2008年5月21日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ/改訂振付・演出:牧阿佐美/音楽:レオン・ミンクス/編曲:ジョン・ランチベリー/舞台美術・衣装・照明:アリステア・リヴィングストン/照明:磯野睦
指揮:アレクセイ・バクラン/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

ニキヤ:寺島ひろみ
ソロル:中村誠
ガムザッティ:真忠久美子
ハイ・ブラーミン:ゲンナーディ・イリイン
マグダヴェヤ:八幡顕光
黄金の神像:グリゴリー・バリノフ
トロラグヴァ:市川透
ラジャー:森田健太郎

ジャンペの踊り:楠元郁子、堀口純
つぼの踊り:湯川麻美子
パ・ダクション
ブルー・チュチュ:川村真樹、寺島まゆみ、丸尾孝子、堀口純
ピンク・チュチュ:遠藤睦子、さいとう美帆、大和雅美、井倉真未
アダジオ:陳秀介、冨川祐樹

第1ヴァリエーション:丸尾孝子
第2ヴァリエーション:寺島まゆみ
第3ヴァリエーション:さいとう美帆
影:小野絢子、楠元郁子、大和雅美、難波美保、堀岡美香、千歳美香子、今村恵、岸川章子、北原亜希、下拂桃子、田中若子、寺田亜沙子、堀口純、伊東真央、細田千晶、井倉真未、今井奈穂、今村美由起、大湊由美、川口藍、小村美沙、柴田知世、成田遥、岡﨑弓佳、鈴木愛、中田実里、原田有希、若生愛、菊地飛和、加藤朋子、益田裕子、間辺朋美、丸澤芙由子、山田蘭(交替出演)


感想

新国立劇場バレエで「ラ・バヤデール」を見たのは初めて。全体的な印象としては、新国らしい清潔感のある「ラ・バヤデール」だと感じました。展開がスピーディなのは悪くないし寺院崩壊まで入っているのはとてもよいと思うのですが、話がさらっと流れていくので主要キャストが丁寧かつはっきりとドラマを表現していかないと、平坦な印象にもなり得るだろうなぁ、と思いました。せっかく改訂版をつくったのだから、もっと頻繁に上演して真ん中を踊る人たちの世界観を作らせてあげるとよいのではないでしょうか。

実はこの日もザハロワ/マトヴィエンコで見た日も、私の目が一番喜んだのは主役より女性ダンサーたちが踊る場面でした。1幕の舞姫たちやジャンペ、2幕のパ・ダクシオン、そして3幕の影たち。実に粒ぞろいでありながら調和が取れている。どこを見ても好み。大好きなものを堪能しているという幸せに酔いました。

主要キャストについて

寺島ひろみさんは、華奢な身体に黒目がちの瞳で一途にソロルを思うまっすぐなニキヤでした。最初の頃は気合いが踊りに出て「あれ?いつもこんな脚の上げ方するっけ」と思ったりしたのですが(でも安定してた)、素晴らしかったのは二幕の婚約式でソロルとガムザッティを前に踊るところ。ニキヤの心の中の叫び声が聞こえてきそうな、全身で悲しみと愛を訴える踊りでした。あれはちょっと忘れられないと思う。

中村誠さんは古典全幕の主演は初めてだったようですが、主役経験自体は何度もあるし、踊りは綺麗だし演技力もあるし、とても素敵でした。私としては、「椿姫」アラブの時のようにフェロモン垂れ流しのソロルを期待していたのですが、今回はかなりお行儀のよい役作りだったようです。

寺島ひろみさんと中村誠さんの組み合わせというのも事前には想像がつかなかったのですが、実際に見てみたら、すごく合う!と思いました。山本さんより中村さんの方が、寺島さんには合っていると思う。踊りもシンクロしていたし。でもニキヤとソロルよりも姫と王子がよりお似合いな気はするかな。2人の役作りを含めて、1度だけの舞台ではもったいないので、同じキャストでもう1回上演機会があればよかったのに、と思います。

ガムザッティ役の真忠さんも熱演。お嬢様らしい華やかさがあって美人さんだからソロルの気持ちが揺れるのも説得力があるし、ニキヤとの対決もみものでしたー。真忠さん、あんな台詞が見えそうな表現ができるんですね、感心しました。1幕幕切れの「殺してやる」の決めポーズ、怖かった〜。素晴らしかったです。2幕のパ・ド・ドゥは若干安定感を欠いたようですがガムザッティに要求される華やかさがありました。


それと、何と言っても森田健太郎さんのラジャーが素晴らしすぎ。あまりに立派なラジャーとして登場したので、出てきた瞬間 オペラグラスでまじまじと見つけてしまったよ。あの衣装とおひげがよく似合うねー。金の大きな耳飾りが全く違和感なく思えるのは、日本人としては凄い事じゃないでしょうか。「椿姫」のアルマン・パパに続いて今回も見事な存在感でした。まだこの手の役には全然早い踊り盛りだと思うのですが、芸術監督がキャスティングしたい気持ちはよくわかる。

マグダヴェヤは八幡さん。踊りは申し分なく楽しめました。演技の点ではちょっと一本調子に感じて少し物足りなさも。難しい役なんだよね。黄金の神像はバリノフくん。美しくて大きく、破綻のない安定した踊り。大きなブラボーが飛んでいました。

1幕より

1幕の舞姫たちの中では厚木さんの踊りが一際美しく、つい目で追ってしまいます。ガムザッティ役を彼女にと望む声をいくつかのブログさんで拝見しましたが、私は彼女にはニキヤを踊って欲しいんですよねー。彼女のカルメンを見ていたら違う意見を持ったかもしれないけれど、賢い人なのでどんな役も確実にものにして踊ってくれるでしょう。あと、私には厚木さんと楠本さんという並びがかなりツボでした。

ジャンペの芯は楠本さんと堀口さん。堀口さんをこの方と認識してしっかり見たのは今回が初めて。クララにキャスティングされる位だから可愛らしい雰囲気の方かと想像していましたが、どちらかといえば大人びて、とても雰囲気のあるダンサーさんですね!お顔立ちもそうだし、踊り(特に腕から指先)もニュアンスがあるなぁと思いました。ジャンペだからかと思ったけど、ブルーチュチュでもそうだった。彼女だけをずっと見ていた訳ではないのですが、今後も要チェック!気になるダンサーさんです。

さて、話がちょっと脇道に逸れますが、ラジャーがソロルに自分の娘を紹介する時にさっとガムザッティのヴェールを外しますよね。この日は森田ラジャーが真忠ガムザッティのヴェールを外した時に、舞台上手よりやや中央にいた中村ソロルと、更に上手側にいた市川トロラグヴァが、同時に2歩後ずさりしたんですよ。それが妙にツボにハマってねぇ...。ソロルがよろめくのはわかるんですよ、あまりの美しさに思わず、っていう。でもトロラグヴァは何故?(笑)やっぱり美しさに驚いちゃったのだろうか。次に見る時もチェックしなければ!と決意しちゃいましたよ。

別の意味で気になったのがトロラグヴァと戦士たち。なんか緊張感が足りないというか....。ソリスト級が多く配されている割には歩き姿も立ち姿も今イチだったし、あの手を額と胸にあてる独特の礼も美しくない。物語の世界から浮いていましたよ。あれには失望しました。

2幕より

1幕は衣装も装置も美しいと思ったけれど(特に幕開けの銀色の葉のモチーフと照明は本当に美しかった)、2幕の婚約式は色味が少し単調に感じました。もう少しゴージャスだといいかも。ソロルもずーっとタイツ姿なんですね。衣装の色味が似ているので、この日は「もしかしてずっと同じ衣装?」と思ってしまった位。後日 前の方で見て「あ、違うんだ」とわかりました。

2幕では何と言ってもパ・ダクシオンのブルー・チュチュとピンク・チュチュが素晴らしかった。私が新国好きだという事も大きいでしょうが、彼女たちが踊っているのを見ているだけで、もう泣きたくなるくらい幸せな気持ちになりました。音楽を華やがせる、美しい瞬間でした。このヴァリエーションは、私の大好きな川村真樹さんの美点がよく生きますね。正に音楽をたゆたうようで、心地よかったです。

上述の通り、寺島さんの悲しみのヴァリエーションも本当に大熱演でした。この時の中村ソロルは席についてはいたけれど、落ち着かない様子でニキヤの方に視線を向けることもできず、それで仕方なくガムザッティの方を見ている感じだったかな。真忠さんのガムザッティはもう肝がすわっていて「この人は私のもの」と自信を持っているようでした。

毒蛇に噛まれたニキヤに思わず駆け寄ろうとするソロルを制止するハイブラーミンの貫禄と権威が素晴らしかった。森田さん、なんて役者なの!その権威の前にソロルは自分の無力さを知るんだよね。そしてすごすごとガムザッティの元に戻る。

一方、解毒剤を手渡されたニキヤは、ガムザッティの手に口づける(そして自分を見ようとしない)ソロルを見て心が壊れちゃったように見えました。絶望してというか、頭の中が真っ白になって解毒剤を持つ手から力が抜けちゃった感じの、痛々しい最期でした。

3幕より

32人の影たちは美しかったです。特に先頭の小野絢子さんは見事だった。私の好みよりはほんの少し曲のテンポが早かったので、余韻まで楽しむという訳にはいかなかったけど、それでも彼女たちの素晴らしさを損なう事はありません。ただ、チュチュがねー。けっこう飾りがついていましたよね。私、影たちのチュチュは何の飾りもないシンプルなのが好きだな。

影のキャストを見ていて、見慣れないお名前がけっこうあったのですが、研修生の方と08/09シーズンから新国の契約/登録ダンサーとなる方たちも含まれていたのですね。研修生の方が入るのは今までもそうだったようですが、よく揃っていたと思います。

ヴァリエーションは丸尾/寺島ま/さいとうの順。まゆみさんの第2ヴァリがとてもよかったです。さいとうさんは雰囲気が変わりましたね。

ニキヤとソロルのパ・ド・ドゥは1幕よりも3幕の方がよかったです。寺島さんは体力的に少しキツそうでしたが最後のピケ?シェネ?の超高速で大喝采を浴びていました。

結婚式の前のソロルに、ニキヤの幻がラジャーとガムザッティの企てを明かす場面が入っているのは、面白いですね。この場面とこの後の寺院崩壊に出てくるニキヤって、それまでとは別人のように気性が激しく見えますよね。寺院崩壊は神の怒りによって起きるとパンフには書いてあるのだけど、実際にはニキヤの怒りが引き起こしたように見える。もしかしたら嘆きだったのかもしれないけど、この日もザハロワの日も、私には怒りに見えました。最後の最後にソロルはやっぱり許されない、というエンディングも含めて、とても女性的な視点による演出だなぁとしみじみ感じました。

ニキヤの幻がラジャーの企みを明かすアイディアも、ソロルがニキヤについていく事がかなわないエンディングもいいと思うんですよ。でも、3幕のニキヤはずっとスピリチュアルな存在でいてほしいなぁ。


というような結末ではあったのですが、ダンサーのみなさんは素晴らしく、衣装も綺麗だし装置も(2幕の婚約式以外は)素敵だし、照明も本当に美しくて、満足のいく公演でした。それに!アレクセイ・バクランさんのダンサーに寄り添う指揮が素晴らしく、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏もとても良かったです。一部テンポがズレまくったところがありましたが、それ以外は全く不満のない、美しい演奏でした。

寺島姉妹のサイトに、指揮のバクランさんは元はダンサーになりたかったけれど、途中で諦めて指揮者になったという事が書いてありました。こういうバレエを理解している方が振って下さるのは大きいですね。また新国立劇場に登場して下さいますように。