2008年6月24日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ/作曲:ピョートル・チャイコフスキー/改訂振付・演出:牧阿佐美(コンスタンチン・セルゲーエフ版による)/台本:ウラジーミル・ベギチェフ、ワシリー・ゲリツェル/舞台装置・衣装:ピーター・カザレット/照明:沢田祐二
指揮:エルマノ・フローリオ/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

オデット/オディール:スヴェトラーナ・ザハロワ
ジークフリード王子:アンドレイ・ウヴァーロフ
ロートバルト:市川透
王妃:坂西麻美
道化:グリゴリー・バリノフ
家庭教師:ゲンナーディ・イリイン
王子の友人:本島美和/丸尾孝子/マイレン・トレウバエフ
小さい4羽の白鳥:さいとう美帆/本島美和/寺島まゆみ/小野絢子
大きい4羽の白鳥:厚木三杏/西川貴子/丸尾孝子/堀口純
式典長:内藤博
花嫁候補:厚木三杏/真忠久美子/本島美和/寺島まゆみ/寺田亜沙子/堀口純
スペインの踊り:西川貴子/楠元郁子/マイレン・トレウバエフ/冨川祐樹
ナポリの踊り:さいとう美帆/小野絢子/江本拓
ルースカヤ:湯川麻美子
ハンガリーの踊り:西山裕子/古川和則
マズルカ:神部ゆみ子/千歳美香子/堀岡美香/北原亜希/陳秀介/澤田展生/高木裕次/田中俊太朗
2羽の白鳥:厚木三杏/堀口純
大きい4羽の白鳥:西川貴子/本島美和/寺島まゆみ/丸尾孝子


感想

牧阿佐美版「白鳥の湖」再演の初日。今回の「白鳥」はフローリオさんの指揮で、少なくとも前回、前々回と渡邊一正さんが担当されたので久しぶりの外国人指揮者かと。

牧版で挿入されたプロローグで王女が白鳥に変えられる場面。ザハロワは紗幕の向こうで針を持って座っているその姿からして見事に王女でした。怪しい気配に不安がる友人たちを「私は大丈夫だからお帰りなさい」と下がらせる。そしてロートバルトに白鳥にされてしまう訳ですが、この慌ただしいプロローグでそこまで見事に王女として存在していた事に感心してしまいました。そういう意味では、友人たち(千歳美香子さんと堀岡美香さん)も、ザハロワの芝居に呼応していてよかったです。

この日のザハロワはとにかく集中力が凄かった。2幕のグラン・アダージョなんて息をするのを忘れるくらいに見入ってしまいましたよー。相手がウヴァーロフという事もあり、安心して身体を預け思うままにポーズを取っていたのでしょうね。だから形として究極に美しい。このアダージョで観客席からはものっすごいブラボーと拍手がわきまして(新国の初日上演中にここまですごい観客が湧くのって珍しいのでは?)、それがザハロワを更に気分よく踊らせた気がする。終始絶好調でした。

逆に言うと、このザハロワの集中力にウヴァーロフがなかなか追いつけなかった気はします。パ・ド・ドゥでもザハロワがリードしているかのような印象を受けたし、2人の間のドラマもあまり感じられなかった。それぞれを見るとちゃんと感情表現をしているんだけど呼応しないというか...。ウヴァーロフは去年ニーナと踊った時の印象が残っているので、余計にそう感じたのかもしれません。

ウヴァーロフも悪かった訳ではないんですよね。怪我の後だったという事ですが、踊りはそれなりに抑え気味だったとしても跳躍は十分に高いし、演じ慣れた役ですから。ただ、この日はパートナーとのケミストリーはなかった。

ロートバルトの市川さんも淡白に見えました。踊りもあまり調子が良さそうではなかったかなぁ。3幕でロートバルトがオディールを高々とリフトするところを代わりに王子がリフトしていましたから、万全ではないのでしょうか。

ザハロワが舞台をぐいぐい引っ張っていた事もあり、もしかしたらこの物語はオデットとオディールが仕組んだ話だったのでは?と一瞬思ってしまった程(笑)。私は「白鳥の湖」は王子の物語として見る事がほとんどなのですが、今回はオデットとオディールの物語としてしか見られなかった。それくらいザハロワが強烈でした。


1つとても印象的だったのが、2幕で王子が整列した白鳥たちのところへオデットを探しにくるシーン。6x4列(だっけ?)に白鳥たちが整列したところに下手側からそっと王子が登場すると、白鳥たちがさっとそちらを見て警戒するんですよね。その王子の登場のタイミングと白鳥たちが気付いて警戒するタイミングがこれ以上ない程で、すごい!と思ってしまいました。ザハロワ@オデットも最初は王子の事をものすごく驚いて警戒していたので、まるでその波動が他の白鳥たちに伝わったかのように、自分たちとは異なる風貌の王子を拒絶したかのように見えたんです。実際ここはそういう場面なのかもしれませんが、そこまでクリアに感じたのは初めてで...そう、初めてここで意識が動いたんです。

4幕でも、オデットの深い嘆きが他の白鳥たちの羽の震えを増幅させていくのが、切ないですね。こうしてオデットと王子と白鳥たちの意識に目を向けるとまた違った興味が湧いてきます。翌日の公演はまた全然違う印象を受けたので、あとでそちらに書きたいと思います。偶然かもしれないし私の受け取り方だけの事かもしれないのですが、白鳥たちにも集団としての表現ができるのね、と目から鱗でした。

白鳥の話を書いたので、先に白鳥たちの話を書いてしまいます。今回は小さい白鳥も大きい白鳥もメンバーがかなり入れ替わっていますが、小さい四羽のシンクロっぷりはお見事でした。2幕の大きい白鳥は厚木さんのフォルムの美しさが心に残ります。が、4幕の二羽は堀口純さんが見事だった。あの背中をしならせるポーズをぴたっと綺麗に決めていて、美しい白鳥でした。あのポーズの後、私の周囲は何人もオペラグラスでお顔を確認していましたよ。


前後しますが、1幕から主だったところについて。
1幕が始まると、一番舞台に近いところにいたのは笑顔の古川和則さん。芳賀望さんもいました。この2人が一緒に新国プロダクションを踊っているのを見るのは、とても不思議な感覚。古川さんは踊っていない時も「陽気な青年」で舞台を盛り上げてました。相変わらず、つい目が行ってしまうな、彼には。

道化はバリノフくん。音にピタピタあった回転や跳躍はサスガでした。前回のブロンズアイドルでも思ったけど、以前から比べると一回り身体が大きく(というか筋肉質に)なったような気がします。そろそろ別のタイプの役を踊るのを見てみたいなー。

パ・ド・トロワは本島/丸尾/マイレンの3人。この時にマイレンが苦しそうに踊っているように見えて仕方がなくて、脚でも怪我しているかと思ったのですが...3幕のスペインや翌日の舞台もしっかり務めていたので、私の思い過ごしだったのかな。

1幕と3幕のテンポの早い曲は、踊りが音に乗り切れないダンサーが多かった気がします。フロリオさんの初日は音が気持ちよく走る反面ダンサーたちにはちょっと大変なんでしょうね。この辺りは日を追うごとによくなるでしょうから、後半に見るときのお楽しみにしたいと思います。2幕と4幕はとても落ち着いてよくまとまっていました〜。

途中から客席が盛り上がっていた位ですから、カーテンコールも盛大でした。ウヴァーロフもご機嫌で、カーテン前に出てきた時には跪いてザハロワを迎えていましたよ。