2008年11月20日 新国立劇場 オペラパレス

クレジット

振付:デヴィッド・ビントレー/作曲:カール・デイヴィス/舞台装置:ディック・バード/衣装:スー・ブレイン/照明:マーク・ジョナサン

指揮:ポール・マーフィー/管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団

キャスト

アラジン:八幡顕光
プリンセス:小野絢子
魔術師マグリブ人:冨川祐樹
ランプの精ジーン:中村誠
アラジンの母:難波美保
サルタン(プリンセスの父):イルギス・ガリムーリン
オニキスとパール:大和雅美、伊東真央、寺田亜沙子、福田圭吾、泊陽平、陳秀介
ゴールドとシルバー:川村真樹、西川貴子、貝川鐵夫、市川透
サファイア:湯川麻美子
ルビー:寺島ひろみ、マイレン・トレウバエフ
エメラルド:高橋有里、さいとう美帆、古川和則
ダイアモンド:西山裕子
アラジンの友人:福田圭吾、泊陽平


感想

この日は1階中程中央の席で舞台全体を楽しむのに理想的な席でした。一度見て全体像が分かっているからか、初日に物足りなさを感じた2/3幕も楽しめて、フィナーレはジーンときたりして。小野さんと八幡さんが主演の舞台を立派につとめあげた事が嬉しかったのもあると思うし、こちらもあまり「バレエの様式」など「こうあるべきだ」にこだわらず心のままに楽しんだのも理由の1つかな。客席の雰囲気も初日より格段に暖かかったですし(学生ちゃんたちがいたので、客席内の気温はとても高かったです・笑)ダンサーたちも気持ちよく踊れたのではないでしょうか。


八幡さんのアラジンは予想通り軽々と踊っていました。元々技術力もあり綺麗に踊る人ですから、ハードな振付も難なくさらっと踊ってしまうので、逆に印象に残りにくいのではと贅沢な事を考えてしまう位です。山本さんは八幡さん程には高さは飛べないけれど、踊りの形としての「魅せ方」は心得ていますから印象に残ったとも言えるでしょうし。八幡さんもこれからどんどん経験を積んで、そういう魅せ方を身につけてほしい。

アラジンがお母さんの前に戻ってきて洞窟の中でこーんな事があったんだよって踊りながら説明する場面がありますよね。あのダイヤモンドの踊りを踊ってみせるのも、八幡さんは綺麗なのよ。山本さんが踊ったのは(ファンだからだけど)「うわ、あの山本くんがこんな事を(笑)」という意外性が可笑しくて仕方なかったんだけど、八幡さんが踊るとやっぱり綺麗なのね、って。

あ、でも洞窟に閉じ込められた時に光を追って飛び跳ねたり掴もうとして手を出すところなんて、まるでアニメーションみたいに重力を感じさせずにピョンピョン飛ぶのが凄かった!あーゆーのは八幡さんの独壇場だと感心します。

けっこう面白かったのが「砂漠の風」たちとの場面。(どうしても山本さんとの比較になって申し訳ありませんが、どちらが悪いとか良いと言う事ではなく個性の違いを楽しんでいるだけなのでお許し下さいね。)山本さんはサポートの安定感が抜群なので、砂漠の風たちに対しても「ここだよ」って手を早めに差し出してあげたりしていたんですね。だから砂漠の風たちの踊りも安定していて「アラジンの砂漠でのできごと」って感じだった。

八幡さんの場合はまだサポートは発展途上で、しかも彼とペアとして組む可能性が低いと思われる背が高い女性ダンサーと踊らなければならなかったんですね。その結果、山本さんと比べると当然不安定になるのですが、それが逆に「砂漠の風に翻弄されるアラジン」になっていたんですよー。これは予想外に楽しかった。砂漠の風では、この日も千歳さんの雰囲気たっぷりな踊りに釘付けでした。


小野絢子さんはとにかく深窓のプリンセスそのもので、もう佇まいからして好みなんですけど、踊りも安定していました。一番最初の月にうつる幻影としての登場シーンからして踊りがぐらつかないし形が綺麗なんだよねー。本島さんはこの幻影の場面から割とリアルなお姫さまでそれこそが彼女の個性だと思うけれど、小野さんは本当に月の中の幻のようでした。

お輿に乗って登場した時のプリンセスは未だ自分を保護する大きな幕には気付かないのだけど、アラジンが林檎を放り投げる事でその彼女を保護する幕に穴をあけて新鮮な空気を入れるのね。小野さんのアラジンである八幡さんはその幕の中からプリンセスをひっぱりだして自分のそばに連れてくる明快さがあるから、小野さんの「外の世界を知らない姫君」という存在が生きるのだと思いました。

対して(ここも比較のようになりますが上記と同じ理由によるものですのでご容赦を。)本島さんのプリンセスは自分が他の同じ年頃の人たちとは違うという事に気付いていて、自分とそれ以外の人たちとの間にある幕の事も知っているんですよね。リアルだと書いた上の文章もこの辺に繋がってくるんですが、本島さんのプリンセスは今の女の子にも共感できるような等身大の感情を持つ女性。彼女のアラジンである山本さんは、プリンセスの願いをかなえる象徴的な存在だったというか。「アラジン」の筋とはちょっと違う関係性ではあるけれど、組み合わせによってそれぞれの考えや良さがあるのよね、と改めて思った次第。

初日のペアに薄いと感じた3幕の恋人たちの想いは、この日のペアの方がよかった気がします。ちょっとした仕草で感情を表現するのは初日ペアの方が良かったけど、何と言っても小野さんと八幡さんは喜びがストレートに伝わってくる心地よさがありました。


中村誠さんのジーンは、魔法使いの妖しさがありました(誉めてます!)。吉本さんの場合は(動きはとても軽いのに)どっしりと地に足着けた圧倒的な存在感があったのですが、中村さんの場合はどこかこの世の物でないというか、それこそアニメのように足先が煙のように消えていそうな存在の妖しさ。彼の持つ独自の空気のなせる技でしょうか。振付のタイプとして中村さんより吉本さんに合うものだったようには感じますが、それゆえか「ランプに押し込められた不自由さ」みたいなものは中村さんのほうにより多く感じました。なにより「ランプは君自身のものだよ」とアラジンに渡された時の嬉しそうな笑顔がよかった。

ランプの精がアラジンとアラジンの母によって呼び出された時の、あの煙と洗濯物(?)の影にぶわっと浮かび上がる登場シーンは初日はあまりよくわからなかったのですが、この日はよく見えてその効果に感心しました。ただ、ジーンが登場したあともその周囲から煙が動かなくて、残念ながら中村さんの「気持ちよく眠っておったのに」という怒りのマイムがよく見えませんでした。

マグリブ人役の冨川さんも大熱演。マイレンのマグリブ人が策略の人だとすれば、冨川さんのマグリブ人は悪意と憤怒の人。負のパワーに満ちあふれるヒールでした。サポートが上手いからマグリブ人のハーレムで彼と踊る小野さんの踊りやすそうな事(笑)。

このハーレムでマグリブ人の杯に薬を仕込むシーン、小野さんは可愛らしい風貌に似合わず肝のすわった姫君で、杯を奪ってアラジンに「ほらっ、早くっ」と杯をブンブンと振って合図するのがセリフが見えるようで可愛かったです。本島さんはそんな振りを入れていたかなぁ、あとで追加になったのかしら。


アラジンの友人役の福田圭吾さんと泊陽平さんは、新国では彼らにとっては初の割と大きな役と言えると思いますが、バランス的にも八幡さんと合っていてよい配役だな、と。ファーストキャストのバリノフくんと江本さんを見ちゃうとまだ大人しくて、結婚したアラジンを誘いに行って待ちぼうけを食わされてる間2人とも棒立ちだったのはちょっともったいなかったかもしれないけど。

でも大団円の時の福田圭吾さんの決め技なんかを見るにつけ、彼もゆくゆくはアラジン役を任されるダンサーだと思いました。こういうちょっと小柄だけど魅力たっぷりの男性ダンサーがメインをはれる演目という意味でも「アラジン」は新国の貴重なレパートリーになり得ると思います。


この日の洞窟のディヴェルティスマンも豪華でした。初日と違うのはオニキスとパール、そしてルビー、エメラルド。オニキスとパールはマスク付きだしあっという間に終わる感じがするので誰がどうとは言えないのですが、この日の3人も安定していたと思います。

ルビーの寺島ひろみさんとマイレン・トレウバエフさんの組み合わせは、初日の厚木/陳とはまた違う雰囲気で、晴れやかな笑顔の寺島ひろみさんを、大人なマイレンが導くような源氏物語的(?)なルビー。同じ振付なのにガラリと雰囲気が変わるのは面白いですね。3組目のキャストがどんな世界になるのか気になるところ。

エメラルドは高橋有里さん、さいとう美帆さん、古川和則さんで、こちらも初日とは雰囲気が異なって楽しかったです。さいとう美帆さんが意外にこの振付がハマっていたのが嬉しい発見でした。高橋さんとさいとうさんの組み合わせはよく見るけれど、この振付に限ってはこんなに個性が違うんだなーと驚く程。古川さんは、やっぱり基礎がしっかりしていて踊りが綺麗。1つ1つのムーヴメントに荒いところがなくて、清々しかったです。

あとね、初日は席が近すぎてその良さがわかりにくかったダイヤモンドの、その群舞の素晴らしさに感動した〜。手脚の長いコール・ドが狭いスペースでピシっと合わせて踊るのにジーンときました。曲もいいよね?あのチュチュの硬質な感じとピタピタっと音にハマる動きが最高でした。このコール・ドだけでも何度も見たい!オルゴールの人形にして持ち帰りたかった...


この日のキャストたちは、この役は今日が最後という人たちが多かった事もあって、カーテンコールもノリノリでした。学生さんたちも含めブラボーの嵐だったし、終演後の祝祭感はそりゃあすごいもので、私もすごく楽しかったです。無事に初主演の重責を担った八幡さんと小野さんに改めて拍手を。