2008年11月15日 新国立劇場 オペラパレス

クレジット

振付:デヴィッド・ビントレー/作曲:カール・デイヴィス/舞台装置:ディック・バード/衣装:スー・ブレイン/照明:マーク・ジョナサン

指揮:ポール・マーフィー/管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団

キャスト

アラジン:山本隆之
プリンセス:本島美和
魔術師マグリブ人:マイレン・トレウバエフ
ランプの精ジーン:吉本泰久
アラジンの母:難波美保
サルタン(プリンセスの父):イルギス・ガリムーリン
オニキスとパール:高橋有里、さいとう美帆、遠藤睦子、江本拓、グリゴリー・バリノフ、佐々木淳史
ゴールドとシルバー:川村真樹、西川貴子、貝川鐵夫、市川透
サファイア:湯川麻美子
ルビー:厚木三杏、陳秀介
エメラルド:寺島ひろみ、寺島まゆみ、中村誠
ダイアモンド:西山裕子
アラジンの友人:江本拓、グリゴリー・バリノフ


えーと、まずは楽しかったです。とにかくこの作品、早く全容を見たくて仕方なかったので、場面が進むごとに装置や衣装も含めてワクワクしながら見ていました。それに、出演者全員ほぼフル回転!みたいなものですから(早替えと舞台転換で舞台裏もフル回転!だったはず)新国ダンサー好きの私には彼らがたっぷり踊るのを見られただけでも嬉しいのですよ。

デヴィッド・ビントレーの振付

ビントレーは振付のオリジナリティではなく着想の豊かさが特色の振付家だと思いますし、その意味ではこの作品もいたるところに仕掛けが施されていてワクワクさせられます。物語バレエの形をとっていると筋を追うために説明がましくなったり舞台転換で間延びしたりしますが、ビントレーはこの転換がものすごく上手い。もちろん優秀な製作&舞台スタッフがいてこその事ですが、エンタテインメントとして上等でした。バレエをあまり見ない人も楽しめると思うし、そういう客層にアピールするような上演をしたらいいんじゃないかしら。

ビントレーとしては1幕でバレエ的なみどころをふんだんに盛り込んで見せ場を提供しつつ、2幕と3幕でアラジンの冒険と成長、プリンセスとの恋という物語を見せたかったのかしら。初日を見た限りではこのドラマ的な要素がちょっと弱くて、期待していた程の感動や興奮は得られませんでした。たぶんビントレーの振付は「振付通りに踊れば自然に感情が表現される」ものではないのでしょうね。ダンサーの表現力に負う部分が大きいのはけっこうシビアだけど、いろいろ見比べたいという気持ちになります(笑)。


世界初演ということで、人を入れて上演して初めて見える部分もあるでしょうし、美術や振付を含めて、再演の時にはより魅力的に見えるように手を入れてほしいなと思います。作品自体は海外に持っていっても十分楽しんでもらえるものだと思いますから。

グランド・バレエを見慣れた身にはディヴェルティスマンや結婚式が1/2幕にあるというのは微妙に居心地がよくないというか、習性としてディヴェルティスマン!結婚式!終わり!みたいなところがあるので、フィナーレにもう少しお祭り騒ぎがあると帰り道が楽しいかな。

カール・デイヴィスの音楽とオーケストラ

映画音楽的なカール・デイヴィスの音楽も異国情緒たっぷりで楽しく、指揮のポール・マーフィーさんとオケの集中力の高い演奏で堪能できました。金管隊が素晴らしかったし、チェレスタやオルガンまで入って普段とは違う響き。

ただなぜか耳には残らなくて、帰りの電車の中も音が脳内再生できなかったです。この作品のCDは製作が発表された時に探し出してご紹介したりもしたんですが、私自身は真っ白な気持ちで公演を見るためにCDはまだ買っていなかったから余計に。結局自宅に戻ってからiTunes Storeで買いましたが、聴いていると公演の事が思い出されてまたすぐに見たくなります。

製作スタッフはデイヴィスの音楽のイマジネーションを誉めていましたが、もともとビントレーの意向でつくられた音楽ではないだけに難しい部分もある気がします。もう少し短くていい場面もあるし、もっと派手に見たい場面もある。今回の上演の為に改訂された部分もあるようですが、オーダーメイドの心地よさまでは感じられなかった気がしました。多くを求め過ぎなのかしら?

美術

装置がよくてねー。「ライモンダ」「椿姫」などルイザ・スピナテッリさんのテキスタイルの文様や絵画で空間を埋めるような美術も好きですが、今回のディック・バードさんは余白を余白として差し出す潔さ(仕掛けの制約もあるでしょうけど)。洞窟の場面が派手(装置的にも)なので、それ以降のアラブ的イスラム的な、照明が映えるようにつくられたシンプルな装置は地味にも見えますが、舞台奥の人の出入りが見える開放的な感じは私は好きでした。マグリブ人のハーレムは悪=不毛的な寒々しさが評価の分かれるところかな。装置の話ではありませんが、作品的にはここでもう1つディヴェルティスマンでも入ると盛り上がるでしょうけど、たぶんマグリブ人は女たちを侍らせた華やかな宴には興味がないのよね(笑)。

衣装は特に宝石たちがよかったですねー。それぞれに趣向をこらしてあって。ただ、「オニキスとパール」と「ジーンの側近たち」がマスクありで、できれば顔が分かる方が嬉しいかな。2幕のプリンセスとお付きたちの湯浴みの場面はバスタオルを巻いたような衣装でしたが、プリンセスだけはもう少し変化を付けてもよかったかも。最初本島さんだってわからなかった(ごめんね)。ずっと白い衣装だったプリンセスがマグリブ人のハーレムで気付いた時には赤いハーレムパンツ姿になっていて、その変化は印象に残りました。ハーレムといいながら他の女たちは黒尽くめなんですが、そのおかげで、山本さんが影にかくれて黒い衣装をすっぽり被るところなんかが見えて私には美味しかった?(笑)

照明も美しいと思いますが、初日の前方席ではたぶん全ての美を享受はできていないでしょう。後日 上の席から見る時のお楽しみにしたいと思います。

メインキャラクター

アラジン役はしょっぱなから踊りっぱなしで大変!山本隆之さんが舞台でバテかけているのを初めて見ました(笑)。もちろんバテてはいないんですよ、私が彼を目で追ってるからそう思うだけで。キャラ的に悪ガキよりノーブルが似合うお人ではありますが、彼の「頭で考えるより先に身体が動いてしまう」人物像はとても新鮮!悪ふざけも恋に落ちるのも困り果てるのも目一杯のアラジン、今まで舞台で見たことないような表情を見せてくれて楽しかったです。

本島美和さんのプリンセスも良かったですよ。山本さんが無邪気な青年だったように本島さんのプリンセスも大人になるほんの一歩手前という感じだったので、思っていたよりバランスがよかった気がします。私は本島さんと山本さんの組み合わせを見るのは初めてだと思うのですが、踊りの相性もそう悪くないように思いました。

ただし、個々にみると2人ともよく役作りしていたけれど恋人としてのドラマは薄かったようです。互いに惹かれていくところなんかはとてもよかったんだけど、一緒になった時の幸福感が思ったより盛り上がらないというか。この辺は演出とか音楽とか振付などの要素も大きいと思うし、こちらも初日で舞台上のあちらこちらを観察モードで見ていましたから受け取りきれなかっただけかもしれないし、2人の課題とは言い切れませんけども。個人的な気持ちとしては、山本さんの場合は相手が年上の方がドラマが盛り上がると感じるので、今後は若いパートナーからドラマを引き出す方面の強化を期待したいところ。

ビントレーの「美女と野獣」の恋人たちを繋いだキーはベルが野獣の胸に手をあてた事でしたが、ここでアラジンとプリンセスを繋いだのはリンゴ。最後にも出てきて2人の愛の象徴として使ったらよかったかもね。

サブキャラクター

ジーニーの吉本泰久さんは絶好調で、あの滞空時間の長い跳躍を何回も見せてくれました。舞台を圧する存在感があって素晴らしかった!特に、ランプをこすったアラジンとその母に(難波美保さん好演〜)「気持ちよく寝ておったのに、起こしたのは誰だ?」とすごむところは風格がありましたわー。吉本さんは道化などのキャラクテールも味わい深くて見るチャンスを逃したくない人ですが、「カルミナ」の第2神学生といいジーニーといい、ビントレーとの相性もとても良いと感じます。今後どんどん新たな魅力を見せていただけるのではないかしらととても楽しみです。

しかし本日の肝は何と言ってもマイレン・トレウバエフさん。彼のマグリブ人こそがこの作品の鍵でしょう。彼ほどのダンサーが踊らない役なのは残念とも言えますが、それでもなお彼のマグリブ人はピカ一の存在感がありました。あのメイクや衣装の似合い具合といい指先まで行き届いた妖しい雰囲気といい最高でした。圧倒的な悪役として君臨しているのに嫌な奴じゃないのは彼のお人柄かな。


アラジンの友人としてグリゴリー・バリノフくんと江本拓さん。バリノフくんの踊りが大好きな私ですが、江本さんは今回バリノフくん以上に柔らかくキレのある踊りだったように思います。「キテる」感がありましたよ。1幕最初にアラジンと3人で踊るところは「ロミジュリ」のロミオボーイズを連想させます。2人はライオンダンスも披露するのですが、これがまたすごく良かった!ハードな振付を大きな着ぐるみ状態で無理な姿勢で踊るのは本当に大変だと思いますが、それだけにすごく印象に残りました。

サルタン役のガリムーリンはもう鉄板なんで言う事なし。上でちょっと書きましたが難波美保さんのアラジンの母は好演でした。チャッカリしたところもあって、この母にこの息子あり、って感じ。彼女を見てると心の中で大阪弁でアフレコしたくなります(笑)。声は綾戸智恵あたりで。もう1人キャラが立ってたのがサルタンの守衛役の小笠原一真さん。全幕中で一番怒ってたのがこの守衛さんで、この怒りの演技が堂に入ってましたね。背が高いから動きも大きいし、迫力がありました。もっといろんな役で見てみたい、活躍を期待するダンサーの1人です。

ディヴェルティスマン

ソリストクラスのダンサーたちが入れ替わり立ちかわりディヴェルティスマンを踊る宝石の部分は、ビントレーが新国のダンサーにもたらした最初の影響を肌に感じる場面だったと思います。たくさんの(民族舞踊ではない)クラシカルな振付のディヴェルティスマンは多くのダンサーを必要としますし、技術的にもしっかりしたものを求められる。

さながら「ダンサー養成ギブス」的な振付を、全てのダンサーが圧倒的なテンションで踊り切った事に興奮したし、今後ビントレーがダンサーの能力をフルに生かした振付と配役で公演を行ってくれるだろうという期待も高まりました。豪華な衣装とそれぞれの宝石に与えられたテーマのヴァリエーションも楽しかったし、ビントレーの所信表明としてもこれ以上のものはない作品のハイライトでした。ただ、それが1幕だった事だけが惜しいのよねー。

カール・デイヴィスのCDの、このディヴェルティスマンにはそれぞれ副題があります(パンフレットで衣装のスー・ブレインもこの事に触れていました)。

  • Onyx and Pearls - Toccata
  • Gold and Silver - The Pillars of Mammon
  • Sapphires - Born of the Sea
  • Rubies - For Passion
  • Emerald - For Envy
  • Diamonds

「オニキスとパール」はマスクをつけていたので、意識しないと「あれは誰?」状態。久しぶりに見る高橋有里さん(白鳥は4幕の黒だけだったし)や佐々木敦史さんの踊りをしっかり見たかったのに残念。

「ゴールドとシルバー」は太陽王ルイ14世的な金ピカ男性陣と月を戴いたシルバーの女性陣。踊りもそういうワガノワ的クラシカルというか。4人ともこういう踊りはよく似合うけど、せっかくのビントレー作品、もっと冒険させてあげたかった気も。でも相変わらず川村さんは美しかったです。うっとり。

サファイアは海の女神的な湯川さんとお付きの女性たち。湯川さんも鉄板ですね。振付家の信頼を自信にして揺るぎない存在感。「カルミナ」を思い出させる印象的な脚の使い方が印象的でした。

そして、厚木三杏さんと陳秀介さんの「ルビー」!三杏さんの香り立つ華と艶に目が釘付け。まるで宝石の女王の如く舞台に君臨していました。そしてそれに仕える陳秀介さんの力強いサポート。女王を敬う忠実なる僕といった趣きで、難しいリフトなどがありましたが陳さんは全くびくともせず。わりとソフトな役をふられる事の多い彼ですが、新たな魅力を発見した想いです。素晴らしかった。

そして寺島ひろみ/まゆみさんと中村誠さんの「エメラルド」。これもまたお見事。双子ならではの驚異的なシンクロ率で踊る二人に全くひけをとらない中村さん。あの独特な柔らかい動きと妖しさに釘付けです。中村さんのこういう役大好き!エメラルドのテーマは「嫉妬」だそうですが、そんな感情なんて超越した妖しい世界へと誘ってくれました。

ダイヤモンドは西山裕子さん。お付きをたくさん引き連れてきらびやかでしたが、新国が誇るアレグロダンサーの西山さんでも大変そうな早いテンポの踊りでした。1幕2場で砂漠の風役だった方たちがみんなこのダイヤモンドのお付きに入っていて「うわ、大変!」と思ったのが早替えに意識がいくきっかけだったかな。思えば1幕1場で踊り子だった三杏さんもルビーで登場した訳だし(そして5場ではまた踊り子に戻っていたような)。


それで思い出しました。順序は逆になりますが、砂漠の風を踊ったダンサーでは千歳美香子さんの雰囲気がとても印象に残りました。あと、大湊由美さんの華と色香が当社比30%増しくらいになっていてびっくり!身体のラインもちょっと変わったかも?明らかに「ラ・バヤデール」の頃から比べると進化していて、研修所卒の同期さんたちと比べると個性がはっきりしてきたと思います。ダイヤモンドでも目立っていましたよ。


どのダンサーも何回も衣装を替えてのフル回転だったと思いますが、隅々まで気合のみなぎった舞台は心地よいものでした。カンパニーやダンサーの新たな側面を1つ2つどころでなく束になって見せつけられた事は、新国ファンとして幸せを感じたし、何よりもこれからカンパニーが大きく変わって行く最初の身じろぎ(笑)のようなものを目撃した事に胸が高鳴っています。作品の方はこれからも手を入れる必要があるでしょうが、新たなシーズンの船出として、これほど先々が楽しみになったのは初めてかも。まだまだ新国立好きからは足を洗えそうにありません


(2008.11.27追記)
11月20日(八幡/小野)22日(芳賀/湯川)の感想にもこの日についての記述がけっこうあるので、よろしければそちらもご覧下さい。長いですけどもー。

Carl Davis: Aladdin
Carl Davis: Aladdin