2010年11月5日 ウィーン国立歌劇場

クレジット

指揮:Christoph Eberle
管弦楽:Orchester der Wiener Staatsoper
ピアノ:Igor Zapravdin(ルビーズ)

テーマとヴァリエーション Thema und Variationen

振付:George Balanchine
音楽:Peter Iljitsch Tschaikowski, Orchestersuite Nr.3 G-Dur op.55, 4. Satz
衣装:Christian Lacroix
指導:Nanette Glushak

Nina Polakova / Eno Peci

ハイドンの主題による変奏曲 Variationen Uber Ein Thema Von Haydn

振付:Twyla Tharp
音楽:Johannes Brahms
衣装:Santo Loquasto
照明:Jennifer Tipton
指導:Stacy Caddell

Liudmila Konovalova - Attila Bako / Marie-Claire D`Lyse - Shane A. Wuerthner / Maria Yakovleva - Roman Lazik / Maria Alati - Andras Lukacs / Irina Tsymbal - Mihail Sosnovschi

精密の不安定なスリル The Vertiginous Thrill of Exactitude

振付/演出/照明:William Forsythe
音楽:Franz Schubert
衣装:Stephen Galloway
指導:Andrea Tallis

Elisabeth Golibina / Franziska Wallner-Hollinek / Iliana Chivarova / Denys Cherevychko / Masayu Kimoto

ルビーズ Rubies

振付:George Balanchine
音楽:Igor Strawinski
衣装:Barbara Karinska
指導:Nanette Glushak

Maria Yakovleva / Ketevan Papava / Mihail Sosnovschi


感想

vienna

マニュエル・ルグリを芸術監督に迎えて最初のシーズン。かつ、スターツオーパーとフォルクスオーパーのバレエ団が正式に一緒になって初めてのシーズです。シーズン頭の「オネーギン」はウィーンのレパートリーだったハズなので、この「新世界の宝石」と題したミックスプロがルグリ監督のデビュープルミエという事になるでしょうか。

この時期ウィーンに旅する事になってバレエ上演プログラムを調べた時に、このミックスプロの内容を見て「これはまた意欲作だこと」と感じました。アメリカをテーマにした4作品。別の記事にも書いたけど、フォーサイスとサープが敢えてバランシンを意識してつくったバレエと、バランシン作品を並べるというのは面白い試みだと思うのです。でも、見る人を選ぶ。そして、踊る人も選ぶのではないかと。

2ヶ月前のチケット発売日にはキャストは未発表でしたが、プルミエの1ヶ月くらい前には前日のキャストがサイトで発表されていた記憶があります。この日のキャストを見て正直がっかりしたのは、オリガ・エシナが踊らない日だという事。「テーマとヴァリエーション」のファーストキャストはエシナとウラジーミル・シショフだったので、できればそちらで見たかったなぁ。エシナは今月初演の「マリー・アントワネット」で忙しいのかもしれませんが、とても残念。なお、「精密と不安定なスリル」と「ルビーズ」のソリストはファーストキャストでした。


「テーマとヴァリエーション」は今まで生では東バとABTでしか見た事がありません。で、実はあまりいい印象がない。この作品をしっかり綺麗にかつ魅力的に見せるのって、ものすごーく難しいんじゃないの、と思っています。実際ウィーンのこの演目を見た時は過去にどこで見たなんて事は考えていなかったんですけど、でもやっぱり難しい演目だとしみじみ感じていました。

プリンシパル役の男性、Eno Peciさんがズタボロだったんですよね…あまりの事に「これって育成公演?って思ってしまったんですが、さっきチェックしたら若手ではあるけれど十分すぎる位実績を積んだ方ではありませんか。出て来た時は綺麗なダンサーだなーって思ったんですよね。でも不調だったのか、音には遅れるし必死感がありありで。音楽が早かったのかなぁ、と思わなくもないのですが…指揮のChristoph Eberleさん、ノイマイヤーとの仕事も多いし、バレエの経験も少なくはないだろうし。

一緒に踊った女性プリンシパル役のNina Polakovaさんにはほとんど目がいかなくなっちゃって、彼女の踊りはほとんど覚えてないのですが…ラインの綺麗なダンサーでした。踊りも素直というか。存在感とかオーラが増せば、言うことなしかと。このニナさん、第31回のローザンヌ決勝にも進出されていたんですね。そうスティーヴン…マックレーとか福田圭吾さん、米沢唯さんの回。お名前で検索したら自分のサイトが出てそう書いてありました(笑)。つまり、まだお若いのよね。先が楽しみです。

アンサンブルもぴっしり揃っている感じではなくて。個々に見ればしっかり踊れてる人もいるんだけど、全体として見るとちょっと、という。初見のカンパニーだし、良かったダンサーのお顔も覚えられなくて名前までたどり着けないのが残念ですけれど。コール・ドに木本さんがいましたが、体格的には他の外国人ダンサーに全くひけをとりませんね。

で、劇場全体が「今の演目微妙?」と思ってしまったのか、観光客が多くて拍手の流れが途切れちゃったのかはわからないのですが、終了後は最初のレヴェランスだけで拍手がぱったり止まっちゃった。今さらカーテン前に出る訳にもいかないので、きっと大慌てで次のサープの準備に入ってるだろうなと思いました。この公演4つのミックスプロで、休憩は2演目終了後の1回だけなんです。少しだけ客電が明るくなって、オケピでは指揮者と演奏者たちが静かに待つあの時間の居心地の悪さ。びっくりしました。

オットもカーテンコールの写真撮ろうかなって思っていたのに、ほとんど時間がなかったのでシャッター押せず。


そして2つめの「ハイドンの主題による変奏曲」。これは初見です。初演はABTでしたよね。プログラムによれば、初演の時の5カップルはサンドラ・ブラウン - ホセ・カレーニョ/ジュリー・ケント - アンヘル・コレーラ/パロマ・ヘレーラ - マルセロ・ゴメス/アシュリー・タトル - エルマン・コルネホ/イリーナ・ドヴォロヴェンコ - マクシム・ベロツェルコフスキーだったとか。

バランシンを踏襲したようなクラシックの振付を用いつつ、ディテールは思いっきりサープ。バランシンの後に見るから、余計にそれがわかって面白かったなー。このプレゼンテーションはさすがルグリ監督、と思いました。

メインの5組のカップルと2組のコリフェ的な位置づけのペア、それと8組のコール・ド的なペアで踊られる作品で、3組目くらいに出て来たメインペアの男の子がすごく軽やかで回転にも切れがあって、そこで初めて踊りの区切りで拍手が起きたんです。常連の方がねじ込んだ!って感じにも聞こえたけど(笑)拍手が起きるのも納得の踊り。でも私はその次に踊ったペアが凄くよかったと思うんですよねー。とても音楽的なパ・ド・ドゥで際立っていました。ホントに素敵だったと思う。何で顔も覚えてないんだって自分でも思うんですけど、区別つかないんです。遠いからオペグラだし。上に書いたABTの初演カップルをしっかり頭に入れて見たら、どのパ・ド・ドゥが誰に用意されたかが透けてみえて、また違った見方ができたかも…と、帰国してじっくりプログラムを見ている時に気付きました。残念だー。

この作品にはコール・ドにReina Sawaiさん(漢字不明でごめんなさい)がいました。きびきびと踊っていて全体の中でもすっと目がいく感じ。

きっとね、なじみのカンパニーが踊っていたらもっと面白く見られると思います。だから、きっとウィーンのみなさんは楽しかったんじゃないかなー。ソリストたくさん出てきますしね。これはカーテンコールもしっかりたっぷりありまして、無事休憩に突入いたしました。

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後半の1つめは「精密の不安定なスリル」。この作品、私はルグリガラでパリオペのみなさんが踊ったのを見て以来です。シューベルトの曲も好きだし、ひねりのある衣装も好き。で、観客にもこれが一番受けていたようです。やっぱりひと味違いますものね。衣装には「おっ?」と思うだろうし、出て来るダンサーは5人だけでそれなりに見せ場も用意されているし、そう長い演目でもないし。

そして、ダンサー5人とも安定してました。フォーサイスかって言われると、もしかしたらまだ何か足りない物があるかもしれないけど、はつらつとしてて見てて楽しかったです。

木本さんは堂々たるものでしたよー。一緒に踊った男性のDenys Cherevychkoより身体が大きくて頭が小さい…と思ったけど、あれ?写真で見るとあまり変わりませんね。でもその時は、日本人もここまで、、、って驚きました。Denys Cherevychkoもよいダンサーで、もっとたっぷり見たかったなー。あとでプログラムの写真見たらかわいかったわ(笑)。木本さんとCherevychkoは踊りのタイプが違うので揃わなかったのは難点。木本さんはどうしても大きい分だけ踊りがゆったりしていてソレが長所でも個性でもあると思うんだけど、この作品は音に寄り添ってくれると更に気持ちよいと思うな。まぁ、それぞれにたくさん拍手をもらっていましたから、観客も楽しんだのでしょう。

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そして最後は「ルビーズ」。この日、ピアノをオケピに入れている為に、チューバとかパーカッションとかはオケピの出入り口付近がヘタすると廊下にいたんじゃないでしょうか。ピアノはIgor Zapravdin氏。オペラ座の専属ピアニストの方だそうです。でね、、、曲の冒頭いきなりチューバがずれた。…ような。ストラヴィンスキーって、ウィーンではあまり演奏しないのでしょうか?そんな事ないだろうとは思うのですが、それにしてはちょっと演奏が…音色はそりゃあ綺麗なんですけど、ピアノがずれたりとかねー。もうピアノが悪いのか指揮が悪いのか判断もつかないくらい凄い事になってました。あれはびっくりした…まさかウィーンでオケにバレエへの集中力を乱されるとは思いませんでしたよ。ダンサーたちも踊りにくかったんじゃなかろうか。

で、舞台の上についてですが、まず衣装はパリオペからのレンタルだそうです。ですからとっても美しかった。ソリストのMaria Yakovleva、Ketevan Papava、Mihail Sosnovschiはそれぞれよかったと思います。ヤコヴレワはこれを見た限りではいいダンサーだと思うな。もしかしたらサープ作品でよいと思ったのも彼女かもしれません。パリオペの「ジュエルズ」映像が頭にあると、Papavaの踊るところはジロ姉さんみたいに大きなダンサーが男性たちを従えて踊るって思っちゃうけど、そこまで大柄ではないPapavaも女王さま然りでした(でも彼女も写真だとすごく大きく見えるな…私の目がおかしいのか)。あと少しだけ押し出しが強くてもいいかもしれないな。

群舞はもう少し揃った方が好ましいとは思う。中にはまだルビーズ独特のスタイルが身についてない人がいたと思うし…でも全体には何だか可愛らしいルビーでした。ウィーンの宝石は、ニューヨークやパリ、サンクトペテルブルクとはまた違った輝きを持っているようです。

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舞台に近い最上階のボックス席から、「ルビーズ」のあと熱狂的な歓声と共に花束が舞台に投げ入れられました。それをSosnovschiくんがヤコヴレワに捧げているところ。客席大喜び。


ウィーン国立歌劇場、プログラムはいくらだったっけ…ミッテルロージェの入り口で私たちのコートを預かり席に案内してくれた方から買ったのですが、チップ込みで5ユーロ渡した(オットが)気がする。配役表もその中に挟んでありました。サイズはパリのとほぼ一緒。パリは12ユーロでしたっけ、それを考えると安くて充実してます(かわりにチケットが高かったが)。写真はそう多くなくて、情報がみっちり。各作品の振付家、作曲家、制作スタッフに至るまでそれなりにページが割かれていました。今回みたいなミックスプロだと、それだけで凄いボリュームです。

加えて、バレエの衣装を手がけたクチュリエ、という事でシャネル、ラクロワ、ディオール、サン・ローランなどの紹介もあり…。ただ、残念な事にそれらはドイツ語のみの表記なんですよね。プログラムの最後の方に日本語を含む各国語のプログラム解説はありますが…日本語なんてたった1ページだもの。


今回の公演、見てよかったなーと思うのはプログラムの妙。特にバランシン直後のサープは目から鱗でした。観光客だらけの客席に一番受けたのがフォーサイスだったっていうのもちょっと驚きでしたしね。この4つを並べて上演するカンパニーはそうはなさそうだし、いろいろ発見があって楽しかったです。これはルグリ監督のおかげですね。

微妙だったのは、やっぱりまだカンパニーとして上演の完成度がそう高くない事。2つのカンパニーが正式に一緒になって初めてのシーズンだから仕方ない面もあると思いますが、ここでルグリ先生に鍛えられてよいカンパニーになっていくと期待したいです。あと、私が見た日のメインキャストのみなさんはまだまだオーラ不足かな、という気もしました。私がダンサーの顔を知らないというのを考慮しなければいけないでしょうけどね。

それらが重なった結果、今の完成度からするとバランシン2作品を含むプロットレスバレエ4つというのはけっこうキツいかも。私は久しぶりのバレエなのでむさぼるように楽しませていただきましたが、観光のついでで来た人なんかは今後自分の国に帰ってバレエ見に行こうって思うのかなぁ、と思ったり。うちのオットも、「パキータ」の後とはテンション違ってましたし…


あ、そういえば、一番上の写真は今シーズンのスターツオーパーの緞帳。アメリカ出身の抽象画家サイ・トゥオンブリー Cy Twomblyの「Bacchus」という作品だとか。この歌劇場の緞帳は、Museum in Progressというウィーン国立歌劇場と連邦劇場ホールディング(っていうのかな、Bundestheater-Holding)のプロジェクト、Safety Curtainによって毎年選定されているそうです。

そんな事とはつゆ知らず、実物を見た時はただの落書きだと思いましたけど(笑)。この方、96年の世界文化賞絵画部門も受賞されているそうですね。


RIP

こちらの写真は翌日に撮影。歌劇場を正面から撮影しました。日本公演中に富士山で事故死されたウィーン・フィル団員のゲオルク・シュトラッカさんを悼む弔旗がかかげられていました。これを見た時はそのニュースはまだ知らず、部屋に戻ってネットニュースをチェックして初めて知ったのでした。ご冥福をお祈りします。