2008年11月24日 東京文化会館 大ホール

クレジット

振付:マリシア・ハイデ(マリウス・プティパの原典に基づく)/演出:マリシア・ハイデ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー/装置・衣装:ユルゲン・ローゼ/照明:ディーター・ビリーノ

指揮:ウォルフガング・ハインツ/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

キャスト

オーロラ姫:アンナ・オサチェンコ
デジレ王子:マリイン・ラドメイカー
カラボス:フィリップ・バランキエヴィッチ
リラの精:ミリアム・サイモン
王:ヘルマー・ポーロカット
王妃:メリンダ・ウィサム
カタラビュット:トーマス・ダンヘル
乳母:ブリギット・デハルデ

<プロローグ>
澄んだ泉の精:オイハネ・ヘレーロ
黄金のつる草の精:ヒョー=チャン・カン
森の草地の精:ダニエラ・ランゼッティ
歌鳥の精:カタジナ・コジィルスカ
魔法の庭の精:マグダレーナ・ジギレウスカ
お付きの騎士:ローランド・ハヴリカ、ウィリアム・ムーア、ペトロ・テルテリャーン、ディミトリー・マギトフ、ダミアーノ・ペテネッラ、ローラン・ギルボー
宮廷の人々:シュツットガルト・バレエ団

<第1幕>〜オーロラの誕生日〜
東の王子:ディミトリー・マギトフ
北の王子:エヴァン・マッキー
南の王子:ダミアーノ・ペテネッラ
西の王子:アレクサンダー・ジョーンズ
オーロラ姫の友人:ナタリー・グス、マリア・アラーティ、アレッサンドラ・トノローニ、ダニエラ・ランゼッティ、クリスティーナ・バーネル、カタジナ・コジィルスカ
宮廷の人々、庭師:シュツットガルト・バレエ団

<第2幕>〜狩りの場、幻を見るデジレ王子、オーロラの目覚め〜
伯爵夫人:オイハネ・ヘレーロ
カラボスの家来:シュツットガルト・バレエ団
宮廷の人々、妖精たち:シュツットガルト・バレエ団

<第3幕>〜オーロラの結婚式〜
グレーテル:ナタリー・グス
ヘンゼル:ウォン・ヤオスン
シンデレラ:アンジェリーナ・ズッカリーニ
王子:オズカン・アイク
青ひげ公:マキシム・キローガ
王女:アレッサンドラ・トノローニ
シェヘラザード:エリザベス・ヴィセンベルク
アラジン:ペトロ・テルテリャーン
コロンビーヌ:アナベル・フォーセット
アルルカン:ルドヴィコ・パーチェ
カエルの王子:チャールズ・ペリー
王女:ビリャナ・ヤンチェヴァ
お姫さまとえんどう豆:へザー・チン
王子:ブレント・パロリン
中国の王女:ジュリア・ムニエ
官吏:デヴィッド・ムーア
白雪姫:レネ・ライト

〜ディヴェルティスマン〜
アリ・ババ:アレクサンダー・ザイツェフ
ルビー:マグダレーナ・ジギレウスカ
サファイア:オイハネ・ヘレーロ
エメラルド:ダニエラ・ランゼッティ
アメジスト:ミリアム・カセロヴァ
長靴を履いた猫:アルマン・ザジャン
白い猫:カタジナ・コジィルスカ
青い鳥:ウィリアム・ムーア
王女:ローラ・オマリー
赤ずきん:クリスティーナ・バーネル
狼:ミハイル・ソロヴィエフ

協力:東京バレエ学校、東京バレエ団


感想

2002, 2005年とクランコもので来日公演をおこなったシュツットガルト・バレエがマリシア・ハイデ版の「眠れる森の美女」を上演するというので楽しみにしていた公演。ホントは3回全て見たかったところだけど、他との兼ね合いで残念ながら1日だけ。でも幸運にも一番興味深かったラドメイカーの王子とバランキエヴィッチのカラボスという組み合わせの日を見られた事は幸運でした。

私の楽しみの1つにシュツットガルトの音楽監督であるジェームス・タグルさんの指揮があるのですが、この日は残念ながらタグルさんではなくウォルフガング・ハインツさん。でも、大きく豊かな指揮で美しい演奏をオケから引き出していたと思います。「眠り」はオケが美しく鳴ってくれないと話にならないので、その意味で非常に好感度高し。


プロダクション

ハイデの演出は、シュツットガルト・バレエの持ち味であるドラマティックさを、プティパの振付に持ち込んだもの。もちろん一番特徴的なのはハイデが命を吹き込んだキャラクターであるカラボス。このキャラクターが出来た時にハイデは自分のプロダクションの成功を確信したんじゃないだろうか、という位、絶対悪なのに目を離せない見事なキャラ。初演はリチャード・クラガンだったそうで、90年の日本公演でも彼が踊ったとの事ですが、そりゃあ是非見てみたかったですねー。あのクラガンがカラボスメイクに衣装をつけて踊りまくるところ。パンフにも小さな写真があるのですが、これじゃわかんなーい。

群舞勝負は避けてソリスト大量投入で見応えをつくったのもカンパニーに合った演出ですよね。4人の王子や3幕ディヴェルティスマンのキャラクターに個性をつける演出は他にもあるけれど、ハイデ版はその個々の役どころが徹底していて、おかげで「眠れる森の美女」というおとぎ話がとても立体的で生き生きして見える。男性ソリストが充実しているカンパニーなので、妖精のお付きや4人の王子も踊るし、4人の王子なんてカラボスに倒されなかったかわりに一緒に100年の眠りにつくことになって、目がさめたら自分より100歳も若い王子に姫をとられちゃっているんだものねー。しかも王や王妃たちも皆すすや埃だらけでぼんやりと起きてくるのが可笑しかった!


ユルゲン・ローゼの美術は幕ごとに変わる季節と色彩が印象的でした。コの字型のコリドーに囲まれた宮廷の中庭で、そのコリドー自体も1幕は薄いピンクの薔薇に彩られ、2幕は眠りについた茶色いツタで覆われ、3幕では結婚式の燭台で明るく輝くというように飾られます。

特にプロローグの幕開けは、舞台の遥か上の空間まで青空を描いた幕がかかっていて「空が広いなー」と印象づけられました。陽の高い青空はプロローグだけで、あとは薄く暮れ始めた空だったり夜だったり、と100年という時の流れだけでなく、季節や1日の中の時間の流れというものも意識した美術であり照明だったと思います。

プロローグは青空に呼応する宮廷の人々のブルーの濃淡の衣装に、妖精とエスコートたちのオーガニックカラーな衣装が映え、1幕は若草色にピンクの指し色という村人たちに黄色やブルー、グリーンの衣装を着た東西南北の王子たち、2幕の妖精たちは茶系の裾の長いワンピース、3幕のインドのサリーを思わせる色遣いや金刺繍のエキゾチックさに王子とオーロラの薔薇刺繍入りの衣装。各幕毎にテイストが変わって、まさにおとぎ話。ユルゲン・ローゼとしてはかなりユニークな方かも?

照明効果も非常にドラマティックで、100年の眠りにつく宮廷の人々をセピアに染め上げたり、カラボスの魔法の威力を照明とストップモーションで見せたりと、隅々まで凝っていましたね。やっぱりもう1度見たかったなぁ...

メインキャスト

オーロラ役のアンナ・オサチェンコは若々しくてかわいかった。回廊の1階部分の奥から出てくるので、姿が見えた途端に拍手って感じではないのだけど、中央に出てくると自然に拍手が起きる姫君で。私は今回王子とカラボスが目当てだったのでオーロラの事はあまり考えていなかったんですが、ルックス的に全く無理のないかわいいオーロラでした。技術的にはまだちょっと不安定な部分もありそうだけれど、最初のヴァリエーションなんて音楽によく合っていて目に心地よかった。ラドメイカーくんともよく合っていたし。

で、そのラドメイカーくんはキラキラっの王子さまでした。あれだけ正統派のthe 王子は最近あまり見られませんものねー。眼福なり。レンスキーだけでなく眠りの王子も見ておいて本当によかった、と思いました。まず踊りがよいのよね。ちゃんと王子の気品があるし、手脚のムーヴメントも綺麗。音楽性もあるし、今後が本当に楽しみだし、これからもなるべく多く彼を見る機会があるといいなぁと思います。

そして何と言ってもバランキエヴィッチのカラボス!絶対的な存在感で舞台に君臨し、そのダイナミックな踊りとストレートにこちらに届く感情が観客の視線をさらって離さない。私もカラボスの魔法にかかったように釘付けでした。その長身に黒いロングスカートをなびかせながらグイグイ踊る。あれだけ長い黒髪をなびかせて踊るのに、顔に張り付いたりって事がほとんどなかったようだった。その怒りの執念深さは女性的かもねーと思ったりもするけれど、ことさら女性的に見せる事もなく、かといって男性とも言い難い。中性というか、越性という感じ?各幕の終わりが必ずカラボス1人が幕の前に出てきて終わるのもおもしろかった。The カラボス・ショー。

脇キャスト

リラの精役のミリアム・サイモンは中では一際目を惹くラインの美しさ。たおやかで毅然として、とてもクラシカルなダンサーだと思いました。プティパ版のリラの精であれば場を包み込みような母性的な暖かみが欲しいと思ったかもしれませんが、ハイデ版ですからそういう事も気にならず。

序幕の他の妖精たちの踊りは基本的にプティパ版をなぞったものが多かったと思うけれど、シュツットガルトのダンサーたちは純クラシックで見ると動きに荒さを感じてしまう。クラシックの動きに納まりきらない個性があるせいかもしれないので、わざわざプティパ準拠じゃなくていいんじゃないかなーと思ったり。

1幕に出てくる4人の王子もそれぞれ個性があって面白い。踊りもけっこうあって、背の高い男性4人が舞台一杯に踊る様は圧巻。ローズ・アダージオの間もそれぞれが場所取りしながらオーロラのエスコートをするのが微笑ましい。前述の通り、カラボスに倒されなかったかわりに一緒に100年眠る事になってしまい、目覚めた時は埃だらけで、しかも姫は知らない王子と結婚する事になっている。えー、それもまた可哀想な、と思ったら、3幕の結婚式では賓客扱いで玉座の横に席が設けられていて。最後には宝石たちのエスコートで踊っていたので、終幕が余計に豪華になっていました。

3幕の結婚式の出席者は様々なおとぎ話からキャラクターが出てきて目に楽しい。ディヴェルティスマンでは宝石たちと一緒に踊ったアリ・ババ役のザイツェフが抜群の存在感。衣装もハーレムパンツなので踊りやすいでしょうけど、3幕のバレエ的な見せ場は彼が持っていったんじゃないでしょうか。それと、白い猫と長靴を履いた猫が最高でした。叩き合う手の音がパシパシ聞こえてくる(しかも長い!)し、白い猫は長靴を履いた猫の頭を音が響くほどにポカっ!と叩くし、会場にも笑いがおきてました。しかも最後には「あっちでね」と目で誘う白い猫に喉を鳴らして飛んでいく長靴を履いた猫!と、本当に最高でした。カタジナ・コジィルスカは歌鳥の精よりずっとこちらの役がよかったわ!

あと3幕でちょっと気になったのは宝石の精たちや赤ずきんのヘアスタイルというか、前髪をウェーブさせて前に垂らす、昔のハリウッド女優みたいなスタイル?あれはちょっと不思議な感じでした。


カンパニーのソリスト総動員といった印象のこういう大作を上演してくれると、ダンサーの個性がわかって楽しくていいですよね。「ロミジュリ」や「オネーギン」はメインキャスト以外は印象が薄くなりがちだから...。ハイデ版の楽しさも堪能できて幸せでした。願わくばあと1,2回見たかった...。

まだ書き足りないきがするけれど、とりあえずこれでアップしてしまいます。思い出したら追記しますね。