2007年12月27日 東京国際フォーラム ホールC

クレジット

音楽:P.I. チャイコフスキー/台本:ウラジーミル・ブルメイステル、ワシリー・ゲリツェル/振付・演出:ウラジーミル・ブルメイステル/第2幕振付:レフ・イワーノフ/同復元:ピョートル・グーセフ/美術:ウラジーミル・アレフィエフ
指揮:フェリックス・コロボフ/演奏:国立モスクワ音楽劇場管弦楽団

キャスト

オデット/オディール:タチヤーナ・チェルノブロフキナ
ジークフリート王子:ゲオルギー・スミレフスキ
王妃:インナ・ブルガーコワ
悪魔ロットバルト:アントン・ドマショーフ
道化:デニス・アキンフェーエフ
パ・ド・カトル:オリガ・シズィフ、カドリヤ・アミーロワ、セルゲイ・クジミン、ドミトリー・ハムジン
アダージオ:アナスタシーヤ・ペルシェンコーワ
スペインの踊り:イリーナ・ベラヴィナ
ナポリの踊り:アナスタシーヤ・ペルシェンコーワ
ハンガリーの踊り:ダリア・ダリエンコ、エカテリーナ・ガラーエワ、アレクセイ・カラショーフ、セルゲイ・マヌイロフ
マズルカ:マリア・ボロディネツ、ドミトリー・ロマネンコ


感想

以前はよく来日していた(らしい)モスクワ音楽劇場バレエ、私は初めての鑑賞となりました。評判の高いこちらのブルメイステル版を見るのが楽しみで楽しみで。実際見てみたら、想像以上にドラマティックでとても面白かったです。オデットが白鳥に変えられるプロローグとハッピーエンド、それと音楽の使い方がブルメイステル版の特徴だと思っていたのですが、このダンチェンコの版は特にドラマティックに進化しているのでしょうか?映像化されているパリオペ(ピエトラガラ/デュポン)やスカラ座(ザハロワ/ボッレ)と比べてずいぶん印象が違うような。1/3幕の人間模様や2/4幕の白鳥たちのフォーメーションなどなど、本当に面白くて片時も目が離せませんでした。

全体が見えるように少し後ろの席を取っていたのですが、できればあと1日キャスト違いでも見たかったし、もっと前の席でダンサーの表情などもしっかり堪能してみたかったです。日程がここまで押し迫っていなければなぁ、ともったいなく思います。

それにフォーラムCという会場は、キャパシティこそ彼らの本拠地であるモスクワ音楽劇場と似たサイズかもしれませんが、舞台の大きさが違うでしょうし、何よりバレエ向きに出来ていないという最大の難点があります。素人の私が見ただけでも照明設備の不足が明らかでしたし、幕間の休憩時間が大幅に押したのも舞台装置の転換に適さない劇場だったせいではないでしょうか。ガラなんかはいいかもしれないけど、全幕は難しいんじゃないのかなぁ?見やすいサイズの会場なのはいいんですけどね。

呼び屋さんの事前の対応(深夜のふざけたバラエティにチェルノブロフキナやプーホフをかり出すなど的外れなプロモーション)も当日の対応(クロークがない!、それに薄い内容のパンフが2K...)もお粗末で、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたダンサーとカンパニーに申し訳ない気がしました。客も馬鹿にされているよねぇ。

と、最初に怒りをぶつけてしまいましたが、舞台の上で繰り広げられるパフォーマンスは素晴らしかったです。まず何と言ってもチェルノブロフキナ。彼女のたおやかな白鳥は王女というよりも心優しき女性の雰囲気。王子が手を差し伸べたくなる儚さと愛らしさがありました。自分の不幸な身の上の悲しみを必要以上に押し出す事はないのに全身が悲しいと叫んでいて、胸が一杯になります。

私は彼女を生で見るのは初めてだったのですが、今まで来日した時のweb上の感想などを拝見していると、技術的に優れた美脚の持ち主、という印象を受けていました。その先入観のせいで最初は調子がよくないのかな?と思ってみていたのですが、今回は叙情性が勝った白鳥だったのですね。脚のラインも綺麗だったけれど、アームスの表情が本当に素晴らしそして能弁だったので、そちらに目を奪われてしまいました。

対するオディールは彼女の真骨頂!と言えるくらい艶やか。殊更派手に踊り分けている訳ではないのだけど、表情が魅惑的に王子を誘います。ブルメイステル版ではディヴェルティスマンのダンサーたちが全てロットバルト一味で、彼らの踊りもいかにも妖しく、そしてオディールを引き立てます。この場面、すごく楽しかった!夢中になってしまいました。

王子役のゲオルギー・スミレフスキは長身でゆったりした物腰のダンサー。1幕が始まった時に最初から舞台にいて、くつろいだ表情で友人たちと楽しんでいました。私の席からは細かい表情などは見えなかったので、割と何も考えてなさそうなお気楽王子っぽく見えました。これから自分の身に重くのしかかる責任に憂いているようには見えなかったですね。2幕でサポートにひやっとするところがありましたが、それ以外は良かったのではないでしょうか。

えっと、後は幕ごとに印象的だったところを。
1幕で面白かったのは通常パ・ド・トロワが踊られる場面がパ・ド・カトルになっていたこと。特に、男性2人が並んでグラン・ピルエットを回る時に、軸足がそれぞれ逆なのでまるで間に鏡を立てたような効果が出ていたこと。逆回転でぴったり揃って回っていたのが印象に残っています。しかも弓を持って踊っていたのですからすごい!王子が、貴族の女性たちから道化が勧めた女性とアダージオを踊るというのも面白い趣向でした。

2幕はチェルノブロフキナのオデットにつきるのですが、舞台後ろの湖が私の席から見ると、まるで月光を水面に受けて静かに光っているかのように見えて、とても美しかったです。コール・ドの白鳥たちの脚の運びもとても美しかったです。ポジションを取る時の脚までしっかり揃っているのに感心。

それと、このバージョンでは、ロットバルトは3幕しか地上(?)に現れないのですね。プロローグ/2幕/4幕では、舞台上手の高い岩の上からオデットや白鳥たちの運命を操っています。まぁ確かに湖畔の場面で踊らなくても3幕だけでも十分な存在感はあるのですが、とてもユニークだと思いました。このやり方、新国立にも合っているのでは?と思ってしまいましたよ。

1幕の衣装も素敵でしたが、3幕の装置や衣装も本当に素晴らしかったです。重厚できらびやかで。セルゲイエフ版だと道化は道化ガールズと一緒に踊りますが、このバージョンでは道化ボーイズでしたね。花嫁候補たちも全員一緒に踊るのではなく短いヴァリを一人ずつ踊っていました。衣装のニュアンスも少しずつ違って個性がありました。王子は王妃のあとから気のなさそうに(オデットが残した白い羽を持って)登場し、玉座でもその羽をもて遊んで心ここにあらず。時々王妃が自分を心配そうに覗き込むので、ひしっと両手を握りあうのですが、それがちょっと可笑しかったです。そういえば、玉座が下手にあるのは珍しいですよね。それと、玉座のあたり、照明があまり当たってなくて暗かったです。会場の制限だと思いますが。

3幕はなんといってもディヴェルティスマンの演出が出色で、ロットバルトとオディールがディヴェルティスマンに絡んで王子を幻惑するやり方が最高でした。いかにもうさん臭いのに、それに気付くのは道化だけなんだよねぇ。

王子に裏切られてしまった4幕の白鳥たち。オデットも彼女たちに混じって嘆き哀しんでいます。舞台下手から上手に向って絶望した白鳥たちが退場していくところに、王子が駆けつけて許しを請おうとするのですが、白鳥たちは一斉に羽を閉じて王子の謝罪を拒否します。ああ、その場面の何とも痛々しいこと。白鳥たちに拒否された王子もまた、絶望で倒れ込んでしまいます。他の白鳥たちにまわりを固められた(?)オデットも深い悲しみから去って行こうとするのですが、やはり王子を置いて行くことができません。脚をとめては他の白鳥たちに促され...結局は白鳥たちを置いて王子の元に戻るのです。オデット、白鳥たち、そして王子の深い悲しみをここまでしっかりと表現したものを私は見た事がありません。泣けました。

湖に嵐が起こって王子が溺れそうになりますが、王子は必死にロットバルトに戦いを挑み、オデットも王子を助けようとします。2人の強い愛情によってロットバルトは破滅し、、、たのですが、この辺もちょっと見えにくかったです。ライトのせいなのか、ロットバルトがかなり上の方にいたせいなのかは不明ですが。

嵐が去って辺りが明るくなると、オデットは人間の姿に戻り、ロットバルトのいた岩場は崩れさってなくなっていました。チェルノブロフキナのオデットは、人間に戻った事を本当に嬉しそうに喜んでいましたねー。あの絶望のあとの笑顔だけに、余計に胸を打たれました。

えっと、それからオケについても書いておかなければいけませんね。今回はモスクワ音楽劇場のオケが来ていました。さすがにハープとか、表情があって良かったですよ。ただ、全体には少々荒っぽいチャイコフスキーだったような。オケピが浅いらしく主席指揮者のフェリックス・コロボフさんの腰から上が客席にむき出しになっておりまして、そのコロボフさんが、めちゃくちゃ動き回るんですよねー。「どれだけ鳴らないオケなんですか?」って突っ込みたくなる位。序曲や場面転換の時など舞台が暗転していると、どうしてもコロボフさんに目が行ってしまって、可笑しくて仕方なかったです。私などは後ろの方だったので幕が上がってしまえば後はあまり気にならなかったですが、それでも時々「そーいえば指揮者はどうしてるかな」って確認しちゃった位で(で、その度に笑った)。前の方に座っていた友人は、舞台は死角になるし動きすぎるしで相当鬱陶しかったみたいです。

オペレーション等において不満は残る公演ではあったのですが、パフォーマンスには大満足です。できれば次はバレエに慣れた呼び屋さんにそう遠くないうちに連れてきて頂きたいです。年末とかも避けていただいて(笑)。そしたら私、通いますから!それくらい何度でも見たいプロダクションでした。