2009年2月18日 神奈川県民ホール

クレジット

演出・振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン/舞台美術・衣装:ユルゲン・ローゼ
音楽:テープ使用

キャスト

マルグリット・ゴーチエ:ジョエル・ブーローニュ
アルマン・デュヴァール:アレクサンドル・リアブコ
老紳士デュヴァール:カーステン・ユング
ナニーナ:ミヤナ・フラチャリッチ
公爵:ヨロスラフ・イヴァネンコ
プリュダンス:レスリー・ヘイルマン
N伯爵:ヨハン・ステグリ

マノン・レスコー:エレーヌ・ブシェ
デ・グリュ:チャゴ・ボアディン
マノンの崇拝者たち:ピーター・ディングル、ステファノ・パルミジアーノ、キラン・ウェスト

オリンピア:カロリーナ・アギュエロ
ガストン:アルセン・メグラビアン

ピアニスト:リチャード・ヘインズ


感想

「椿姫」を生の舞台で見たのはこれが初めてでした。テープ演奏というのはとても残念でしたが、それでもなお!奇跡のように素晴らしい舞台。「人魚姫」の後に見たせいか「ノイマイヤーったら、振付が若いわ〜」と思いましたが、それはもちろん未熟などという意味ではなくて、素直という意味合いに近いかもしれません。この名作に対して何を偉そーにと言われてしまいそうです。

ジョエル・ブーローニュとアレクサンドル・リアブコのパートナーシップの比類なき素晴らしさ。これをパートナーシップと言うなら、今までみたダンサーたちのそれは全部別のものじゃないかという位、2人は自らを捧げて振付と役柄の感情とを同化させていました。役を生きるって正にこの事なのね、と見せつけられた思いです。たぶん今まで何十回(それ以上?)と踊っているであろう2人ですから、もう振付とかってレベルじゃなく、それこそ髪をなびかせる様子やスカートをそっと払いのける仕草までが自然で当たり前で...あんなに美しく流れるようなパ・ド・ドゥは初めて見たかもしれません。それくらい強く印象に残っています。

リアブコの踊りの美しさと身体能力の高さ、それに役になりきる集中力の凄まじさは判っているつもりでしたが、その予想を遥かに超えるすごさでした。演技力もそうですが何より踊りが美しい。たぶん今が一番脂ののった時期なのかもしれませんね。そういう時期に彼のアルマンを全幕で見られた事は何より幸せに思います。本当に1つ1つの動きが、アルマンの心を台詞を叫んでいるかのようなんですもの。1幕の最初のパ・ド・ドゥのあとで上手側の袖手前で「マノン」を読みながらマルグリットを待つ姿からも目が離せなくて、舞台中央で進行する物語を見られなくて困りましたー。

ブーローニュのマルグリットは落ち着いた佇まい。それゆえにリアブコの熱情が更に引き立ちます。面長な顔立ちのせいか薄幸そうにも見えて、だから3幕は涙ものでした。オリンピアとN伯爵との散歩中にアルマンに出会い、アルマンが復讐心からオリンピアと踊っている間、マルグリットはベンチに腰掛けてじっと一点を見つめていますよね。でも、ブーローニュのマルグリットは体中を目にしてアルマンを追っているのです。凄い、としか言いようがありません。ブーローニュも、この場面を生みだしたノイマイヤーも。


そして、マノン役のブシェも特筆すべき素晴らしさでした。まず彼女の美点であるラインの美しさ、特に脚の美しさがいかんなく発揮されておりましたよね。長身で堂々たる存在感があって踊りがよくて、しかも怖い(笑)。そして、短いシーンながらマノンの心が拝金主義から無垢な魂へと変わっていくのがよく判る。デ・グリュのボアディンはプロポーションに恵まれたダンサーだし踊りも素敵な人だけれど、この日はあまり印象に残らず。1幕の劇中劇のところでデ・グリュとアルマンがユニゾンで踊るところがありますよね。あそこはボアディンくんより小柄なリアブコの方が大きく見えるくらいでした。

マノンとデ・グリュは劇中劇で2回、マルグリットの見る幻として2回登場しますが、出てくるたびにメイクが違うのが細かいなー、と。劇中劇が白塗りで、幻の時は普通のメイクなんですよね。

「人魚姫」では王子役だったユングが老紳士デュヴァール役で、彼はこの役、今回が初役だったそうですが、そうとは思えない深い役作りでした。アルマンが思い出を語るかたちで進むこの作品で彼はある時点までずっと傍観者なんだけど、その間もずっと重いものを背負っているのがわかる。そして、マルグリットのところを訪問した日の事。最後にマルグリットの手にキスをして出ていくところが泣けます。

それにN伯爵のヨハン・ステグリ!なんていじらしくていい人なんでしょう。原作に出てくる伯爵は人物像さえロクに説明されない人だったと思いますが、この作品では髪を7:3にぴったりなで付け、不器用ながらもずっとずっとマルグリットのそばにいるんですよね。もうプログラムとボンボンを持ってあたふたと登場した時から釘付けでした。それに2幕の別荘地でのダンスの美しい事!何というか、残像の残るダンスなんですよねー。大好き。

ナニーナ役のミヤナ・フラチャリッチ(2幕のおどけて踊るところが可愛かった〜)、プリュダンスのレスリー・ヘイルマン、オリンピアのカロリーナ・アギュエロ、ガストン役のメグラビアン...そしてそれ以外のダンサーたちに至るまでみな役の解釈が深く、演技力もあるので、視線1つ指の動き1つに真実味がありました。特にプリュダンスのヘイルマンは見事だったなー。

こんなに素晴らしいバレエを、ノイマイヤーのカンパニーで最初に見られた事を幸せに思います。ああ、本当に至福の一夜でした。