2008年12月3日 東京文化会館 大ホール

クレジット

音楽:ルートヴィヒ・ミンクス/台本:マリウス・プティパ/振付:マリウス・プティパ,アレクサンドル・ゴールスキー/振付改訂:アレクセイ・ファジェーチェフ/ファジェーチェフの助手:ミハイル・ツィヴィン/美術:セルゲイ・バルヒン/衣裳復元:タチヤーナ・アルタモノワ,エレーナ・メルクーロワ/音楽監督:アレクサンドル・コプィロフ/照明:ミハイル・ソコロフ/美術助手:アリョーナ・ピカロワ
指揮:パーヴェル・クリニチェフ/管弦楽:ボリショイ劇場管弦楽団

キャスト

キトリ/ドゥルシネア:マリーヤ・アレクサンドロワ
バジル(床屋):ドミートリー・ベロゴロフツェフ
ドン・キホーテ(さすらいの騎士):アレクセイ・ロパレーヴィチ
サンチョ・パンサ(ドン・キホーテの剣持ち):アレクサンドル・ペトゥホーフ
ガマーシュ(金持ちの貴族):デニス・サーヴィン
フアニータ(キトリの友人):ヴィクトリア・オーシポワ
ピッキリア(キトリの友人):オリガ・ステブレツォーワ
エスパーダ(闘牛士):アンドレイ・メルクーリエフ
ルチア(街の踊り子):アナスタシア・メシコーワ
メルセデス(踊り子):マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ロレンソ(キトリの父):イーゴリ・シマチェフ
ロレンソの妻(キトリの母):アナスタシア・ヴィノクール
公爵:アレクサンドル・ファジェーチェフ
公爵夫人:エカテリーナ・バルィキナ
居酒屋の主人:イワン・プラーズニコフ
森の精の女王:アンナ・ニクーリナ
3人の森の精:ユーリヤ・グレベンシチコワ、ネッリ・コバヒーゼ、オリガ・マルチェンコワ
4人の森の精:アレーシャ・ボイコ、スヴェトラーナ・パヴロワ、チナラ・アリザデ、スヴェトラーナ・グネードワ
キューピッド:アナスタシア・スタシケーヴィチ
スペインの踊り:クリスチーナ・カラショーワ/アンナ・バルコワ、エカテリーナ・バルィキナ
ジプシーの踊り:アンナ・アントロポーワ
ボレロ:アンナ・バルコワ、エフゲーニー・ゴロヴィン
グラン・パの第1ヴァリエーション:エカテリーナ・クリサノワ
グラン・パの第2ヴァリエーション:チナラ・アリザデ


感想

ボリショイ・バレエ団来日公演の東京初日は、アレクサンドロワの会場隅々まで行き渡る輝くオーラに包まれて大成功!でした。

「ドン・キホーテ」という作品自体がもう「楽しさ」の代名詞みたいなものですが、ボリショイ・バレエのそれはやっぱり別格。どのキャラも立っていて舞台のいたるところで小芝居が絶えず繰り広げられ、キャラクターダンスは充実しているし、主役はとびっきりだし!で、とても楽しかったです。ボリショイの「ドンキ」を見てるんだー、幸せーと思ったら泣きそうでした。


主演の2人

なんといってもアレクサンドロワのキトリ/ドゥルシネアが素晴らしすぎる。可愛くって粋で気っぷも良くて茶目っ気があって、絶えず観客ともパートナーとも舞台の他のダンサーたちともコンタクトをとりながら踊ってくれる。この観客と会話しながら踊れるダンサーの中で、気力体力、芸術面など全てのバランスがよく観客に愛されている人の筆頭にいるのが今のアレクサンドロワではないでしょうか。

もちろん踊りの質はピカ一。キトリとしての成功はもう見る前からじゅうぶん分かっていたけれど、ドゥルシネアの姫っぷりも見事で、本当に文句の付けようのない、手放しで絶賛したい舞台だった。彼女の指先や脚が奏でる音楽性にも魅了されて、もう「姐さん!ずっとついて行きますぜっ」と契りをかわしたくなりました。(うう、でも「白鳥」は見られないんだよぅ〜)

3幕のグラン・パ・ド・ドゥのフェッテは全てシングルでしたが、こんな早いの聞いた事ないってくらい早いテンポの曲から全くズレずにビュンビュン回りまくって32回。ブラボーでした。


バジル役のベロゴロフツェフは2004年のニーナ・ガラで見て以来で、私としては初の全幕。確か彼は大けがをした後で、まだその影響があるのかなーという感じはしました(詳しい事は把握していないのですけれど)。あまり縁のなかったダンサーという印象があったので、今回日本公演に参加してくれると分かった時はとても嬉しかったし、代役の代役とはいえバジルが見られると分かった時には「どうかこのままキャスト変更なく当日を迎えられますように」と祈ったものでした。

出てきた時のベロゴロが意外にも若くてドキっとしちゃった(笑)。まぁモテモテ野郎でもなくキトリ大好き路線とも言えないバジルではあったのですが、気のよい大らか青年!って佇まいが好印象で。踊りはね、本人の踊りはやっぱりちょっと重たい感じで大事に踊っているんだな、と。アレクサンドロワのキトリに対抗するバジルとしては物足りなさを感じた人も多いかもしれません。でもサポートはとっても安定していて、それがよけいに大らかで頼もしい青年に見せていたんじゃないかな。あの大きい手にグッと来るのは私だけ?

居酒屋の場面で脇のテーブルにいる時の2人の芝居はかなりあっさり目であまりいちゃついてはいなかったな。ベロゴロが自分たちとキトリの友人たちのビアマグ4つを縦に積み重ねて「いぇい!」とかやってました(笑)。

3幕のグラン・パ・ド・ドゥは相当キツそうでしたけど、私としては踊ってくれてありがとう〜、という気持ち。


他のキャスト

そしてメルクーリエフのえらく気合いの入ったエスパーダにも目を奪われまくり。彼のエスパーダはとても評判がよいらしいと聞いて楽しみにしていましたが、ちょっと笑ってしまいそうになる位気合いが入ってて、凄かった!闘牛士軍団を率いてブロンドをなびかせるメルクリ、爽やかかつかっこ良かったですー。まぁルチアだメルセデスだとっかえひっかえ色目を使うにはプリンス入ってるのがご愛嬌ですが、彼のムレタだけがボロボロのヨレヨレになっていて、どれだけ練習してるんだ!と思ったら、うっかり惚れそうになりましたよ。


とにかくキャラクテールの充実ぶりは尋常じゃなく、プログラムの写真は美青年なデニス・サーヴィンのガマーシュは動くたびに膝がカクカクしてるし、立ち止まると思えば腰から下げた手鏡で自分の顔をチェックしてるし。(後ろの席の方がガマーシュがそうする度に笑ってた)もう小芝居方面とかはどれだけ書いても足りないくらいです。それに1幕でドン・キホーテの剣にえびぞるキトリのお父さんとお母さんの背中!凄かったですよねー。


ルチア役のメシコーワもよかったし、2幕居酒屋でのメルセデス役のイスプラトフスカヤ、ギター(スペイン)の踊りのカラショーワ、それにメルクリ@エスパーダの人間模様にワクワクし(笑)、ジプシーのアントロポーワのドラマに酔いしれ...いやー、ホントに素晴らしかったです。

このメルセデス役のイスプラトフスカヤ、エスパーダが掛けてくれたムレタを巻いて登場したのだけど、エスパーダがカラショーワ@スペインに色目を使っているのを見て、ムっとしてそのムレタをその場に捨てて去っちゃうのね。そのムレタが舞台中央の前方にしばらくあったもので、居酒屋に入ってきて踊り始めたベロゴロ@バジルの視線が「何?コレ??」とムレタを見つめるのがまるで漫画のようにテンテンテンと矢印になって見えるようでした。結局居酒屋の人がムレタを回収して行ったんだけど、あれは一体どーゆーことなのかしら。

夢の場ではキューピッドのスタシケーヴィチが可愛い上に色香があって独特な存在感。まるで女王のようなアレクサンドロワのドゥルシネアと一緒に踊った森の精の女王ニクーリナはまだ若手さん?伸びやかでよかったけど、マーシャと一緒だとチト不利か?組み合わせ的にはとてもユニークだったと思います。他の森のせいたちでは、やっぱりコバヒーゼが目立っていたと思います。

3幕のヴァリでは第1ヴァリのクリサノワがのびのびと踊っていました。とても安定していて「白鳥」が楽しみだなー、と。第2ヴァリのアリザデももっと見てみたいなーと思いました。人材豊富なボリショイならではか、キトリの友人たちを踊ったヴィクトリア・オーシポワとオリガ・ステブレツォーワではなく別のダンサーが踊るのも贅沢。


演出とか

ボリショイのこの版はアレクセイ・ファジェーチェフ版という事なので、振付なんかは新国と同じものもたくさんありました。キトリのお母さんが出てくるのもファジェーチェフ版の特徴かも。美術担当は新国とは別の人なので、それでかなり雰囲気は変わる感じがしますね。

2幕の順序としては、居酒屋→ジプシーの野営地(キトリとバジルは出てこない)→夢の場で、最後に公爵夫妻が通りかかって城に招待してくれて、そこでキトリとバジルの結婚式も行われるという演出。狂言自殺は事前にキトリと打ち合わせるパターンでした。


そうそう、これは演出ではないのですが、オケがめちゃくちゃマクっていて驚きました。パーヴェル・クリニチェフさん、出てきて観客に挨拶して振り返ったと思った瞬間に指揮棒おろしてましたから。でまたそのテンポが激早!「みんな今夜見たいテレビ番組でもあるんだろうか」と思っちゃいました。

で、激早な前奏や間奏は雑な印象もけっこうあったのですが、さすがに踊るところはそこまでは早くなく(それでもたぶん他のカンパニーのドンキよりはじゅうぶん早め)音がよく鳴ってたし、あのハープの美しさ(マーシャがベロゴロからもらった花束を投げ入れていました)や金管の厚みはサスガに頼もしかったです。ダンサーたちはその早い音に乗り切って踊っていたし、しかもみんなほとんど靴音がしない!ボリショイの凄さを見せつけられた公演でした。

やっぱりボリショイの「ドンキ」は楽しい!