2008年1月15日 ゆうぽうとホール

クレジット

音楽:レオ・ドリーブ/振付:マリウス・プティパ、エンリコ・チェケッティ、ピーター・ライト/演出:ピーター・ライト/装置・衣裳:ピーター・ファーマー/照明:ピーター・ティーゲン

指揮:ポール・マーフィー/演奏:東京ニューシティ管弦楽団/協力:東京バレエ団、東京バレエ学校

キャスト

スワニルダ:吉田都
フランツ:イアン・マッケイ
コッペリウス博士:マイケル・オヘア
第1幕
スワニルダの友人:ナターシャ・オウトレッド、ヴィクトリア・マール、ジャオ・レイ、平田桃子、アランチャ・バゼルガ、ジェンナ・ロバーツ
市長:ジョナサン・ペイン
宿屋の主人:ロリー・マッケイ
コッペリア(人形):ソニア・アギラー
ジプシー:シルヴィア・ヒメネス
マズルカ、チャルダッシュ:サマラ・ダウンズ、アニーク・ソーブロイ、ジェームズ・グランディ、スティーヴン・モンティース
第2幕
東洋の人形:クリステン・マギャリティ
スペインの人形:セリーヌ・ギッテンス
スコットランドの人形:アーロン・ロビソン
兵士の人形:ジェームズ・バートン、ナサナエル・スケルトン
第3幕
公爵:トム・ロジャース
側近:ナサナエル・スケルトン
鐘の儀式
時の踊り:英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
暁:ジャオ・レイ
祈り:ナターシャ・オウトレッド
仕事:キャリー・ロバーツ、クリステン・マギャリティ、アニーク・ソーブロイ、アランチャ・バゼルガ、セリーヌ・ギッテンス、ディアンヌ・グレイ、サマラ・ダウンズ、ローラ=ジェーン・ギブソン
婚約:平田桃子、ジョナサン・カグイオア
闘い:山本康介、ファーガス・キャンベル、アーロン・ロビソン、ヴァレンティン・オロヴャニコフ、ロバート・グラヴノー、マティアス・ディングマン、ジェームズ・バートン、キット・ホルダー、リチャード・スミス
平和:吉田都、イアン・マッケイ


感想

とても楽しかったです!ピーター・ライト版の「コッペリア」を見たのは2度目ですが、コッペリウス博士の描かれ方に暖かさがあるので大好きです。それも今回は本場BRB公演だし、ゲストに吉田都さん、という願ってもない布陣ですもの。BRBのダンサーたちは踊りのレベルはめちゃくちゃ高いという訳ではないようですが、とっても楽しそうに生き生きと踊っているし、何より役者が揃っています。それで十分私を楽しませ、満足させてくれました。

さすがライト卿の演出だけあって、登場人物同士のやり取りはくすくす笑ってしまう人間味溢れたもの。スワニルダの勝ち気だけど可愛い恋心の描かれ方も、フランツのお調子者っぷりも、コッペリウス博士の憎めない変わり者ぶりも、本当に素敵に描かれていて、いいプロダクションですよねー。

もちろん、ピーター・ファーマーさんの衣装と装置も素晴らしい。ゆうぽうとにあの装置を入れると舞台がかなり狭く感じますが、でもこの演目にはこれくらいの会場がぴったり。村娘たちのお話だけど、彼女たちの衣装もディテールが凝っていて可愛かったし、3幕の鐘の儀式の衣装も綺麗でした(鐘の櫓?も綺麗でしたよね)。

「コッペリア」は踊りとマイムの部分がはっきり分かれた作品だけれど、そのマイムの部分が全く退屈させない。特に冒頭のスワニルダとフランツのやり取りは笑った!フランツが鼻の下を伸ばしてコッペリアに投げキスをしているのを見たスワニルダが負けじとベランダに椅子を出して本を読んでみせ、そんな自分にも投げキスするお調子者のフランツに怒って本を投げつけたり。

怒るなよーと彼女を抱き寄せようとするフランツを、最初は取り付く島もなく振りほどくんだけど、2回目はそうでもなく、3回目は彼が来てくれるのを待ってる。それを嫌みなく可愛く表現できる都さん。スワニルダのお茶目な性格を表すシーンは2幕のコッペリウスの工房にもあって、友人たちに「コッペリアとご挨拶してきなさいよ」と促されて「ヤダヤダ」とぶんぶん首を振っているのに、頼まれているうちにニコニコと「行く行く!」と頷いていたり。フランツもお調子者だけどスワニルダも十分お調子者で可愛いぞ(笑)。

フランツ役のイアン・マッケイも演技の点はサスガ。色っぽいジプシーに「一緒に踊りましょうよ」と誘われたところにスワニルダもやってきて「行っちゃヤダ」と腕をとる。自分の両脇にいる対照的な2人の女の子の顔を交互に2度見て、結局はジプシーの手を取って踊り始める、とかね。憎めない軽薄さというか、笑っちゃいました。儀式の飾り付けの為にスワニルダが自宅に戻ると、その家の方にチュっと投げキスをして、更にふり返ってコッペリアの家にも投げキスをしてから袖に引っ込むところとか、可愛かったわ。

踊りの部分では、ちょっとお疲れだったかな。確かに「美女と野獣」でも(たぶん)普段のパートナーではない佐久間奈緒さんと組み、「コッペリア」でもゲストの都さんと3回共演。大変だったと思いますが、たぶん、元々そんなにクラシックが得手ではないのかもね、と思いました。それよりは、ビントレーが得意とするドラマ要素の強い作品で個性を発揮するタイプかも。

1幕でフランツを誘惑するジプシー役が、イアン・マッケイの奥様であるシルヴィア・ヒメネスで、この2人を筆頭に踊るBRBのマズルカとチャルダッシュも『これがBRBです!』と言っているかのようにも見えました。純粋にキャラクターダンスとして見たら、迫力と形の美しさはロシア系に敵うものではないのですが、それさえも好もしく思える雰囲気がBRBにはあるのです。不思議。

2幕は人形振りするスワニルダの独断場で、都さんは本当に素晴らしかったです。瞬きしないし、カクカクした動きも素晴らしい。コッペリウスの意図がわかると、それに合わせて"人間"として覚醒するんだけど、それまでのぎこちない動きの後に、何とも言えない柔らかな仕草で覚醒したのを見た時には、コッペリウスならずとも感激しちゃいました。その後のキャラクターダンスは多少抑えめに踊っていたようですが、音楽的で心地よいダンスにうっとり。

この場面は、先に書いた通り都さんの覚醒ぶりも素晴らしかったのですが、それに感激するコッペリウス博士に泣いちゃいましたよ。マイケル・オヘアは最高のコッペリウス博士でした。フランツの魂をコッペリアに注入しようとアレコレ試してはいるのだけど、自分の人形に本当に魂が入るなんて心の底からは信じていないんだよね。だから、最初はそんな様子も見せなかったコッペリアの姿に「やっぱり駄目か」と落ち込んでいる。それが、コッペリアが人として動き始めたのを見て、泣き出さんばかりに感激しているの。見ているこちらはそれがスワニルダのいたずらだと知っているから、余計に胸を締め付けられるんですよね。

可愛くて仕方のないコッペリアにいたずらを仕掛けられてはアタフタし、踊らせてみてはホレボレし、フランツの事を突っ込まれては大汗をかく。他の版以上に私を感情移入させるライト版のコッペリウス博士ではあるのですが、マイケル・オヘアさんは素晴らしい名優でした。都さんがいるから彼女をメインに見てしまいがちですが、彼の人間味溢れるコッペリウスならばイギリスまで行ってでも何度も見たい位。あんな(変わり者だけど)憎めないおじさんを悲しませるなんて!スワニルダめ〜、と思いたくなる。

スワニルダがコッペリウスにしでかしたイタズラにどう落とし前をつけるかが演出のキーでもある訳ですが、ライト版はそれが2段階で用意されています。1つ目は、彼女の悪戯に怒るコッペリウスをなだめる為に公爵が与える金一封。その前にスワニルダがお詫びに差し出していた祝い金の袋と重さを比べて(ここでオヘアさんは公爵からもらった方をズシンと重く表現)、軽かったスワニルダの方を彼女に返すおまけつき。機嫌をなおしたコッペリウス博士は公爵一家と並んで儀式を見守ります。

時の踊りでは1人ポワントの紐がほどけちゃうアクシデントがありましたが、途中ですっと袖に入って、上手いタイミングで舞台に戻ってきました。「暁」のジャオ・レイは目をひくダンサー。頭が小さくて、脚のラインがとても綺麗。踊りも安定していて、たぶんビントレーにはクラシックを踊れるダンサーとして重宝されているのでは。次に来日する時は階級が上がっているでしょうね。

この儀式の他のヴァリエーションでは、闘いのソリストを踊った山本康介さんが素晴らしかったです。安定した高い技術で踊っているのだけど、これ見よがしなところがない。作品の色からはみ出ない品の良さも印象的でした。「婚約」の平田桃子さんも早いテンポにしっかり乗って踊っていたと思います。

「平和」のグラン・パ・ド・ドゥは都さんもマッケイくんもけっこう神経質になっていたように見えました。1幕のパ・ド・ドゥは微笑ましかったけど、3幕は純粋にクラシックの見せ場だからでしょうか。都さんの踊りも十分素晴らしいものではあったけれど簡単な踊りに変えて踊っているところもあって、やはり万全ではないようでしたし、そういう時の都さんのパートナーをつとめるのは、どんなダンサーでもけっこう大変だろうな、と。そのせいか、アダージオのあとマッケイくんはどっと疲れが出たみたいにも見えました。ヴァリ、けっこうヘロってたし。それでも「仕方ないわねー」と思ってしまうのは、私もスワニルダ同様彼のフランツに骨抜きになっていた、という事でしょうね(笑)。

「平和」のグラン・パ・ド・ドゥのあと、村の人々が踊りながら広場を去っていき、コッペリウス博士だけが彼の愛する人形と共にその場に残されます。楽しかった祭りの後の淋しさをを抱えた彼に訪れた、2つめの「落とし前」。その結末を知っていても泣いてしまうのは、ライト卿の演出の素晴らしさと共に、マイケル・オヘアさんの愛すべきコッペリウス博士の存在が大きいのでしょう。本当によい好演でした。