2008年6月25日 新国立劇場オペラパレス

クレジット

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ/作曲:ピョートル・チャイコフスキー/改訂振付・演出:牧阿佐美(コンスタンチン・セルゲーエフ版による)/台本:ウラジーミル・ベギチェフ、ワシリー・ゲリツェル/舞台装置・衣装:ピーター・カザレット/照明:沢田祐二
指揮:エルマノ・フローリオ/演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

キャスト

オデット/オディール:川村真樹
ジークフリード王子:中村誠
ロートバルト:芳賀望
王妃:楠元郁子
道化:吉本泰久
家庭教師:ゲンナーディ・イリイン
王子の友人:さいとう美帆/小野絢子/江本拓
小さい4羽の白鳥:さいとう美帆/本島美和/寺島まゆみ/小野絢子
大きい4羽の白鳥:厚木三杏/西川貴子/丸尾孝子/堀口純
式典長:内藤博
花嫁候補:厚木三杏/真忠久美子/本島美和/寺田亜沙子/堀口純/金田洋子
スペインの踊り:西川貴子/湯川麻美子/マイレン・トレウバエフ/冨川祐樹
ナポリの踊り:井倉真未/伊東真央/八幡顕光
ルースカヤ:寺島まゆみ
ハンガリーの踊り:西山裕子/古川和則
マズルカ:神部ゆみ子/千歳美香子/堀岡美香/北原亜希/陳秀介/澤田展生/高木裕次/田中俊太朗
2羽の白鳥:厚木三杏/堀口純
大きい4羽の白鳥:西川貴子/本島美和/寺島まゆみ/丸尾孝子

# えーと、最初にお断りしておきますが、この公演の感想は妄想走りまくりで書いています。寛大な心でお読み頂ける方のみ「続きをよむ」よりご覧下さい〜。


感想

いつか見たいと願っていた川村真樹さんの「白鳥の湖」主役。平日マチネで学校団体つきではありましたが、喜び勇んで見に行ってきました。初日よりは少し後ろで、あまり部分にフォーカスしすぎず全体を楽しめるとてもよい席でした。

さて。
前日ザハロワの王女っぷりに感心したプロローグ。川村さんは箱入り娘的なお姫様で、不気味な気配に気を取られて友人たちを気遣ってあげる余裕がない感じ。でまた友人たち(この日は神部ゆみ子さんと北原亜希さん)も怖がっちゃって王女を置いて逃げる、みたいな(笑)。まぁ、ここは経験がものを言うシーンではあるので(初役でいきなりオープニングから演技で勝負、はキツいよね)これから主演として更に場数を踏めば自然に物語にも入っていけるでしょう。

1幕は、この日も古川さんの笑顔で開幕しました。この日の道化は吉本泰之さん。彼は細かい演技まで気を抜かないので目がたくさんほしくなる困ったキャスティング(笑)です。吉本さんも前日のバリノフ君同様に音にピッタリあった踊りで魅せてくれて大満足。

中村誠さんは憂いを含んだ王子でした。そして見たところ、仲間たちとわいわい騒ぐよりも文学を好むご様子。弓矢の贈り物も、ウヴァーロフの反応(即 走りよって『やった!』と喜ぶ無邪気さ)とは違って、遊び道具ではなく非常に珍しいものを贈られた事を喜ぶかのようにじーっと見つめて、ほら、と家庭教師に見せていました。

この時点で今日の恋物語はおっとりさん同士の恋なんだなー、一体どんなドラマが待っているのやら、とドラマ自体に俄然興味が湧いたのでした。前日の公演感想に書いた通り、私はこのバレエを王子の物語として見る事が多いのです。でも前日は白鳥の物語だった。そしてこの日は、王子とオデットが物語を通してどう成長していくかを追っていました。

おっとりした王子が弓矢を持って湖畔に行くのは説得力を持たせるのが難しいだろう思っていたのですが、それが全然そんな事なかったの。まぁ私の妄想が炸裂して勝手に話を作り上げている訳ですが(笑)。

友人たちが去って一人きりになった王子は、いつものように本に手を伸ばすのだけど、明日自分を待つ婚約者選びを思うと、活字は助けにならないとばかりに弓矢を手に取ります。そして踊るソロは、この弓矢が自分を変えてくれるかも、とばかりにある種希望を求めたソロのようにも見えましたよ。


2幕。川村さんのオデットの登場はとても美しかったです。そして、やっぱり箱入り姫君だった。ザハロワは白鳥の女王としてその場にいたし、自分たちの存在の弱さも知っていたから侵入者に対して敏感だったのね。でも川村さんのオデットは、その人柄(鳥柄?)に他の白鳥たちが慕ってきて,いつの間にか中心にいたような感じ。王子との最初の出会いの時にも、恐怖よりも好奇心もしくは一目で自分のミッシングピースを見つけたと判ってしまったかのように、じーっと見つめて最初から心を開いているように見えました。

私は彼女をオデットタイプのダンサーだと思っていたのですが、この日の公演を見た限りではオデットよりオディールの方が魅力的でした。こちらが勝手に「おっとりした姫君」だと思ってしまったからでしょうか、オデットを踊る彼女にはいつもの音楽をたゆたうように踊る美点があまり見えず、少し重めだったかもしれません。もしかしたら、川村さんをサポートするには中村さんでは少し小さいのかもしれませんね。それでも初役である事を考えれば十分に美しかったし、同じくアームスの美しい中村さんと一緒に踊るところなどは眼福でした。

さて、この日のロートバルトは芳賀望さん。えっ、ホントに芳賀さん?と何度もオペラグラスで確認しちゃいました。芳賀さんって、とてもソフトで柔らかい印象があるじゃないですか。話し方もそうだし。それが、元のお顔が思い浮かばないくらいメイクを施して、見事な猛禽類になっていました。踊りもシャープで色香があるし、つい見とれちゃった。

前日、王子が整列した白鳥たちに一斉に警戒され囲まれていくところにとても感心したのですが、この日はまた別の様相でした。というのもまず王子が割と無造作な感じで登場したんですね(タイミングも昨日ほどドンピシャではなかったし)。たぶんそれで、あまり白鳥たちが警戒しているようには見えなかった。私の妄想の観点から言えば、王子とオデットが互いを既に必要としているのだから、オデットの感情にシンクロして羽を震わせる白鳥たちですら警戒する必要なないのかもね、とも思いましたけれど(いやー、いかようにも解釈できるものですなぁ)。
えー、コホン。小さな4羽は昨日同様素晴らしく、大きな4羽は昨日より更にフォルムが美しくなってきていたと思います。

王子の無造作な登場について書いたので先に触れておきますが、中村さんの王子っぷりは最初はとてもよかったのですが、だんだんと立ち姿や歩くところに神経がいかなくなっちゃったみたい。物語中で大切な場面ではきちんと王子だし気を配った動作をされているだけに、そうでないところが気になる。とてももったいなかったです。でも、考えてみれば、ソロルとジークフリート王子という2つの役を1ヶ月しかおかずに初主演した訳ですから、準備も大変だったのでしょうね。


3幕。冒頭に書いた通り、この日は学校団体が2つ入っていまして、始まるまではめちゃくちゃうるさくてどうなるかと思ったのですが、客電がおちた瞬間に大きな拍手が鳴り響いたりして、事前にいろいろ勉強してきたんだろうな、楽しんで帰ってほしいな、と心の底から思いました。それに始まっちゃえば、すごく静かだし。そんな学生さんたち、たぶん事前に「主役が出てきたら拍手」と習ったんでしょうね。3幕で最初に登場するのは花嫁候補の1人とおつきの人たちなんですが(この日は金田洋子さんだったと思う)、彼女が出てきた時に万来の拍手が鳴り響いていました。ふふ、微笑ましい。

ファンファーレと共に登場したオディールとロートバルト。芳賀さんのロートバルトは3幕もよかったです。悪事企んでる感がプンプン。川村さんのオディールもメイクをすごく変えている訳ではないのに、とても華やかに光り輝くように登場したので目を奪われました。あのランヴェルセっていうんでしょうかねー、片足を上げて上体を捻りながらくるっとまわるポーズの華やかで美しい事。こういうきらびやかな雰囲気がよく似合うのは発見でした。

キャラクターダンスは全体的に前日よりこの日の方が出来がよかった気がします。この日もマイレンと西川さんの「いくわよ!」の決めポーズを堪能しました(笑)。このお姉さんチームの後に登場したナポリが可愛い事!前回の「ラ・バヤデール」の時に「あの楽しそうに踊っているお嬢さんは誰?」と気になって仕方なかったダンサーさんが伊東真央さんである事が判明したのも嬉しかったけど、井倉真未さん、八幡さんと3人とも軽々とはじけるように踊るナポリは本当に絶品でした。また見たい!

ルースカヤは寺島まゆみさん。前半と後半のメリハリが効いていて、特に後半のジャンプ!が鮮やかでした。ハンガリーのソリストは前日同様に西山裕子さんと古川和則さん。前日は最後にちょっとモタついてしまったのですが、この日はとてもよかったです。ただ、古川さんが跪く時に膝が内側に入るのが気になるかなぁ。

あ、そうそう。今日はちゃんとロートバルトがオディールをリフトしていました。


4幕。王子が自分以外の女性に愛を誓って悲しむオデット。前日との比較ばかりで申し訳ありませんが、前日のザハロワは絶望で嘆き悲しみ、その嘆きに白鳥たちの羽が共鳴して震えていたように見えたんですね。でも川村さんの嘆きはとても密やかで、そこに怒りや絶望はほとんど見えません。川村さんのオデットは2幕からそうだったのですが、白鳥に変えられた事自体は運命として素直に受け止めているような印象を受けたんです。だから、このままずっと人間に戻れない事ではなく、王子と共にいられない事が悲しいのかな、という気がしました。そしてそんなオデットを慕う白鳥たちの羽の震えも、彼女を慰め癒すように優しく動いているように見えてしまった。なんてデリケートな関係だろう...とじんわり感動。(自分の思い込みによるすごく妙な感動の仕方ではあると思いますが...)

後悔しながら走り込んできた王子とオデットの踊りはとても美しかった。おっとりさんだった姫と王子が、出会ってから急速に成長したんだ、と2人のドラマがストンと腑におちました。あの片足を上げたまま後ろ向きにケンケンと下がって行く踊りがあるじゃないですか、あれが音楽にぴったりあっていて、しかもとても切なそうで胸がつまりました。悲しみより愛が強いんだよね...あの一連の踊りの川村さんは本当に素晴らしくて、王子を愛おしくてたまらないのが伝わってきました。

ロートバルトの乱入で修羅場になる訳ですが、自分の一番大切なものを守るためだから、オデットも王子も揺るがない。この場面って「ロートバルトのやられ方がどうも...」と思うことがとても多いのですが、この日は2人の揺るがない気持ちがロートバルトを倒し呪いを解いたのだと、本当に素直に納得できました。

芳賀ロートバルトは最後の最後まで羽をバタバタとさせてもがき苦しんでいましたねー。新国デフォの市川ロートバルトは比較的あっさりと倒れてしまうので、新鮮でした。それと、この日も堀口純さんの2羽の白鳥が絶品でした。


川村さんのオーロラ・デビューの時はこちらの心臓がバクバクしていましたが、今日は全く緊張する事なく、ワクワクしながら開演を待ちました。主演の2人の資質から、ドラマ要素より踊りの美しさを堪能する公演になるんだろうなーと予想していたのに、自分の妄想付きとはいえ、ドラマの要素を楽しむ事が出来たのは嬉しい誤算だったかな。早く2度目の主演が見たいです。