2008年12月7日ソワレ 東京文化会館 大ホール

クレジット

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/台本・改訂振付・制作:ユーリー・グリゴローヴィチ/原振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、アレクサンドル・ゴールスキー/美術:シモン・ヴィルサラーゼ/音楽監督・共同制作:パーヴェル・ソローキン/照明:ミハイル・ソコロフ
指揮:パーヴェル・クリニチェフ/管弦楽:ボリショイ劇場管弦楽団

キャスト

オデット/オディール:スヴェトラーナ・ザハーロワ
王妃(王子の母):マリーヤ・イスプラトフスカヤ
ジークフリート王子:アンドレイ・ウヴァーロフ
ロットバルト:ドミートリー・ベロゴロフツェフ
王子の家庭教師:アレクセイ・ロパレーヴィチ
道化:岩田守弘
王子の友人たち:アンナ・ニクーリナ、アナスタシア・ゴリャチェーワ
儀典長:アレクサンドル・ファジェーチェフ
ハンガリーの王女:ネッリ・コバヒーゼ
ロシアの王女:オリガ・ステブレツォーワ
スペインの王女:アナスタシア・メシコーワ
ナポリの王女:アナスタシア・ゴリャチェーワ
ポーランドの王女:エカテリーナ・シプーリナ
3羽の白鳥:ネッリ・コバヒーゼ、ユーリヤ・グレベンシチコワ、オリガ・マルチェンコワ
4羽の白鳥:チナラ・アリザデ、スヴェトラーナ・グネードワ、スヴェトラーナ・パヴロワ、アナスタシア・スタシケーヴィチ
ワルツ:オリガ・ステブレツォーワ、アナスタシア・シーロワ、アレーシヤ・ボイコ、アンナ・オークネワ、カリム・アブドゥーリン、デニス・サーヴィン、ウラジスラフ・ラントラートフ、エゴール・フロムーシン


感想

演出と美術などについては、12月6日マチネ公演の感想にまとめて記載しています。
「白鳥の湖」ボリショイ・バレエ(2008/12/06M)


ザハロワとウヴァーロフの組み合わせは新国立劇場バレエのゲストとして観る機会が多いですが、今回は本拠地ボリショイ・バレエでの公演という事でグリゴロ版を踊る2人が観られるのがとても楽しみでした。そして、ロットバルトにベロゴロフツェフが配されているのも期待が大きくなる理由の1つ。

とはいえ、マチネとソワレ、この3人以外の発表されたキャストは全て同じだったのは少し残念。限られた人数での異国での1ヶ月近いツアー、仕方のない事かもしれませんが、ボリショイほど層の厚いカンパニーならソリスト/コール・ドに至るまでダンサーを見る楽しみがあるのに...。しかし一番大変なのは出演しているダンサーたちですよね。お疲れさまでした。

ソワレの席は1階 下手側サブセンターのA席寄り。日本でも人気のザハロワとウヴァーロフ主演という事でビッシリ埋まってました。そのせいかオケの音がマチネと同じオケとは思えないほどツヤツヤ。(って帰りに客席でゲルギエフを見かけて、そのせいか!と思ったりもしたのですが、ロシア系のスポンサーさんもついていたそう。いずれにしても渾身の、という感じの舞台でした)


1幕が始まってすぐ、ウヴァーロフが出てくるとやはりデカい!ウヴァーロフの無邪気な笑顔に反応する何かが私にはあるらしく(笑)、いやーん可愛い...となってしまいます。グダーノフは「私がしっかりしなくては」と使命を背負った王子で、ウヴァーロフは若者らしい華やいだ気持ちを持った王子、、だったのかな。

グダーノフを2度続けてみたせいか、ウヴァーロフの王子は(その無邪気な笑顔っ!)最初少しだけ浮ついて見えてしまいました。でもウヴァーロフの王子こそが今 目の前で物語を紡いでいるのですから、違和感は消えていきます。プログラムに掲載されたウヴァーロフの言葉によれば、『オデットは少年が青春時代に抱く清らかで高潔な女性の象徴で、オディールは少年が狡猾さや誘惑と闘い、青年として自立していく時に味わう失望の象徴』だそうですから、ウヴァーロフ王子が少年として私たちの目の前に登場する事に何の不思議もない訳ですものね。

そして、デカいウヴァーロフはトロワの女性たちのサポートもヒョイって感じで軽々こなしていました。大きな手でさっと腰を支えたり、高いところから女性陣に手を差し出してあげたり。女性陣も踊りやすそうでした。もちろんウヴァーロフだってその域に達するまでは大変な努力をしたに違いないのだけど、まるで上流階級の人のテーブルマナーのように自然で無造作に見えましたよ。

ここでまたグダーノフと比べるのはよくないとは思うのですが、見ている時にも実際グダーノフの事を思い出してしまったのでお許しを。決して背が低い訳ではないけど高い方でもないグダーノフは、いったいどれだけの努力を重ねたのだろうか、と思わずにはいられなかったのです。あるべきところに手脚がある美しい踊りの形や、女性をサポートしながらもう片方の手や足をピンと伸ばして美しいポーズを取ったりするその姿。隅々まで意識が届いていると感じさせるのは、ある意味(無造作なくらい自然に王子をやっている)ウヴァーロフとは対極にあるのかもしれないな、と。

もちろんそれはウヴァーロフとグダーノフどちらが好きとか良いとかって事じゃなく、彼らの個性を形成する何かに思いを馳せただけの事、なんですけどね。私は2人ともとても好きです。

そんなデカい(何度も書いてスマンねー)ウヴァーロフが真ん中に立って踊る乾杯の踊りの高揚感!私はその瞬間本当に幸せでした。ウヴァーロフほどこの位置が似合う人はいないんじゃないでしょうか。私がこの国の国民だったら、王子を誇りに思って忠誠を尽くしますよ、絶対。

そんな晴れがましい感じのウヴァーロフ王子が急に憂いを帯びちゃうのは唐突な感じもするのですが、後から出てくるザハロワを見てなんとなく納得したのが、この2人はセルゲイエフ版のキャラクターのエッセンスを持ち込んでいるのかな、という事。少なくとも私が先に見た2回とは趣の異なる舞台でした。


1人になったジークフリートの背後に登場するロットバルト、ベロゴロフツェフはえらい迫力でした。存在感が圧倒的で、やっぱりプリンシパルロールだよね、と。バラーノフのロットバルトはグダーノフととてもよい組み合わせだったので、そこにベロゴロが入ったら浮いたと思う。でも、ウヴァーロフ王子に対するロットバルトは大柄なプリンシパルしか有り得ない。

2人が同じ振付で踊ると、舞台に大きな磁場が生まれるかのよう。それがまるで王子を飲み込む運命の渦のようでした。ベロゴロフツェフから発される悪の波動が凄すぎて、逃れる事など不可能に思える。見ているこちらすら、息が出来なくなりそうでした。シンクロ度でいったらグダーノフ/バラーノフ組の方が上で、そちらは王子はロットバルトに操られ、意識しないうちに陥れられちゃってる感じ。ウヴァーロフ/ベロゴロフツェフの場合は、王子(とオデット/オディール)の意思に関係なく大きな嵐に飲み込まれるというか。だから2人のラストシーンの嘆きも自ずと違ってくるのかな、なんて思ってしまうほどでした。組み合わせによって見方がガラっとかわったので、マチソワでも違う演目を見ているようでした。


さて、そんな吸引力の強いベロゴロ@ロットバルトがウヴァーロフ王子に見せた究極の美がザハロワ。その夜のザハロワの輝きは新国で見る彼女の比ではありませんでした。白鳥の羽の水のしずくまでが光って見えそうなほど。もちろん受け手である私の心理状態も多分に影響していると思いますが、1つ1つのポーズの美しい事と言ったら言葉もないほどで、彼女自身が気合いを入れて踊っているのも伝わってきました。白鳥はそれがとてもいい感じに出ていたと思います。

アントニーチェワとクリサノワとは違い、ザハロワは王子に対して「この白鳥たちを傷つけないで下さい」というセルゲイエフ版にあるマイムを入れていました。王子はボウガンを持っていないので不思議な感じもしますけど、ザハロワはいかにも白鳥の女王の風格があるので、このマイムによって他の白鳥たちを守る立場が似合うとは感じました。

2幕1場にオディールとしてベロゴロフツェフと登場した時は一際艶やかで、オディール軍団と一緒に踊っていても輝きが全然違います。獲物を狙う猛禽類の鋭さがあって、見ているこちらが「ああもう絶対ウヴァ王子なんてイチコロだわ、逃げられる訳がないわ」と観念しちゃう。このオディール軍団と一緒に踊るザハロワの姿は強く印象に残っています。

グリゴロ版のヴァリエーションも安定して踊っていました。ただ、ノリノリになっちゃったのか32回転のフェッテが彼女にしては乱暴で。全部シングルで崩れた訳でもないのだけど、勢いに任せちゃったところが惜しいというか。コーダはそのまま突っ走ってしまったように思えて、私はちょっと残念!と思ってしまいました。盛り上がったのは確かなので、こういう高揚感が好みの人はすごく楽しかっただろうと思います。私はきっと...グリゴロ版に対して固定観念が出来ちゃっていたのかも。

しかしドラマティックな舞台だった事は間違いなし。おかげで2幕2場の悲劇が引き立ちました。美しいオデットを事も無げに殺める残忍なロットバルト、はかない美として記憶に残るオデット、そして美しく愛しい人を亡くし自らの過ちを悔いて慟哭する王子...。このウヴァーロフの慟哭は、ストレートに私の胸を揺さぶり、涙腺を刺激しました。いつの間にか、大きなドラマの渦に私も巻き込まれていたんですね。


ということで、メインキャスト3人についてざっと思い出す限りを書いてみました。ボリショイの公演は結局この日が私にとっては最後だったのですが、今でも思い出すのは指揮者のクリニチェフさん。オケピに足を踏み入れた、と思ったら小走りで指揮台まであっという間に到着して、もうこちらを向いて拍手に応えていたのには笑いました。そして、振り返ったと思ったらもう音楽が始まっていた事には仰け反りましたけどー。