2009年1月10日 東京文化会館 大ホール

クレジット

原振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・I. チャイコフスキー/オリジナル台本:マリウス・プティパ、イワン・フセヴォロジスキー、シャルル・ペロー
振付:ウラジーミル・マラーホフ/舞台美術・衣装:ワレリー・クングロフ
指揮:デヴィッド・ガーフォース/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

キャスト

オーロラ姫:ディアナ・ヴィシニョーワ
デジレ王子:ウラジーミル・マラーホフ
リラの精:上野水香
カラボス:高岸直樹
フロレスタン国王:永田雄大
王妃:坂井直子
カタラビュット/式典長:野辺誠治

【プロローグ】
妖精キャンディード(純真の精):矢島まい
妖精クーラント<小麦粉>(活力の精):乾友子
パンくずの精(寛大の精):高木綾
カナリアの精(雄弁の精):佐伯知香
妖精ビオラント(熱情の精):田中結子
妖精のお付きの騎士:松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜、横内国弘、梅澤紘貴、柄本弾

【第1幕】
オーロラの友人:西村真由美、奈良春夏、吉川留衣、渡辺理恵、森志織、福田ゆかり、村上美香、阪井麻美
4人の王子:木村和夫、中島周、平野玲、柄本武尊

【第3幕】
ルビー:西村真由美
エメラルド:阪井麻美
サファイア:岸本夏未
ダイヤモンド:奈良春夏

シンデレラとフォーチュン王子:井脇幸江/木村和夫
フロリナ姫と青い鳥:吉川留衣/中島周
牡猫と子猫:河合眞里/平野玲
赤ずきん:森志織


感想

マラーホフとヴィシニョーワはほぼ1年ぶり、東京バレエ団もマラーホフ・ガラやルグリ・ガラでは見ていたけどバレエ団公演や全幕ものとしてはかなり久しぶりの鑑賞。祭典席のない東京バレエ団公演なので、席は1階の後方ブロック。全体が見渡せてダンサーの表情もある程度見えたのでよかったです。


初見だったマラーホフ版「眠れる森の美女」のプロダクションについての全体的な印象は、コンパクトなカンパニーのためのコンパクトな全幕というもの。だからといってもの足りないという事ではなく、マラーホフが自分の解釈を加えてつくった「眠り」の絵本を楽しませてもらった感じ、、かな。

休憩を1度しか入れないスピーディな演出で、私が一番親しんでいるセルゲイエフ版と比較すると、1幕の禁制の針を持った村娘とカタラビュットのやりとりと、それに続く王の苦悩と王妃のいたわり...の部分はカット。マラーホフ版では「バラのとげにさされて」オーロラは死ぬという呪いだから、編み針関係ありませんものね。また、2幕の王子と伯爵夫人一行の狩りの場面もカット。

初演の時の公演写真はたっぷり見たのでマラーホフ版独特の色遣いに対する驚きはなかったです。装置や衣装、その色遣いは嫌いありませんが、立ち役の貴族たちや王/王妃の衣装は、私にはちょっと。あのちょうちん袖みたいなスカートは立っているだけなら可愛いと思えるけど、動いたときに奇麗じゃないような気がする...。特に王妃にはトレーンをひいて歩いてほしいと思うのは固定観念にとらわれ過ぎなのでしょーか。前方席で見ていたら、衣装やカツラの似合う似合わないなんかも気になったかもしれませんが、まぁ私は新国でもその辺はスルーできる人なので(笑)。

衣装がフリル!リボン!レイヤー!と装飾的なのに比べると、装置は簡素でしたよね。設定がバラ園という事なので、バラ以外に登場しようはないのだけど(笑)。色遣いや衣装の装飾性を考えれば、装置や背景まで同じようにしたら大変な事になるのかもしれませんが(笑)、全幕もので背景がずっとホリゾントというのはちょっと淋しいような気も。そのホリゾントでよいなと思ったのは3幕の宝石たちの踊り。その時舞台で踊っている宝石の色がホリゾントに(ガラで「ジュエルズ」やるときに背景に映し出されるような)模様がほわっと浮かび上がっているのは好きでした。


以下印象に残ったところを幕順に列挙。抜けもありますし、読む人に優しい文章ではありませんが、まず書き上げる事が大事だと自分に言い聞かせて(そうしないと、いつまで経ってもアップできないので...)。

序幕

妖精たちの中で問答無用にタイプなのは佐伯知香さん。高木さんのたおやかな雰囲気も好き。でも目がどうしても行ってしまうのは田中結子さんでした。踊るのが楽しくて仕方ないのが伝わってくるし、旬の輝きがあるのでは。

あの床はずいぶん踊りにくそうで他の妖精さんたちは苦労しているようでしたが、田中さんは超越してたかも。彼女の踊りがあまりに素敵なのでリラの精の水香さんも燃えた?ちょっと負けん気を出して「妖精のボスは私よ!」ってなっているところがあったような。

その上野水香さんも生で見るのは久しぶり(東バが久しぶりなのだから当然ですが)。上のように気合いスイッチを入れずとも十分に素敵なのだから、その瞬間はちょっともったいないような気がしました。それ以外はとても丁寧に踊っていて、好感度アップ。(今更でしょうけど)入団当時の癖が抜けましたね。華やかさと親しみやすさが同居した存在感がこのバージョンのリラに合っていると思いました。あの大きなチュチュが似合うのも長身の彼女ならではですよね。

妖精のお付きの騎士たちは、全員が判別できた訳ではないのですが、たぶん私がつい目で追っていたのは長瀬直義さんだと思います。独自の色っぽさがあるよね?で、このお付きの騎士さんたちはだいぶ充実してるなーという印象。これくらいの位置のコたちの粒が揃っているのは東バの魅力ですよね。


怒りに燃えたカラボスは高岸直樹さん。私の中では男気の固まりという印象だった彼がいったいどんなカラボスとして登場するのか興味津々でした。意外にもというか、あの衣装とメイクがよくお似合い。背が高く動作がでかいので迫力満点でした。ガッと手を振り上げる動作とか流石ですよね。それがリラの精にビシっと制されると途端にヘタレて「ひぇ〜」となっちゃう。私にはその「ひぇ〜」が大阪のオバチャンの台詞で聞こえました(笑)。

ヘタレている時だけはオバチャンで、それ以外の時は性別も善悪も関係なく「大将」。リラの精のいないときを見計らって悪事を働こうとするのは陰湿だったり姑息な印象を与えるハズだし、覚えてろ〜なんてのも執念深さの現れのように思うのに、高岸さんからはそういったものが全く感じられない。お人柄でしょうねー。かといってカラボスらしくないかと言えばカラボスそのものだったし、非常にユニークな存在でした。


序幕と1幕の間はバラとツタが描かれた紗幕がおりて「パノラマ」の音楽が演奏されました。その前にカラボスとリラの精が順に登場。リラの精は子供時代のオーロラと一緒で、リラの精が目を離した隙にカラボスがオーロラ姫にバラを差し出そうとするのを、リラの精が見とがめてオーロラと一緒に退場。


第1幕

4人の王子の衣装もちょっと微妙?以前のバージョンほど濃い演技が見られないのは少し残念なような気が。木村/中島/平野という鉄板に新国にいた柄本さんが入っていて、あのまま新国にいてもこの4人の王子のポジションにはまだ到着できなかったかも、と思うと感慨深いものも...。

ヴィシニョーワのオーロラを全幕で見るのは初めて。3幕のグラン・パ・ド・ドゥや1幕は他のガラで見ているので、全幕で見たような気になっていましたよ。ヴィシニョーワのオーロラはなんといっても1幕が絶品で、あの無邪気な笑顔に癒されます。マラーホフ版では王が「おまえはあの中の1人と結婚するのだよ」とオーロラに伝えて「私がこの中のお一人と?」とドキドキする場面があるのですが、この時のヴィシニョーワも可愛い。もちろんローズアダージオを含めて踊りの質は極上ですから、見ていて幸せでした。

妖精たちのデコラティブな衣装に比べるとオーロラのチュチュはとてもシンプル。むき出しの肩が新鮮で「夏ですか?」と思ってしまうくらい。ヴィシニョーワといえば肩がしっかりして腕も長いダンサーでもありますが、意外にこの衣装では気にならなかったです。私の席の関係もあるのかもしれませんが、そのむき出しの肩と腕が新鮮で、いかにも無垢な存在という感じがしました。

カラボスに手渡されたバラのブーケのとげで呪いにかかってしまったオーロラは、そのあと登場したリラの精の指示で4人の王子によってベッドに寝かされ、妖精たちの厚い庇護のもと100年の眠りにつく...

第2幕

狩りの場面はなし。リラ以外の妖精たちがいて、カナリアの精の佐伯さんが中心に「オーロラ姫を目覚めさせる王子がくるわよ」というようなマイム。そして登場したマラーホフはさすがにあのパープル系の衣装がよくお似合いでした。目に見えぬ妖精たちの気配は感じるけれど「見えない」という演技もお手の物ですよね。あー、マラーホフの全幕を見ているのだわ...とジワジワ幸せに包まれました。

最初のソロを見て、あーマラーホフしっかり復活してる、と嬉しくもなりました。柔らかくて美しい、着地音のしない踊り。

リラの精が登場して王子に見せた幻影。ヴィシニョーワのオーロラ姫は幻影の中の絶対美として完璧でした。片手をアンオー、片手をアンバーにしてポーズを取っているだけで神々しい。リラの精が親しみやすい上野さんだったので、よけいに「妖精」と「妖精が見せる幻影」という対比が鮮やかだった気がします。

愛しさに身悶えするマラーホフのかわいらしいこと〜。その美しさを確かめたくて何度も振り返るのだけど、その度にリラにお預けをくらうところなんてマラーホフにしか似合わないんじゃないだろうか。

リラの精が王子をオーロラの元へ導くと、カラボスと手下に阻まれはするけれど、「僕が彼女にキスをすればいいんだ」と王子が気づいた時点でカラボスと手下は破れ去ってケージもあがっていく。王子のキスで目覚めたオーロラの時は、また可愛らしい。私、こんなにヴィシニョーワの事好きだたっけ?という位に彼女に癒されてました。


第3幕

2幕から3幕は暗転/紗幕などによる切り替えはなく、そのまま目覚めたオーロラと王子が王/王妃に結婚を許されたところから進んでいきました。2幕の衣装のまま招待客である青い鳥ペアやシンデレラペアなどを出迎えて、それからお着替えに退場する主役の2人。ここの赤ずきんちゃんはオオカミの毛皮を襟巻きにして登場するんですねー。ブラックで笑ったわ。

宝石たちの踊りは奈良さんのダイヤモンドがよかったです。西村さんはルビーだったのだけど、彼女もダイヤモンドの方が似合いそう。ルビーは少し窮屈そうでした。

木村さんのフォーチュン王子はさわやかな風のよう。衣装の袖の内側から見える紫色がアクセントになってて素敵でした。井脇さんの乙女なシンデレラもかわいかった。中島さんの青い鳥も素敵でしたが、彼にしては少し不調のようでもあり。吉川さん可愛い。猫ペアは河合さんのしなやかさと平野さんの達者な演技を楽しみました。

ヴィシニョーワとマラーホフのグラン・パ・ド・ドゥは結婚式の幸福感より王族としての風格が勝った感じのある、厳かなものでした。おとぎ話のクライマックスとしてはもう少しキラキラしててもいいと思うけれど、有無を言わせない位圧倒的なパ・ド・ドゥだったので、これはこれで堪能。

アポテオーズの最後にはカラボスが出てきて、空気を切り裂くようにガっと手をあげて、物語の中の人たちの動きと音楽を止めてしまう。その無音の中でしてやったりと笑う高岸カラボスは怖い...。でもそこに笑顔のリラの精が出てきて、カラボスが止めた世界をまた元通りに戻すのね。カラボスはこれからもオーロラの世界を付け狙うかもしれないけれど、リラの精がいるからきっと大丈夫...


ということで、たっぷり楽しませていただきました。
オーロラを踊っているのがマリインスキーのヴィシニョーワという事もあり、ついセルゲイエフ版を思い浮かべてしまった事も何度かありましたが、マラーホフ版も、これはこれで好き。東京バレエ団の前のバージョンも井脇さんのカラボスとか過剰な4人の王子とか好きだったので、そちらも見たいと思ったりしますけれど、東京バレエ団としては演じやすいレパートリーになっているのではないでしょうか。見る方も休憩1回と思うと気楽ではありますよね。