2008年5月24日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ/改訂振付・演出:牧阿佐美/音楽:レオン・ミンクス/編曲:ジョン・ランチベリー/舞台美術・衣装・照明:アリステア・リヴィングストン/照明:磯野睦
指揮:アレクセイ・バクラン/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

ニキヤ:スヴェトラーナ・ザハロワ
ソロル:デニス・マトヴィエンコ
ガムザッティ:湯川麻美子
ハイ・ブラーミン:ゲンナーディ・イリイン
マグダヴェヤ:吉本泰久
黄金の神像:八幡顕光
トロラグヴァ:市川透
ラジャー:逸見智彦

ジャンペの踊り:遠藤睦子、井倉真未
つぼの踊り:真忠久美子
パ・ダクション
ブルー・チュチュ:川村真樹、寺島まゆみ、丸尾孝子、堀口純
ピンク・チュチュ:遠藤睦子、さいとう美帆、西山裕子、小野絢子
アダジオ:グリゴリー・バリノフ、江本拓

第1ヴァリエーション:丸尾孝子
第2ヴァリエーション:川村真樹
第3ヴァリエーション:厚木三杏
影:小野絢子、楠元郁子、大和雅美、難波美保、堀岡美香、千歳美香子、今村恵、岸川章子、北原亜希、下拂桃子、田中若子、寺田亜沙子、堀口純、伊東真央、細田千晶、井倉真未、今井奈穂、今村美由起、大湊由美、川口藍、小村美沙、柴田知世、成田遥、岡﨑弓佳、鈴木愛、中田実里、原田有希、若生愛、菊地飛和、加藤朋子、益田裕子、間辺朋美、丸澤芙由子、山田蘭(交替出演)


感想

3週間も感想書きをサボってしまいました。大急ぎで、メモを残します。

この日は2列目でした。自分ではまず選ばない席だけど、連れには舞台に近い方が飽きずに済むだろうと思ったので。実際、それは正解だった気がする。近くで見たザハロワの美しさに感嘆し、ドラマ的にも小芝居を含め色々楽しめたようです。そのままバレエファンにならないところが世の中ってものかしら?(笑)。

舞台全体を「面」で楽しむというよりも一極集中で楽しむ席なので、目の行き届かないところも多々あり、どうも私の意識は散漫になってしまったところがありました。それとね、ザハロワにしてもマトヴィエンコにしてもボリショイのような巨大な劇場で踊り慣れた人たちなので(遠くまで届くように大きな演技をするから)近くで見ると演技が大きすぎるように感じるのね。その大きな演技を少しアンバランスに感じたのも、近い席で見た弊害かしら。


連れではありませんが、ザハロワはとにかく美しかったです。存在感の大きさ、1つ1つのポーズの美しさ。前述の通り演技は大きかったけれど役作りに破綻がある訳ではないし。前回見た寺島さんの時とは踊りとか段取りとか微妙に違っていましたし、3幕のヴェールの踊りはザハロワでさえふらつくのか!と思ったりしましたが、今回もとても誠実によい舞台を務めてくれました。

私は前回の寺島ひろみさんのニキヤ以外は、ロシアのニキヤしか(全幕かつ生では)見た事がないのです。ザハロワ、グラチョーワ、アラシュ、ヴィシニョーワ、セミオノワ。そのせいか、寺島さんのニキヤは初役としては心を揺さぶる出来だったにもかかわらず、ちょっとした違和感も覚えたんですね。その意味では、やはりザハロワにニキヤはとても似合うと思ったし、彼女がつくる完璧なラインを堪能しました。

でもね、ザハロワを見た事で、逆に寺島ひろみさんのニキヤの素晴らしさもよく分かった。細やかな感情表現、繊細なのに強靭な踊り。あ、私、寺島さんのニキヤ好きだ!とずいぶんな時間差で感じたのでした。その場でわかるべき事だと思うんですけどねー、相変わらずグズグズです。

マトヴィエンコのソロルは戦士とは言い難かったけれど、踊りは充実しているしザハロワとの相性もよく。2幕でおたおたするところは、踊り終わってガムザッティに「さあどうぞ」と席を勧められても座らずに苦悩したりして、ニキヤの事を心底愛しているけれど、こんな事になってしまって身の置き所のない自分、って感じの演技でした。

牧版のソロルはニキヤが毒殺された後も一人でその場から逃げ出しちゃうし、最後はニキヤの元までたどりつけずに終わるしで、かなり気の毒な扱いを受けます。私はこの牧版を見たのは今年が初めてで、こう言っては語弊があるかもしれませんが、現代の女性が演出した作品だなーとしみじみ感じました。マトヴィエンコのソロルもまた現代的で、等身大の、2人の女性の間で苦悩する青年だったという気がします。


さて、こんなゲスト2人と対峙するガムザッティ役。この日は湯川麻美子さんでした。私は湯川さんの演技力をとても買っているので女同士の喧嘩のシーンはそれは見応えがあるだろうと期待していましたが、期待以上!素晴らしかったです。湯川さんが「生かしてはおかないわ」と拳を握りしめて1幕が終わった時、あまりに嬉しくてニヤついちゃった位です。このシーンだけでも今日見に来てよかった。

彼女のガムザはただ幸せに暮らしてきたお嬢様って感じはしないんですよね。お金持ちのお嬢様度で言えば、先日の真忠さんの方がずっと純度が高い。どんな設定だったらしっくり来るかなーと考えてみたのですが、、、怒られちゃうかもしれませんが、妾腹のお嬢さんなどの理由でラジャは可愛がっているけど周囲はそうでもないとか、何かそういう影があるガムザを想像をしてみました。少々年齢が高い(適齢期を逃しているかも、位の)事もあり、この縁談で幸せになると信じ切ってそれを壊すまいと思うんだろうな、と。

2幕の婚約式のグラン・パでは、席が近いだけに、彼女の表情が固く緊張しているのがありありと見てとれました。マトヴィがよくサポートしていたし、プティパ系のクラシックが苦手と思われる彼女としてはしっかり踊り切ったと思います。

この日のラジャは逸見智彦さん。森田健太郎さんの落ち着いたラジャーを見た後では、少々線が細いかも?ちょっと笑っちゃった。個人的にこの日の最大のチェックポイントだった『ラジャーがガムザッティのヴェールを外した時のソロルとトロラグヴァの挙動』なんですが、逸見ラジャーったらあまりにも乱暴というか無造作に勢いよくヴェールを外そうとした為に、ガムザッティの髪飾りに引っかかってしまい、うまく外れなかったんですね。で、そちらに気を取られている内に、ソロルとトロラグヴァが揃って一歩下がるかどうかを見る事ができなかったんです〜。がーん。席が近いせいもあったでしょうが(またそれかい)、あーもう!逸見さんったら!おかげでガムザッティの登場にインパクトが生まれずに、ちょっと気の毒だったかも。


マグダヴェヤは吉本泰久さん。彼の役作りにはいつも本当に感心します。顔は土色に塗っているから表情だけで感情を伝えるのは難しいのだけど、その分を低く地に伏せた身体や恐れの身振りなど、1つ1つの動きに込めていました。踊りもキレがあって素晴らしかったです。

黄金の神像は八幡さん。あまりにも軽々と体重を感じさせずに飛ぶので、却って神像の神々しさが消える程。いろんなキャラクターを踊るけど基本は美しいクラシックダンサーの彼。純粋に踊りだけの役だとそれが際立ちます。「くるみ」のパ・ド・トロワならそれだけで素晴らしい美点だけど、黄金の神像ならば更に個性があるといいと思う。日本人としては稀有なそのクラシックの美を失わずに、彼らしい個性というかアクのようなものが備わると更にいいなーと思います。

つぼは真忠さん。一緒に踊っていた子役の鈴木優さんと舞さんは2006年の「ヴィシニョーワガラ」でも同じ役を踊ったのを見た覚えが!頭が小さくて手脚が長くて、先が楽しみですね〜。ジャンペのソリストは遠藤睦子さんと井倉真未さんで、遠藤さんの音の乗り具合がいつも通り心地よかったです。井倉さんは、ゴメンなさい、つい遠藤さんに見とれてしまって。あまり見られなかった...

この日もパ・ダクションのピンク・チュチュ、ブルー・チュチュは素晴らしかったです。言いようもなく幸せな気分にさせてくれる。この日はピンク・チュチュに西山さんと小野さんが入ったのですが、それによって糖度が30%くらい上がった気がする。個性から考えると主に小野さん効果かと思うのですが、彼女の踊りは何と言うか、理屈でなく私の中の柔らかいところを刺激するんだよね。甘ーくてメロメロになりました。

3幕の影たちは今日も見事でした。公演も終盤になってみんな疲れているハズですが、そんなことを感じさせない美しさ。胸を締め付けられる程に純度が高くて、涙腺を刺激されました。ボロボロ泣いちゃった。先頭の小野絢子さんをはじめとする影のみなさん、本当に美しいものを見せてくれてありがとう。


この日の影のヴァリは私の大好きな川村さんと厚木さんが登場。第2ヴァリに川村真樹さんと寺島まゆみさんという個性の全く違う踊り手をキャスティングする面白さ。普通に考えればこの音楽と振付には寺島まゆみさんが適役だと思うし、実際彼女の踊りは素晴らしかったのですが、川村さんのヴァリエーションもまた非常に魅力的でした。彼女はどんなアレグロも音に合わせてすいすい踊り、それがゆったり踊っているように見えてしまうという踊り手さん。ですから場合によっては物足りなく見える事もあると思うのですが、今回の「影」という性質にはとても合っていたのではないでしょうか。

第3ヴァリも、厚木さんとさいとうさんという質感の違うダンサーがキャスティングされた訳ですが、第1から第3までのダンサーの組み合わせが絶妙だったなー、と。堪能しました。


今回痛感した事ですが、ガムザッティという役をこなせるダンサーは、やはり新国には不足している感は否めません。この数年上演がなかったせいもあると思いますが、踊れる人がいないから上演できなかったのかもしれないし。クラシックの揺るぎない技術を要するグランド・バレエでありながら、かつ演技力も要求されるこの作品、いろんなダンサーをニキヤやガムザッティに抜擢して数多く上演すれば、それだけカンパニーの地力も底上げされると思うのですが...。

なお、この日の公演にはNHKのカメラが入っていました。既にみなさんご存知と思いますが、8月の「芸術劇場」で放映予定とか。会場で聞いた話だと20日も予備日としてカメラが入ったそうですが、ガムザッティ役が違うじゃありませんか(笑)。それはともかく、前方席で見逃した場面も多いと思うので、カメラで多角的に再度見る事が出来るのは楽しみです。