2008年7月19日 東京文化会館大ホール

クレジット

演出:アンナ=マリー・ホームズ/振付・台本改訂:コンスタンチン・セルゲーエフ/原振付:マリウス・プティパ/音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、オリデンブルク公爵/台本:ジュール=アンリ・ド・サン=ジョルジュ、ジョゼフ・マジリエ/装置・衣裳:イリーナ・コンスタンチノヴナ・チビノワ/衣裳デザイン補足:ロバート・パージオラ/照明:メアリー・ジョー・ドンドリンガー
指揮:オームズビー・ウイルキンス/演奏:東京ニューシティ管弦楽団

キャスト

コンラッド(海賊の首領):マルセロ・ゴメス
ビルバント(コンラッドの友人):サッシャ・ラデツキー
アリ(コンラッドの奴隷):ホセ・マヌエル・カレーニョ
ランケデム(市場の元締め):ゲンナジー・サヴェリエフ
メドーラ(ギリシャの娘):ニーナ・アナニアシヴィリ
ギュリナーラ(パシャの奴隷):ミスティ・コープランド
セイード・パシャ(コス島の総督):ヴィクター・バービー

海賊の女:マリアン・バトラー

海賊の踊り:マリアン・バトラー、サッシャ・ラデツキー、海賊たち
フォルバン:マリアン・バトラー、サッシャ・ラデツキー
カリン・エリス=ウェンツ、ルチアーナ・パリス、アレクセイ・アグーディン、アイザック・スタッパス


感想

ABT「海賊」は2002年の来日公演で見て以来2度目。来日公演の演目が発表になった時は「どうせなら見たことない演目が見たいのに」と少し残念だったのですが、実際にはこれほどABTらしく盛り上がる公演は「海賊」をおいて他にはない!と実感。プリンシパルロールがたくさんあり、METでもほぼ毎年のように上演されるからみんな踊り慣れて役にも親しんでいる。しかも今は男性ダンサーが充実しているので目にも楽しい。

発売日にチケットを買った時はコンラッドはまだTBAでアリをアンヘルが踊る予定だったのが、6月にゴメスがコンラッドに決まり、そして直前にアンヘルが降板した事でカレーニョがアリに。他のキャスト目当てだった方は気の毒だが、ゴージャスでありながらとてもバランスのよいキャストになったと思う。(そりゃあアンヘルが見られなかったのは残念だけど...)とにかく、期待を裏切られる事は絶対にない!と確信して劇場へと急ぎました。


「海賊」というとキーロフ版がスタンダードなのかもしれないけど、私にとってはABT版がスタンダード(何しろ最初に買ったDVDでしたし)。とはいえ、前回の来日公演から6年も経っていて、DVDも最近はほとんど見返していないので、「あれ、こんな演出だったっけ」と感じるところも多く新鮮でした。例えば、プロローグでメドーラやギュリナーラたちがランケデムに追い立てられていくところとか。

1幕はサヴェリエフのランケデムのソロでスタート。前回までの来日公演での印象が"折り目正しき真面目なバレエ青年"という雰囲気だったたサヴェリエフ、この日はなんとも食えない奴隷商人っぷりで嬉しくなりました。メドーラにのぼせ上がったコンラッドを一瞥して「フン、あんたにゃ無理さ、買えるだけの金なんか持ってないだろ?散った散った!」とあしらう素振りが最高。

DVDでマラーホフが披露していた深いグランプリエでの着地が入る振付では踊っていませんでしが、ジャンプにひねりを入れた大技(カジョール・リヴァルタット/540と言うそうですが)には客席がどよめきましたよね。あのサヴェリエフの技で客席がぐっと前のめりに(気分的にね)なったと思うわ。それに、ギュリナーラをリフトする時もふわーっとしかも高く!て惚れ惚れしました。綺麗だったよねー。


ラデツキーくんも前回の来日時まではソリスト級の役を踊るには一押し足りないのがもどかしかったのですが、彼も大変身。男らしく押しの強いビルバントとして登場したのでうっとり〜。もともと涼しい顔立ちの美男だけど、堂々たる自信を身につけて、更に目を惹く存在に。前回までは割と繊細な踊り手さんだった気がするけど、踊る身のこなしも大きくなったし、しかも踊る脚の美しさに磨きがかかっていて、その成長っぷりがひたすら嬉しかったです。

そして、カレーニョとゴメスが続けざまに美しく高ーい跳躍で登場!カレーニョのアリはガラではもう何度も見ているけど、全幕では初めて。全身から「コンラッド様の忠実な奴隷」なのが伝わってくる。何と言うか...視線が暖かいんですよね。前日のガラでは抑え気味だった踊りも、この日は全開。キレのある美しいピルエットや跳躍を堪能しました。

ゴメスのコンラッドは気のいい首領で、まぁ海賊という生業ではあるのだけど、気の合う仲間たちと楽しく生きてる感じ。もちろん踊りは大きいしラインは綺麗だし、期待通り。私はイーサンのコンラッドが目に焼き付いているので、彼の音楽にピタピタと合った踊りからすると、ゴメスのそれは若干鈍さを感じたのですが、それは比較対象がイーサンだからだよね。ゴメスほどダイナミックに踊るダンサーなら問題のない範囲の事だし、逆にその少しだけ音に甘いところが、コンラッドとしての甘さに繋がる、とも取れて悪くないと思いました。

ギュリナーラ役のミスティ・コープランドはチュチュ姿の役づきで見るのはたぶん初めてかな。正直言ってそんなに期待していなかったのですが、ギュリナーラというキャラクターがニンに合っていたんじゃないでしょうか。ギュリナーラをプリンシパルロールと捉えると物足りなさはあるけれど、パシャに売られてからもけっこう楽しく生きちゃうような逞しい生命力が、彼女にはあったと思う。それに、他のキャストともバランスがよかったと思うし。


さてお輿にのったニーナの登場です。メドーラがお輿の上でヴェールを上げて顔を披露する、そのニーナの表情が絶品でした。DVDのジュリー・ケントは光り輝くような笑顔で「いや、奴隷として売られるところなんだからソレは...」と思ったものですが、この時のニーナは「自分を美しく見せたい、けれど奴隷として売られるなんて」という複雑な表情なの。これぞメドーラだ、と嬉しくなりました。私たちにも共感できる感情を一貫して見せてくれた事で、「荒唐無稽、かもしれないけどとっても楽しくて暖かい舞台」になったのだと思う。あ、もちろんジュリーのメドーラも可愛くて好きなんですけどね。

奴隷として売られるためにこの市場に連れてこられたとはいえ、そこで素敵な海賊と恋に落ちたメドーラ。ランケデムはメドーラをパシャに高く売りつけようと必死に売り込みながら彼女の踊りを見せるのだけど、当のメドーラはランケデムとパシャの目を盗んでコンラッドと戯れるのが楽しくて仕方なくなっちゃうのね。ここのニーナもすごく上手かった。パシャ役のバービーさんが手にキスしようとした時にさっと手を抜くタイミングが絶妙。よく練られたコメディを見ているようでした。

2幕のパ・ド・トロワもゴメスとカレーニョとでたーっぷり盛り上げてくれて、あまりの幸福に泣けてきちゃいました。ニーナの踊りを見ていると、最後には幸せで泣けてくるのです。花園の場面もそうでした。ABTなので群舞はピッシリ揃ってはいないかもしれませんが、私はイエロー/オレンジ/ピンク・チュチュの面々もそう悪くなかったと思います。


パシャ役のヴィクター・バービーさん。客席でお見かけすると今もうっとりする程素敵なのに、大爆笑もののパシャでした。お腹と首を揺らして歩いたり、可愛い女の子たちにメロメロになったり。でも不思議とスケベに見えないのが彼の品のよいところなんでしょうねー。3幕でお付きが用意したクッションに倒れ込むところでも笑いを誘っていましたし、マイムもいちいちよく伝わるので「愛すべきパシャ」でした。

話が前後していますが、オダリスクの舞は1幕に登場。ここではマリア・リチェットが印象に残りました。どこで何を踊っても印象に残る美しい踊り手だし、ガラではユーモラスな表情も見せてくれた彼女。そろそろ昇進させてあげたいなぁ。第3ヴァリはパールト。ワガノワ育ちだけあって、アームスを広げただけで無限の宇宙を感じる美しさながら、彼女は脚がちょっと弱いですよね...別に第3ヴァリで超絶技巧を見せる必要もないし、ゆったりと1回転ずつ進んでもいいのですが、ふらついちゃうのが残念でした。

フォルバンも1幕なんですよね。アリがメドーラたちの様子を見に行っている間、市の広場で海賊たちが踊り始めます。拳銃2丁を手に広場に飛び込んできたビルバントが「騒ぐぞ!」とばかりに発砲!この時のサッシャがまた素敵だったんですー。発砲後にニヤリと笑って一瞬間をとってから踊り始めるんですよね。かっこ良かった(はぁと)。

ラデツキーくんのお相手役はマリアン・バトラー。フォルバンの後半に、男性がのけぞった女性を支えるってのが2回続くのですが、その1度目の時に、ラデツキーくんったらバトラーの胸元に顔を埋めて(笑)プルプル〜と左右に顔を振るという行動に出ました。わっ!と思って思わず2人をマジマジと見ちゃったのですが、驚いたのはマリアン・バトラーも同様だったらしく、起き上がってラデツキーくんと顔を見合わせたバトラーの顔がみるみるうちに真っ赤になっちゃいました。か、かわいい〜(アホ)。

2度目の「のけぞり」の時は、ラデツキーくんも非常に紳士らしく、上体をあげたまま彼女を支えておりましたが、その表情は紳士が悪戯を企んだような澄まし顔。もう可笑しくて。で、それ以来マリアン・バトラーが舞台にいる時は何となく気になって目で追っていたのですが、彼女もいいダンサーですね。花園の場面ではイエロー・チュチュで踊っていましたが、とても安定したダンサーだと思います。これから気にかけていこう、と思いました。


話のあらすじにそって書いてはいないですし、感想を省いた場面もたくさんあるのですが、楽しいとしかいいようのない公演に大満足!でした。

もちろんニーナはカーテンコールにも手を抜きません。ゴメスに高くリフトされて出てきたり、カーテン前でポーズを取って待つゴメスに向って、後ろ向きにダイブ!したり(この時はゴメスがポーズを取りつつ中からニーナに?何か言われて、思わず笑って脱力、という場面も)。カレーニョの引っ込む直前のルルベ+ポーズも美しく、本当に楽しませていただきました。

ウィルキンズさんとオケのみなさんにも感謝を。ガラの時からそうですが、このオケ部隊さんたちはとても練習熱心ですね。特に金管の方たち。おかげで上演中に音に気持ちを乱される事もなく、音楽とバレエとをしっかり堪能できました。

まぁ、ニーナみたいに絶えずオケにも感謝を捧げてくれるバレリーナの為なら、張り切って演奏しようってお気持ちも理解できますよね。ファンとしても嬉しい限り。なにしろニーナは2幕パ・ド・トロワの後にもオケにニッコリ微笑んでいたし、カーテンコールでは自分が受け取った花束から1輪の花を抜き出してコンマスに投げていましたから〜。