにいく時間は取れそうにないということで、そちらは断念しました。できれば新しい「くるみ」のプロダクションも、あまりセルゲイエフ版から逸脱しないでほしいなぁ、と切望します。グラン・パ・ド・ドゥのキャバリエを抜いていただければ十分だと思うのですけれど、いかがでしょうねぇ?